RPGセカンドストーリー 第十八話
【フェーズ Love Romance?3】
「崇君、先にシャワー浴びてきたら? 私、化粧落とすし」
「え、彩乃、化粧してるの?」
「してるわよ。見たらわかるでしょ」
「いや、素顔かと思った」
「ふふ、素顔メイクよ。洗顔とかするから、先にシャワー浴びてね。私、あとで入るから」
「あとでって、一緒に入ってくるってこと?」
「バカ!」
「あ、先に済ませます」
俺は促されるまま、バスルームに入った。
二人でゆっくり入れそうな大きなバスタブがあった。
が、一人で入るには広すぎる。ゆったりはできるけど、お湯を溜めるのも時間がかかりそう。
俺はシャワーを浴びて、ホテル備え付けの浴衣に着替えて出た。
「じゃあ、私、入ってくるね」
「ああ、ゆっくりでいいよ」
「ふふ、ありがと」
そう言って彩乃はバスルームに消えた。
ベッドに腰掛けると、目の前にあったテーブルに缶ビールが二本置いてあった。
(あー、彩乃が置いてくれたんだ。先に飲んで待っててってことかな? 待てよ。二本あるってことは、自分が出てから、一緒に飲もうってことかもしれない)
俺は頭の中でぐるぐる思いを巡らせたが、今は飲まないことにした。
(出てきて、『先に飲んでてよかったのに』って言われるのはいいけど、『えー、先に飲んじゃったの?』って言われるのは最悪だからな)
俺は、車から持ってきた音楽プレーヤーのイヤホンを耳につけ、さっきの曲の続きを聴いた。
(彩乃が出てきたら、一緒に聴こう)
しばらくして、ガチャっとバスルームの扉が開いた。
お揃いの浴衣に着替えた彩乃が頭にバスタオルを巻いて出てきた。
俺は、音楽の停止ボタンを押し、イヤホンを外した。
「崇君、お待たせ」
と、彩乃はテーブルの缶ビールを見て、
「あ、崇君、気が利く。なんか飲みたいと思ってたのよ。用意してくれたのね。ありがとう」
「え? いや、これは彩乃が……」
「そう、私、この会社のビール大好きなの。よくわかったわね」
「あ、いや、まぁ、なんとなく……」
彩乃は缶ビールを手に取り、蓋を開けると、
「崇君も、ほら、蓋空けて」
「あ、ああ」
俺が慌てて蓋を開けると、
「じゃ、カンパーイ!」
と勝手に俺の缶ビールに自分の缶をタッチして、一気に飲み出した。
俺は、呆気に取られて彩乃を見た。
「はぁ、美味しい。……あれ、崇君、飲まないの?」
「彩乃、強いんだね」
「あ、ごめん。実は私、結構、飲めるんだ。崇君は?」
「あんまり、強くないかな」
「でも、少しは飲めるでしょ?」
「ま、まぁ」
と言って、俺はビールを一口飲んだ。
(確かにひと口目は美味い)
「なんだ、普通に飲めるじゃない。じゃ、またカンパーイ」
「カンパーイ」
俺はふた口目を飲んだ。
(いつも思うけど、なんで、ふた口目は苦いんだ?)
そう思ったが、そんなことは口には出さない。
彩乃はご機嫌な顔をして飲んでいる。
「あ、崇君、音楽プレーヤー、車から持ってきたんだ。さっきの続き聴かせて」
「あ、ああ。そうそう。彩乃がバスルームから出てきたら一緒に聴こうと思ってたんだ」
俺は、イヤホンの片側を彩乃に渡した。彩乃はそれを左耳につけた。
残ったもう片側のイヤホンを俺は右耳につけ、再生ボタンを押そうとした。
「待って」
「え、このまま聴くのもいいけど、せっかくベッドがあるんだから、そこで横になって聴かない?」
「え、ベッドで?」
そうだった。
音楽のことばっかり考えてたけど、ここはラブホ。
彩乃と二人きり。
彩乃がベッドに誘ってる。
俺はまたドキドキが大きくなった。
「ああ、まぁ、いいけど」
「じゃ、決まり」
そう言って、一旦、イヤホンを外して、二人でベッドの上に横になると、再び、さっきと同じようにイヤホンをつけた。
俺と彩乃は、ホテルの白い天井を見ながら、曲を聴き始めた。
「あ、このギターのイントロ、変わった感じだね。なんの曲?」
「なんでしょう?」
「意地悪ね。まぁ、聴いてみてってことか」
ボーカルの声が聴こえ出すと、
「あ、KAHOさんの声だ」
「これが、『魔女』 彼女がプロにならないかって誘われた曲」
「ああ、だから、あんな怪しげなイントロなんだね」
「彼女が自分で考えたんだって。十七歳の時に」
「へぇ、やっぱり才能ある人は違うね」
「ああ、俺もそう思った。でも本人はそう思わなかったみたいだけどね」
「え、どういうこと?」
「そんな意識して作ったわけじゃないって」
「ん?」
「ただ自分の感情のままに書いただけなのに、勝手に音楽が一人歩きしちゃっただけ。最初は嬉しかったけど、彼女自身が褒められてるんじゃなくて、たまたまできた曲が褒められてるだけだって気づいたって」
「それ、普通のことなんじゃないの?」
「そう。まぁ、一般的にそこまで行ける人も少ないんだけどね。でも、彼女は考えすぎちゃったんだ。まぁ、歌を創る者にはよくあること。だから書くのが嫌になって、大学に入る頃は音楽に冷めてたって言ってた」
「そうなんだ」
「うん。でも、俺と知り合って、『モラトリアム』の演奏を聴いてもらう機会があって、その時、またやってみようって思えたって言ってくれたんだ」
「……ふふ、崇君、うれしそう」
「ああ、うれしかったよ。夏のライブも、秋の学祭もすげー楽しかった」
「そうなんだ。いいなぁ、私も見に行きたいな」
「ああ、今度、おいでよ」
「ほんと? 絶対よ」
「ああ、約束する」
彩乃は小指を出して、俺と指切りをした。
それから、次々といろんな曲が流れるたび、その曲についての解説をした。
彩乃は説明のたび、頷きながら曲を聴いていた。
「崇君は幸せね。 こんなにいろんな人と関われて、新しい音楽、ううん、新しい自分にめぐりあえて。そんな経験、なかなかできないわよ」
「……」
「ん? 崇君?」
「……スー……」
「え、寝ちゃったの? ウソでしょ。ちょっと崇君、崇君」
彩乃が俺を揺する感覚を微かに感じたが、俺はぼーっと意識が遠ざかって、そのまま眠りに落ちた。




