RPG FINAL STORY 第四話
【フェーズ KAREN】
九月三日、土曜日の19時。
『Here After』のステージに歌蓮が立つ時間になった。
彼女はピアノでの弾き語りをすると聞いていた。
が、ステージにはピアノの横に90度横に向けた形で一台のキーボードが置かれ、その上にコンパクトシーケンサーがセットされていた。
(一体、どんな演奏なんだ?)
俺と恵理は、一番近くの席に座って、その時を待った。
やがて彼女が現れ、ピアノの前に座ると、キーボードの上にあるシーケンサーのボタンを押した。
すると、ハードロックかヘビメタのような前奏が聞こえてきた。
それに合わせて、彼女はピアノを重ねて弾き出し、やがて歌い出した。
それは、今まで聞いたこともない曲であり、歌詞だった。
♪情報格差 利用して 世の中を操る
人の心理をついた巧妙なトリックで
次々に仕掛けるネット上の甘い罠
次々と剔った 選ばれし覇者の 報酬(get paid)
思いのままに変わっては 右往左往する(さまよう)人々を
誰も知らない場所から ひとり見つめる快感
Literacy Monster 世界中の歓喜と
Literacy Monster 世界中の悲鳴を
Literacy Monster Literacy Monster
嘲笑う暗闇の支配者
圧巻だった。
そもそも、楽曲から漂う近未来感が新しい。
ドラムとベースをしっかり打ち込んだリズムセクション、ギターはリフもリードも繊細かつ大胆に入れてある。それに生ピアノを合わせる構成、楽曲としての出来も素晴らしいが、なんと言っても、一部の隙もない完璧な歌声に魅了された。
(ウソだろ……このクオリティー)
とてもアマチュアとは思えない。
こんなに圧倒された感覚は、KAHOちゃんの歌をはじめて聴いた時以来だ。
俺がそんなことを考えていると、恵理が俺を手をギュッと握ってきた。
見ると、彼女は強張った顔をしていた。
「ん、恵理、どうした?」
と聞くと同時に、歌い終わった歌蓮が喋り出した。
「こんにちは、歌蓮です。えー、一曲目に聴いてもらったのは『Literacy Monster』っていう、昨日出来たばかりの曲です」
(え、昨日出来た曲を、もう今日のライブの一発目にやるの?)
そう思っていると、
「実は、なかなか一曲目に使える曲がなくて、ずっと考えてたんですけど、夢の中でこのサビのメロディーを聞いたんです。だから、自分が創った曲だけど、自分が創った曲じゃない感じがしてます。でも、そんな曲が私にはたくさんあるんです」
彼女はそう喋った。
と、
「……今のは、シーさんが書いた曲」
不意に恵理がそう言った。
「え? 俺、あんな曲、書いたことないよ」
「あ、ごめん。私も夢見たんだ。シーさんがこの歌、歌ってた」
「いつ?」
「いつだったかなぁ。でも、シーさんが歌ってた」
「俺、そんな話、聞いてないよ」
「うん、私も忘れてた。でも、今の彼女の歌と話を聞いて思いだした。あれは確かに、シーさんの歌」
「ますます、わけがわからないな」
彼女の次の曲が始まった。
『Chronos Ruler』という曲だった。
恵理の顔は一段と蒼くなった。
「これも、シーさんの……。そして次は、きっと『Rebellion』」
「『Rebellion』?」
「そう」
恵理の言うとおり、その次に歌蓮は『Rebellion』というオリジナルを歌った。
「……あの子、全てシーさんの歌を歌うつもりね」
「え、いや、俺はどの曲も知らない。初めて聴いた曲ばかりだ」
「いいえ、シーさん。これは全てあなたの中に眠っている曲なの」
「……わからんなぁ」
「わからなくていい。でも、こんなことしたら歴史が変わってしまう。あの子、わかってやってるのかしら?」
「恵理が言いたいことはわからないけど、一つだけわかったことがある」
「何?」
「恵理の言うとおり、俺は彼女に惹かれた」
「そう。……そうよね。これだけあなたの中にあるものを歌ってるんだから当然よね」
「そう、歌には心を奪われたよ。でも、それだけだ。好きになったりはしない」
「そうかしら?」
「え?」
「最後まで彼女の歌を聴いても、そう言えるかしら?」
歌蓮は最後にこの歌を歌い出した。
『alternate reality』
♪目に見えるものが 全て真実なら
あの日のことは遠い幻
重なるくちびる 甘い吐息
目の前のあなたは本当のあなた?
鏡に映る私は本当の私?
alternate reality 入れ替わる現実と虚構
流れる時を未来が飲み込むのなら
消えない過去を今、この手で塗り替える……
(確かに歌蓮はすごい。彼女の世界にどんどん引き込まれる。でも……)
歌い終えて歌蓮はステージから下がった。
「……何も変わらないよ」
「まだ、終わってないよ」
と、客席からアンコールが起こった。
そして、再び出てきた歌蓮はアコースティックギターを持っていた。
そして、こう喋り出した。
「えー、アンコールありがとうございます。ここまで私の作った曲を聴いてもらいましたが、最後は私の大切な人が作った曲を歌いたいと思います。聴いてください『Witch』」
(……『Witch』?知らないなぁ)
と、彼女が弾き出した前奏に聴き覚えがあった。
「これは……」
♪魔法の鏡を覗いたら あなたの心は映るかしら〜
驚いた俺は恵理の顔を見た。
恵理は表情を変えずにポツリと言った。
「……そう、KAHOさんの『魔女』」
「恵理、知っていたのか?」
「ええ、夢の中で見たとおりだから」
「夢の中で?」
「そして、シーさんは彼女に夢中になった」
「いや、それ夢の話だろ? 俺は彼女を好きになったりしない」
「そう? ほんとにそう言い切れる? 今の彼女の曲を聴いても」
♪いつも気のないふりして見つめてた
だけど心は叫ぶの
あなたの愛がほしい
あなたに愛されたい
今宵、魔女になるわ 魅惑の瞳で
あなたに魔法をかけてあげる
(KAHOちゃんと同じ声だ……)
俺の反応を見た恵理は、急に全身の力が抜けたように俺にもたれかかった。
「恵理!」
(こりゃ、まずい)
俺は恵理を外へ連れ出した。
そして店の前にあるテラス席に座らせ、落ち着くよう声をかけた。
恵理は言葉も発せないほど、憔悴した顔をしていた。
しばらくの間、俺は恵理の横で、彼女の手を握りながら見守っていた。




