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「RPGパラレル・パラドックス」  作者: しんTAKA


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RPGセカンドストーリー 第十五話

【フェーズ Night Drive3】


俺と彩乃は先生にかける言葉がなかった。気まずい空気が車の中を漂った。

俺はふと、思い出してポータブル音楽プレーヤーを車のステレオに繋いで曲を流し始めた。

ピアノのイントロが聞こえると、

彩乃がびっくりして、


「崇君、これ、『終止符』?」


と、後部座席の福仲先生も、

「何? 安岡君の新曲?」


と聞いてきた。


「あ、でも今、かけるのは良くないか」


俺は慌てて再生を停止した。


「えー、止めるの? 聴きたい。安岡君の新曲なんでしょ?」

「新曲というか、高三の時に創った曲なんですけど、彩乃が書いた詩なんです。でも今流すのは、ねえ」


と彩乃を見ると、


「いや、流して。こんなのあるんだったら、もっと早く教えてくれたらよかったのに」

「え、いいの?」

「いいよ。福仲先生にも聴いてもらいましょ。でも」

「でも?」

「これ、キーが違うね?」

「ああ、これは女の子に頼んで歌ってもらったから、その子に合わせてキーを変えたんだ」

「ふーん、女の子に歌ってもらったの?」


彩乃は少し不機嫌な顔をした。


「大学の音楽サークルの部室の機材使って録音したんだ。去年の5月くらいだったかな」

「わかった。もう説明はいいから流して」

「わかったよ。じゃ、先生、流すので聴いてください」


俺はまた再生ボタンを押した。


ピアノのイントロが終わると、


♪もうあなたを愛せない

今の私にはもう何も……


と女性ボーカルの声が聞こえてきた。

彩乃はまたびっくりして、


「この子、歌上手い。プロみたい」

「この声がKAHOちゃんだよ」

「えー、これが崇君と一緒にギター弾いてる子なの? こんなに上手いんだ」


後ろで福仲先生も、


「わぁ、ほんとプロみたい」


と言って、その声に聴き入っていた。


♪あの子と歩くあなたを見た時

それでも信じたいと思った

私の冗談に優しく笑ってくれるあなたの笑顔を

今 この恋の終りを告げる音が

静かに聞こえてくる

今 そうよ今 この恋の終止符


「このピアノは崇君が弾いてるの?」

「いや、これはなおこちゃんだよ。俺はギターとハモリ。ハモリはのっこちゃんのハモリを俺なりにアレンジしてみた」

「そうなんだ。のっこ喜ぶよ、きっと」

「そうだといいけど」

「安岡君、大学でも音楽続けてるんだね。良かった」

「はい、音楽しかできないですから」


車の中はいつの間にか、俺の音楽の話になり、空気が変わった。

やがて『終止符』のラスサビが流れ出した。


♪そして今 恋は思い出に変わるの

私はそれを胸に抱いて

今 そうよ今 未来へと旅立つの……


「……『恋は思い出に変わるの』かぁ。三井さん、素敵な詩を書くのね」

「あ、いや、この最後のサビは私が書いたんじゃないんです。崇君が書きたしてくれたんです」

「え、そうなの?」

「はい。私、高二の時に失恋して、そのことをこの詩に書いたんですけど、『そうよ今 この恋の終止符』としか書けなかったんです。それでも曲になったらうれしいなって思って、彼に詩を渡したら、ラストに『未来へと旅立つの』って前向きな言葉を追加してくれて、それ聴いて、私、泣いちゃったんです」

「え、泣いちゃったの?」

「はい。もう立ち直れないと思って書いた詩だったけど、ラスサビ一つでこんなに前向きな気持ちになれるんだと思ったら自然に涙が出てました」

「そうなんだ。やっぱり安岡君、さすがね。女の子を立ち直らせるなんて」

「いや、そんな」


俺は照れたように言った。

すると彩乃が、


「だから先生もこの歌のように未来を向いてください」

「え?」

「私だって、立ち直れたんです。先生だって立ち直れますよね?」

「三井さん、あなた、それでこの歌を私に聴かせてくれたの?」

「崇君がこの曲、録音してるなんて知らなかったから、そんなこと考えもしなかったけど、さっき、チラッとこの曲がかかった時に昔の私を思い出して、きっと先生もこの歌聴いたら元気になれると思ったんです」

「あ、それで流していいって言ったのか」


俺は今更ながら、彩乃のスゴさを思い知った。


「安岡君、この曲、私にもコピーしてくれない?」

「いいですよ。てか、CDでいいんなら、予備持ってるんで、持っていってください。彩乃、ダッシュボードの中に二、三枚CDがあるから、一つ、先生に渡して」

「えー、私にはくれないの?」

「元々、彩乃に渡そうと思って持ってきたんだからあるよ」

「やったぁ」


彩乃はダッシュボードの中からCDを二枚取り出して、一つを福仲先生に渡した。

「ありがとう。これで私も前を向けるかな?」

「向けますよ。私が向けたんですから」

「そうね。こんなダメ先生にここまでしてくれてありがとう」

「先生はダメ先生じゃないです。俺たちの憧れです。な、彩乃」

「はい、憧れです」


福仲先生はまた泣き出した。


「私、教師続けていいかなぁ」

「もちろんですよ。な、彩乃」

「うん。先生、先生にはこうして慕ってくれるかわいい卒業生がいるんですから、忘れないでくださいね」

「おい、自分でかわいいって言うな」

「あら、かわいくないって言うの?」

「いや、そういう意味じゃなく……」

「じゃ、どういう意味?」

「はいはい、わかったから、二人とも、もうやめて」

「あ、すみません」

「すみません」

「今後のことはじっくり考えて結論出すわ。でも、結論が出るまでは教師をやめない」

「お、やったぁ」

「そうです。先生、頑張ってください」


俺と彩乃がそういうと、福仲先生はやっと笑顔を見せてくれた。


「あ、その角でいいわ。 隣にタクシー会社あるし、あなたたちも早く帰らないといけないでしょ」

「いえ、先生のマンションまで送ります」

「いいえ、そこでいい。あなたたち二十歳とはいえ、まだ親の世話になっている身なんですからね。先生としては早めに帰す責任があります」

「え、そんなぁ」

「言うとおりにしなさい」

「は〜い。先生、急に厳しくなるんだもんな」


俺は、仕方なく、駐車灯をつけて、タクシー会社の横に車を停めた。


「安岡君、三井さん、今日はありがとうね。安岡君、さっきはあんなこと言ったけど、あなたと三井さん、とってもお似合いよ」

「へ?あんなことって」


彩乃は俺の方を見た。


「いや、高校の時は彩乃と俺が付き合うとは思えなかったってこと」

「……そう? まぁ、そうか。ふふ、先生、私、崇君、あ、安岡君と知り合えてほんとに良かったと思ってます」

「ふふふ、そうね。それは、あなたの顔を見てたら、よくわかるわ」


先生は後部ドアを開けて、外に出た。


「二人とも、ほんとにありがとう。安岡君、三井さんをしっかり送って行ってね」

「わかってます」

「あと、このCDもありがとう」

「あ、それ、『紲』も再録したやつが入っているし、大学で先輩とやってるバンドの曲、さっきのKAHOちゃんの曲なんかも入ってますから、よかったら聴いてください」

「そう、わかった。楽しみに聴くわ。じゃあね。気をつけて帰るのよ」

「はい、失礼します」

「失礼します」


俺と彩乃は先生に手を振った。

俺は右ウインカーを出して発車させた。

バックミラーに手を振る先生の姿が見えた。

彩乃はしばらく、先生の方を向いたままだった。

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