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「RPGパラレル・パラドックス」  作者: しんTAKA


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RPG FINAL STORY 第二話

【フェーズ ERI&TAKASHI2】


ある夜、俺は恵理と打ち合わせのため、Here Afterにやってきた。

先に来ていた彼女はカウンターでぼんやりしていた。

注文したアイスティーはストローの袋もそのまま。

ただ氷だけが少しずつ溶けていた。


俺はマスターに恵理を同じ飲み物を頼むと、彼女に声をかけた。


「また新しい歌のこと、考えてるの?」


俺の問いに、恵理は顔を上げないまま、消え入りそうな声で言った。


「みんな、あの歌を求めてるんだよね。でも……私、もう二度とあんな歌、書ける気がしない」

「そう。まぁ、でも、そんな歌があるだけすごいことだけどね」

「それは、そうだけど……。はぁ、やっぱりダメ」


突っ伏したまま動かない恵理を見て、今の彼女の心理状態がわかった。

俺は、どうしたらいいか、迷ったが、ふと、自分の作詞ノートを持ってきていることに気づいて、彼女に見せてみた。


「へぇ、崇さん、綺麗な字書くんだ。意外。しかも万年筆使ってる」

「意外は失礼だろ。万年筆を使ってるのは、間違っても消さないようにするためなんだ」

「消さないようにするため?」

「そう、何を考えてこの言葉を選択したか忘れないため。それに、その詩には使えなくても、他の詩で使えるかもしれないからね」

「なるほど」

「そう、そうした方がいいよって、高校の同級生の子がくれた……。……いや、自分で買ったんだ」

「え、どういうこと?」

「いやぁ、なんか、同級生の子がくれたような気がしたんだけど、よく考えたらショッピングモールの文房具コーナーでカートリッジ万年筆を見つけて、これ使えるって思ったんだった」

「へんなの。本当は誰かに貰ったんじゃないの? 私に気をつかってる?」

「……いや、そんなことは……ない。……うん、自分で買ったんだ。間違いない」

「そう、じゃ、そういうことにしといてあげる」


恵理はまたノートに目を落とした。

そこには、俺が日々、気に留めた言葉をまとめた歌詞やその断片があった。

恵理はその中から一つの詩に目を留めた。


「モノクロームの君」


愛してた あの季節

もう今は 君が過去にいる

影映す 心の奥

モノクロームで君が微笑わらう

 君が選んだ幸せに

 僕が何を言えるだろう

 愛し合うもの同士が

 一緒になるのが一番いいのさ

 君が選んだ幸せは

 だけど僕には悲しいね

 独りよがりをしたくなるよ

 独りよがりをしたくなるよ



『愛してた あの季節……』


恵理はゆっくりと顔を上げて俺を見た。


「崇さんの歌……すごく、独りよがりだね」

「ん? うん……。本当にそうかな?」

「え?」


と恵理はもう一度、俺の詩を読んで、


「あ、独りよがりにもなれていないのか……。そっか、そういうことか」

「そうだね。でも、こうしか書けない。それが俺なんだ」

「……いいなぁ。私も、そんなふうに……『それが私』って言える歌、書けたらなぁ」


彼女はそう言うと、ストローの袋を破って取り出し、アイスティーに刺した。

そしてストローの蛇腹の部分の下を左に曲げ、その少し上をもう一度右に捻った。

不自然に歪んだその形を見つめて、俺は思わず声をかけた。


「恵理、ストローをそんなふうに曲げるんだ」

「あ、これ? 私のクセなの。人と少し違うことしちゃうのよね」


彼女は小さく自嘲して、その歪んだストローから冷めた液体を一口啜った。

俺は自分でもやってみようと思い、ストローを曲げた。

すると、


「崇さん、真似したなぁ。でもちょっと違う。いい」


と恵理は俺の手を取りながら、


「こうやって、それからこう。 崇さん、反対にやってたから。ちゃんと覚えてね」


そう微笑んだ。


「恵理、……俺、思ったんだけど、このストローみたいな歌書いたらいいんじゃないかな?」

「へ? ストロー?」

「そう。こんな捻じ曲がったストローで飲み込む言葉が恵理の中でどんな化学変化を起こすのか、そんな考え方ってできないかな?」

「……そっか。う〜んでも、『パラプレ』よりもっと曲げてしまうと……」

「そうじゃなくて、あるもの、このアイスティーでもグラスでもなんでもいい。恵理の感覚でほんの少しだけ捻じ曲げてみる。 

例えば、

「退屈な愛を見つめるあなたの目」みたいなフレーズがあったらさ、

「何を見つめる、あなた。退屈」みたいに、崩してみるとか。

置き換えたり、順番を変えたりして、言葉遊びしてみるのはどう?



恵理は、自分が捻じ曲げたストローと俺の言った言葉を交互に見つめた。

恵理はまたノートをめくった。


「やっぱり崇さんの字って綺麗よね。昔から綺麗だったの?」

「いや、高校入った頃は全然。かなり下手だったよ。でも……」

「でも?」

「……昔、綺麗な文字を書く子がいてね、少し真似してた時期があったんだ。そしたらだんだんこんな文字になった」

「ふ〜ん。それって、この詩の相手とか?」


恵理は、『初恋』と書かれた俺の詩を指差した。



「初恋」


あどけない笑顔で 僕を見つめ

優しく話しかけてくれた あの日の君

そんな君に いつか僕は 

初めてのトキメキ 感じていた

 ゆらゆら揺れる想い迷路

 口にするだけで壊れそうな愛

ああ一度だけでも この腕の中に

熱く抱きしめたいと 遠くで君を見つめてた


「おー、恵理ちゃん、さすが鋭いね。そう、その『初恋』の相手のことだよ」

「やっぱり……。そうだと思った。でも、この詩、ずいぶん野暮ったいというかピュアよね。ねぇ、どんな初恋だったの?」

「え? それ聞く?」

「聞く聞く!」

「あー。……まぁ、いいか。あれは俺が高校一年の時だったなぁ……」


それから俺は、みゆきとの出会いと結末を恵理に話した。

すると恵理は急に怒りだして、


「なんでそんなひどい女に恋したの? 私っていうものが未来で待ってるというのに」

「え? そんなこと言われても」

「崇さん、今でもどこかで、その人のこと、抱えてるでしょ?」

「……んー、まぁ、強烈な思い出だから何もないと言えば嘘になるな」

「許せないなぁ。ちょっと妬けるし……」


恵理はそう言いながら、さらにノートをめくった。


「ねえ、この『終止符』っていうのは?」

「え、『終止符』? ……ああ、高校の時の同級生の女の子が書いてくれた詩だよ。自分の失恋のことを書いたんだ」

「そうなんだ。でも、最後は前向きな感じになってるね」

「ああ、ラスサビのこと? それは俺が付け足したんだ」

「え、付け足したの?」

「そう。一番と二番の終わりのコード見て。B♭メジャーの曲なのに、Gmで終わってるでしょ」

「うん。マイナーで終わってる」

「マイナーで終わったら、本当に彼女が立ち直れなくなりそうな気がしたんで、メジャーコードで終われるように歌詞を書き加えたんだ」

「そんなことして、この詩を書いた子に怒られなかった? 『著作権侵害よ』とか」

「ハハ、全然。むしろ、『この歌詞で前向きになれた』って涙流して喜んでくれた」

「え、泣いたの?」

「うん、俺もびっくりした。でも、それだけの思いがあったんだよ彩乃には……  ん? 彩乃……」

「どうしたの?」

「いや、なんか他に思い出がある気がしたんだけど、付き合ったわけでもないし、気のせいかな?」

「え〜、本当に付き合ってないの?」

「どうして?」

「だって、泣いたんでしょ。絶対、その子も崇さんのこと好きだったと思うよ。その子にはなんて呼ばれてたの?」

「『安岡君』だよ。あ、でも、大学のころは『崇君』って呼ばれてた気がするなぁ」

「崇君……か」

「崇君…… 夏祭りの花火…… 山峰公園…… 福仲先生…… う〜ん」

「何? 何か思い出した?」

「いや、彩乃がいたと思うんだけど、山峰公園に行った気がするんだよね。何故かそこで高校の時の英語の先生に会った気がするんだけど。……思い出せない」

「なんでそんなところで高校の先生に会うのよ。夢でも見たんじゃない?」

「ああ、そうだよな。そんなところに高校の先生いるわけないもんな。きっと夢だ。俺、よくいろんな夢見るから」

「きっと、そうよ。でも、みんな、崇さんのこと、それぞれの呼び方があるんだね。なんか妬けちゃうな。私も何か違う呼び方したい。ん……そうだ、『カシさん』ってどう?」

「へ? カシさん?」

「そう。もともと、タカシさんってタのところ、あんまり発音してなかったから」

「まぁ、なんでもいいよ。恵理の呼びやすい呼び方で」

「うん、じゃあ、カシさん。……て、んー、やっぱり少し変だな。……カシさん、カシさん、……シーさん! そうだ、シーさんにする」

「お、なんか呼ばれたことない呼び方。ちょっと嬉しいかも」

「ほんと?よかったぁ。じゃあ、シーさんにするね」


恵理は俺に抱きついて笑った。

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