RPGセカンドストーリー 第十四話
【フェーズ Night Drive2】
「あの、すみません……」
四十前後といった感じの男だった。
俺と彩乃は身構えた。
しかし、黙ったままというわけにもいかない。
俺は恐る恐る、返事をした。
「何でしょう?」
「あの、あっちにいる女性、麓のタクシー拾えるところまで車に乗せてやってもらえませんか? 私、帰るんで」
「へ?」
「いや、見ての通り、喧嘩になっちゃって、一緒に帰りたくないって言うんでね。このまま一人にしておくわけにもいかないし、申し訳ないが、乗せてやってほしいんですよ。もちろん、お車代は出しますから」
と男は財布から一万円札を出して、俺に渡そうとした。
俺は、カッと頭にきて、
「なに、言っ――」
「なに、言ってるのよ。あんた」
俺の言葉をひったくるように、彩乃が大きな声を出した。
男はびっくりして、
「あ、足りません?」
と、もう一枚、お札を出そうとした。
「そうじゃない。何で彼女をほっといて帰ろうとするの? どんな理由で、どんな喧嘩をしたか知らないけど、それはやっちゃいけないこと」
男はようやく彩乃が怒っている理由を理解したようで、
「はぁ、そうなんですが、私が何を言っても麻菜美……、いえ彼女が一緒に帰るのは嫌だって言うもんで」
「え、マナミ?」
俺がその言葉に気を取られてると、
「崇君、彼女のところに行って」
「え?」
「この人とは、私が話をつける。だから崇君は彼女を」
「わかった」
俺は彩乃の言う通り、女の前に向かった。
(マナミって、まさかな……。 どうか違う人でありますように)
近くまで来ると、女性の顔がだんだんとはっきり見えてきた。
女は目を真っ赤にして泣き腫らした顔を見られたくないのか、顔を背けた。
しかし、俺の願いは……外れた。
(いや、落ち着け。ここは普通に話しかけるんだ)
「あれ、もしかして、福仲先生?」
「え?」
「やっぱり。俺ですよ。安岡です。二年前に卒業した」
「安岡君って、SKYの安岡君? 『紲』を歌ってた」
「あ、先生、『紲』覚えててくれたんですね」
「うん、私、あの歌大好きだったから、今でも文化祭のSKYのライブ録音、よく聴くの」
「え、そうなんですか? なんか恥ずかしいなぁ」
その言葉にふと気づいたように、
「恥ずかしいのはこっちよ。こんなところを安岡君に見られるなんて」
「ああ、いやぁ、まぁ、でも、俺だからいいじゃないですか?」
「ダメよ。元教え子にこんなとこ見られたら、もう教師なんてやってられない」
「そんなこと言わないでくださいよ。先生は俺の憧れの先生なんですから」
「じゃあ、余計、がっかりさせちゃったわね」
「だから、そんなことないっす。今だから言うけど、俺、ずっと先生のこと好きだったんです」
「え?」
「あ、いや、恋愛とかじゃなくて。ほら、文化祭で重松先生と対立した時、助けてくれたでしょ?」
「ああ、あれは、いい加減、遅くなってたし、重松先生も三井さんも引きそうになかったから……って、あの子、三井さん?」
「はい、そうです」
「安岡君、三井さんと付き合ってるんだ。てっきり栗山さんと付き合うと思ってた」
「あ、俺の気持ち、先生にもバレてました?」
「バレるというか、栗山さん、いつも『こういうのは崇が得意』『先生、これ崇にやらせて』って言ってたから」
「え、そうなんですか?」
「知らなかったの? 余計なこと言っちゃったかなぁ」
「いえ、大丈夫です。……それより、……先生、何があったんですか?」
「あ、」
「言いたくないかもしれないけど、俺たち、ここで見たこと、聞いたことは誰にも言いませんから。『紲』を書いた安岡の言葉を信じてください」
「『紲』かぁ。……わかった。話すわ」
と、そこへいつの間にか彩乃がやってきた。
「どう、福仲先生と話はついた?」
「え、気づいてたの?」
「当たり前よ。遠くから見た感じが似てたし、あの親父が『マナミ』って言った途端にピンときたわ」
「で、あいつは?」
「とっくに帰ったわよ。あんな最低男、追い返してやった」
「強え〜」
「先生、もう大丈夫ですよ。私たちと一緒に帰りましょう」
「え、でも、二人は、ここの夜景を見にきたんでしょ?」
「ここは、またいつでも来れます。今は先生を無事に送り届けることが先決。そうでしょ、崇君」
「ああ、そうだな。先生、一緒に帰りましょう」
「ありがとう。でも、あなたたちに甘えるわけには……」
「この後に及んで何言ってるんです。ここに一人残ってどうするんですか?春とはいえ、まだ夜は肌寒いですよ。それに、こんなとこ、一人でいたら死んじゃいます」
「そんな大袈裟な」
「大袈裟じゃないです。とにかく先生は、俺たちの大切な先生なんですから、送らせてください」
「……わかった。じゃあ、お願いするわ」
俺と彩乃は、福仲先生を後部座席に乗せて山を降りることにした。
車が動き始めてしばらくは沈黙が続いたが、やがて福仲先生はポツリポツリ喋り出した。
「私、あの人と三年前に知りあったの。彼、その当時、S高の教師をしていてね、職員研修会で出会ったの。独身だって言ってた。年は離れてたけど、彼の教員方針や考え方にものすごく惹かれちゃって、奥さんがいるってわかった時には、もう離れられなくなってた」
彩乃と俺は、黙って、次の言葉を待った。
「……でも、やっぱり、別れなきゃいけないって思って、ほら、山峰公園に行ったカップルは別れるってウワサあるでしょ? だから、彼を誘って、この公園に来たの」
俺たちは顔を見合わせた。なんと言っていいか、わからなかった。
俺が口を開こうとすると、彩乃が、(ううん)と首を振って遮った。




