RPG FINAL STORY 第六話
【フェーズ ERI’s Room】
俺は、店に入る歌蓮の後ろ姿にKAHOの面影を感じた。
「シーさん……」
恵理の声で我に返った。
「もう大丈夫だから、シーさん、お店に入っていいよ」
「うん。でも恵理は?」
「私は……帰るわ」
「え、まだ苦しいのか?」
「うん、少し。それに、彼女が現れたんじゃ、私は消えるしかない」
「何言ってるんだ。俺は恵理の彼氏じゃないのか?」
「そうよ。そうだけど……」
「恵理、お前の部屋に帰ろう。送ってく」
「え、いいよ。無理しなくても」
「無理じゃない。俺が恵理と二人きりでいたいんだ」
「シーさん……」
俺は恵理を車に乗せて彼女のワンルームマンションへ向かった。
途中、コンビニでスポーツ飲料とお茶、惣菜などを買った。
恵理の部屋に入ると彼女は倒れ込むようにベッドに寝転んだ。
「大丈夫か?」
「……うん。こうしていれば、そのうちよくなると思う」
「そうか。……何か食べるか? お粥でも作ってやろうか?」
「え? シーさん、料理なんかできるの?」
「あんまり得意じゃないけど、お粥くらいなら」
「……そう。うれしいなぁ。シーさんが作ってくれるなら少し食べたい」
「わかった。ちょっと待っとけよ」
そう言って俺は、キッチンで卵がゆを作ると茶碗によそって、寝ている恵理のもとへ持ってきた。
「食べるか? 熱いぞ」
「うん。……へへ、甘えていい?」
「ん?」
「食べさせて」
「ああ、いいよ」
俺はレンゲでお粥を掬うと、ふうふう息をかけて冷まし、恵理の口元へ運んだ。
恵理は、ニコッと笑って、お粥を口にした。
「あ、熱っ。……でも美味しい」
「そうか? 恵理が喜んでくれたら俺も嬉しいよ」
「……シーさん、私、もう大丈夫だから、お店に戻って」
「何、言ってるんだ。このまま恵理を一人にしておけないだろ。ここにいるよ」
「……いいの?」
「ああ。俺がそうしたいんだ」
「シーさん……」
「だから、安心して寝ろ」
「……イヤ。もう少し食べたい」
「え、食べれるのか?」
「うん」
「じゃあ、はい」
俺が救ったお粥を口元に近づけると、
「ふうふうして」
「お前……しょうがないなぁ」
俺はまたレンゲのお粥に息を吹きかけ、それから恵理の口元へ運んだ。
「うん、美味しい。シーさんの味がする」
「バ〜カ」
「だって、ほんとにするんだもん」
「はいはい、ありがとう」
その後も俺はふうふうしながらお粥を食べさせた。
「食ったら横になれよ。俺がずっとついててやる」
「うん……」
恵理はゆっくり横になった。
「シーさん」
「ん?」
「ありがとね」
「何言ってるんだ。当たり前だろ」
「シーさん、こっち来て」
「しょうがないなぁ」
そう言って恵理に近づくと、不意に恵理は俺に抱きついて唇を重ねてきた。
「え、おい」
という暇もなく、俺はベッドの上に引きずり込まれた。
そのうち、理性がだんだん遠ざかって、恵理の唇の感触に身を委ねそうに……
と、俺は恵理から唇を離した。
恵理は、俺の顔を見つめて、また俺を抱きしめようとした。
しかし、俺はそれを拒んだ。
「やめよう」
「……どうして?」
「今の恵理は疲れてる。抱いていい時じゃない」
「……バカ。女にここまでさせて、このまま何もしない気?」
「できないよ。今の恵理は歌蓮に対抗したい気持ちなんだろ?」
「それは……。それでもいいじゃない。私が嫌いなの?」
「嫌いじゃない。大好きだよ。大好きだから、何もしないんだ」
「……シーさん。……ありがとう、そこまで私を想ってくれて。……でも、シーさんは意地悪ね」
「意地悪?」
「やさしいのは恋愛で大切なことだけど、やさしいだけなのは『罪』にもなるのよ」
「罪?」
「そうよ。……って言っても自覚ないんだもんね。……それがシーさんかぁ。わかってるんだけど、ちょっと辛いな」
「……恵理」
「……私、寝るね」
「ああ、ゆっくりおやすみ。朝までそばにいるから」
「うん。……ありがと、シーさん」
そう言うと恵理は目を閉じた。
俺は、恵理が眠るのを見届けると、ベッドの横にしゃがみ込んで今日の出来事を考えた。
歌蓮ーー
圧倒的だった。それは間違いない。ただ彼女がなぜ、『魔女』や『あなたと愛の丘で』を知っていたのか? その答えは出るはずもなかった。
恵理ーー
恵理は、歌蓮を知っていた。歌蓮も恵理を知ってるようだった。何故だ? これも答えは出ない。
俺の頭は、答えのない迷宮の中をぐるぐると彷徨い続け、やがて ……眠りに堕ちた。




