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「RPGパラレル・パラドックス」  作者: しんTAKA


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RPG FINAL STORY 第一話

【フェーズ ERI&TAKASHI1】


俺は大学を出てダイコー精密機械という会社に就職した。

五年目の今は、品質管理課で働いている。二十六歳。誕生日がくれば二十七だ。

主に開発製品の実験を行なっての評価を受け持っている。


恵理は営業部に入って二年目の子。今年、二十四歳。


ある日、ライブハウス『Here After』の看板を見つけ、フラッと入ると、見たことのある子がステージで歌っていた。


(あの子、確か営業部の……)



♪『パラドックス・プレイス』/ERI


誰もいない真夜中の街 ひとり佇む私の

周りの景色が一瞬 歪んで元に戻った

そうここは元の世界と 見た目は同じだけど

全く異なる世界 あなたがいる

いるはずのないあなたが 今 目の前にいる

パラレルワールド ここは夢の並行世界

パラドックス・プレイス ここは矛盾が当たり前


パラレル・ワールド 幸せの並行世界

パラドックス・プレイス ここは夢と現実が行き交う場所



いきなりこの曲を聴いてKAHOちゃんの時のような衝撃を受けた。

KAHOちゃんとは違うけど、俺の中に新しい風が吹いた気がした。

ライブの後、


「立山さん、こんにちは」

「あ、品質管理課の安岡さんじゃないですか。どうしたんですか?」

「いや、自分も昔からギター弾くんで、面白そうなライブ喫茶があると思って入ったら、立山さんが歌ってて、びっくりしました。すごくいい演奏でしたよ」

「あ、安岡さんも楽器されるんですか? 知らなかったな。じゃ、もっと早く誘えばよかった」


気軽に話す彼女に俺は、


「なんか、仕事の時とイメージ違うね」

「そうですか? まぁ、そうかな。仕事中は営業用の顔させてもらってます」

「へぇ、じゃあ、今の立山さんが本当の立山さん?」

「どっちも本当の立山です。でも、」

「ん?」

「ここは仕事場じゃないので、立山さんって呼ばれるとなんか恥ずかしい」

「そう言われてもなぁ」

「恵理って呼んでください。あ、もちろんここだけで、ですよ。仕事場ではダメです」

「はいはい、じゃあ、恵理さん」

「恵理ちゃんでいいです」

「わかった。恵理ちゃんって呼ぶよ」

「それでいいです」

「じゃあ、俺のことは『崇ちゃん』って呼んでもらおうっかな?」

「えー、無理。『崇さん』にさせてください」

「冗談、冗談。『安岡さん』でいいよ」

「いえ、もし、嫌でなければ『崇さん』と呼ばせてください」

「そりゃいいけど、なんかちょっとくすぐったいな」

「え、そんなことで照れるんですか? 崇さん、結構、純なんですね」

「純?……どっかで聞いたような」

「あ。まぁ、それより、私の演奏どうでした?」

「ああ、すごくよかったよ。そうそう、『パラドックス・プレイス』の弾き方って変わった感じだったよね。あれ、どうやってるの?」


彼女はギターを取り出して、前奏を弾きながら指の動きを見せてくれた。


「わ、オープンハイコードとか使ってテンションつけてるんだ。だから、あんな不思議な感じになるんだね」

「そうですか? この歌、生まれて初めて作ったんですけど、思いついたときに、ダウンストロークしかできなくて、適当に弾いてたらなんか雰囲気が良かったので、こんな感じになりました」

「え、これ、適当なの?」

「そうですよ。私、コードのこともよくわかってないので」

「いや、立山さん……じゃなかった恵理ちゃん、天才だね。このコード進行、初心者じゃ思いつかないよ」

「そうなんですかね? コードこれでいいんですか?」

「『これで』じゃなくて、『これだから』いいんだよ。G調だけど、テンションコード使ってるし、違和感なく不思議な世界に巻き込んでくれる感じがよくできてるね」

「そうなんですか? 崇さん、コード詳しいんですね。良かったら教えてもらえませんか?」

「いいよ。っていうか、この曲だったら、一緒にリードとか弾きたくなるね」

「え、ほんとですか? じゃあ、一緒にやりませんか?」

「え。いいの? 嬉しいな。やるよ。ぜひ、やらせてください」

「こちらこそです」


彼女は右手を出した。


「握手!」


と彼女が言うので、俺はそのまましっかり彼女の手を握った。


「あっ」

「うん、何?」

「いえ、なんでもないです。崇さん、これからもヨロシクお願いします」

「こちらこそ、ヨロシクな」


俺たちはその日から一緒にギターを弾くようになった。



ある日の練習中、俺は恵理が教えてくれた「パラドックス・プレイス」のコードを弾きながら、


♪「誰もいない真夜中の街 ひとり佇む私は 寒くて景色がはくしょんと歪んで風邪ひいた」


と歌った。

恵理は飲んでたアイスティーを吹き出して、


「え、なんですか、それ、ひど〜い。でも、おもしろ〜い」

「面白いよね? これ思いついた時、すぐ聴かせてやろうと思ったんだ」

「あー、そういうところ、崇さんありますよね」


その頃、彼女は俺のことを崇さんと呼んでいた。

恵理はこのことを自分のライブで、


「最近、こんなこと言う人がいるんですよ、私の歌を使って。ね、ひどいでしょ?」


と言いながら、


「はっきり言って、今、私の横でリードギター弾いてる人です」


と、しっかり俺をトークの笑いに使った。



それからしばらく経ってその日は恵理とのライブがある日になった。

俺は楽屋に向かいながら、

(今日は、どんな展開になるかな)

なんて考えていると、楽屋から走って出てきた男と肩がぶつかった。

「痛てっ」

俺は声をあげたが、男は振り返りもせず、走っていった。

(すいませんくらい言えよ)

と思ったが、追いかけるほどでもないと思い、楽屋に入った。

と、ソファに座って泣いている恵理が見えた。


「どうした、何かあったのか?」

「いえ、何も……」


見ると、楽譜がフロアに散らばっていて、恵理の胸元のボタンも外れかかっていた。


(さっき、出て行ったあいつか)


俺は咄嗟に、追いかけようとしたが、


「大丈夫です。何もされてませんから行かないでください!」

「いや、でも……」

「お願いです。崇さん、ここにいて」

「……わかったよ。大丈夫……なんだな?」


恵理はコクンと頷いた。そして、俺の手を握りながら、


「ごめんなさい。しばらく手を握らせておいてください」


と言った。震える恵理の手を俺は握り返しながら


「ああ、いいよ。安心して握ってろよ」


と言った。

しばらく、そのままだったが、ようやく息を落ち着かせた恵理は、


「崇さん、私と付き合ってください」


と言った。


「え、いや、それは」

「ダメですか?」

「それは、ダメだよ。よくない」

「どうしてですか?」

「よくない。俺、昔、一緒にギター弾いてた子がいるって言っただろ?」

「ああ、KAHOさんとかいう人?」

「そう。彼女を好きになったけど、音楽が一緒にできなくなるのが怖くて好きだって言えなかったって」

「ええ、聞いたことあります」

「だから、今度、そういうことがあったら絶対、自分から告るって」

「え、それって、まさか……」

「そうだよ。恵理のことだよ」

「ごめんさない。無理です。『真夜中 ひとり立ち尽くして 風邪ひいた』なんていう人、好きになれません」

「え。いや、あの……だって今」

「だって、女の子に『付き合ってください』って言われてから、そんなこと言うなんて許せないですよ」

「え、いや、それは、その……」

「なあんて、ウソです。ありがとう崇さん。嬉しいです。私、崇さんのこと、ずっと好きでしたよ」

「え、ずっとって?」

「最初にライブに来てくれたとき、なんかお父さんに似てる人がいるなぁって。どこかでみたことがあると思ったら、崇さんだった。いつも仕事だと会社の制服のイメージしかなかったから気づかなかったけど、私服で座ってるの見た時、お父さんが見に来たのかって一瞬思ったの」

「え、俺、そんなに老けてるかなぁ?」

「だから、お父さんが若くなった感じで」

「いやいや、いいよ、思ったままで」

「それで、なんか変に意識してたら、『恵理ちゃん、弾き方教えて』って言われて、『一緒にギター弾こう』ってなって、握手したでしょ?」

「うん、した。急に握手なんて言うから、ちょっとびっくりしたけど」

「で、握手したら、崇さんの手、お父さんとおんなじ温かさだったの」

「だから、好きになった……?」

「だからかどうかはわからないけど、それから崇さんといろいろ音楽やっているうちに自分の感性と合うなと思うようになって、気づいたら好きになってました」

「俺も、KAHOちゃんとは違うけど、恵理ちゃんといると、新しい自分を見つけることができる気がしたし、君にも新しい君を見つけさせてあげられると思ったんだ」

「そうだったんですね。じゃ、新しいあなたと私を一緒に見つけましょう。よろしくお願いします」

「よろしくって何を?」

「だから、新しいあなたと私」

「新しい……ね」


俺は、勝手に想像して少し赤くなっていた。


「あれ、崇さん、なんで赤くなってるんですか?もしかして、Hなこと考えたんでしょ?」

「い、いや、そんなわけ……、ちょっとだけね」

「もう、そんなとこもお父さんに似てる。ハハハ」

「そうなの?喜んでいいのか、悪いのか」

「いいじゃないですか。私と付き合えるんですよ。ね?」

「ああ、そうだな。でも、恵理ちゃん、恵理って、こんな感じなの?」

「いやぁ、そうでもないはずなんだけど、今日はなんかこんな感じになっちゃいました」

「……これから大丈夫かなぁ?」

「嫌なんですか?」

「いいや、嫌じゃない、嫌じゃない。大好きです」

「うん、よろしい」


と俺たちはここで本当に笑い合った。

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