RPGセカンドストーリー 第十二話
【フェーズOasis Master’s room2】
「彩乃。……あなた、高校の時と変わったわね」
「変わってないわ」
「ううん、変わった。前はこんな強いこと、言える子じゃなかったもの」
「そうね。それは、やっぱり崇君のおかげかな? 自分の恋に自信が持てるようになったから。それと……」
「それと?」
「私には崇君が書いてくれた曲があるから」
「え、崇、私の詩以外にも曲つけたの?」
「ん? 崇君、みゆきの詩に曲をつけたことがあるの?」
「ああ、あるよ」
「え? 私、聞いてない」
「……なあんだ。全部じゃないじゃない。これで彩乃の知らない崇がいるってことがわかったわね」
思わぬところでみゆきと彩乃の形勢が変わった。
「崇君、みゆきの詩って?」
「ああ、『いとしき人へ』とか『ひとりの夜に』とか『秋章』、あ、『おいらの天使』なんていうのもあったな」
「え、そんなにたくさん……」
「ほら、崇は私の詩でインスピレーションが沸くのよ。あなたより私の方が、ずっと崇に似合ってるってこと」
「……」
彩乃は言葉を失った。
「みゆき、いい加減にしろ!」
「え?」
俺が急に大声で怒鳴ったので、みゆきは驚いて、こっちを見た。
「確かにお前が書いた詩に俺はインスピレーションを受けた。一つ曲ができるたびに、うれしくなったし、また次の詩、くれないかな?とも思った。でも、お前は肝心なこと忘れてる」
「何よ、肝心なことって」
「お前の書いた詩に曲をつけたものはライブでは一回もやってないんだよ」
「……確かに春の時も文化祭の時も歌ってなかった。でも、彩乃が作った詩の曲だって歌ってないでしょ? 私、崇のライブはちゃんと確認してるんだから」
「ああ、彩乃の書いたやつも歌ってない」
「だったら……」
「確かにどっちも歌ってないけど、意味は全く違うんだ。彩乃が書いた『終止符』はライブで使える曲だった。でも、彩乃に自分の失恋を思い出させるのが嫌だったから歌わなかったんだ」
「私の詩はライブで使えるレベルじゃなかったってこと?」
「中途半端だったんだよ。一つ一つはそれなりに思いを込めて作ったから、そこそこいい出来だとは思ったけど、三人で演奏するには、もう一つ盛り上がらない。一人でやるにしても、メッセージとしてお客さんに伝わりにくい。実際、使いようがなかった。それに……」
「それに?」
「あの詩は俺、個人に向けて書いてくれたものがほとんどだろう?」
「え?」
「楽曲として世の中に出すというよりは俺へのメモのような手紙のようなもの。そんな風にも見えた。そんなのライブで歌えないよ。人の手紙を世の中に公表するようなものだろう?」
「じゃ、やっぱり、私のこと気になってたんじゃない」
「そうだよ。だから……」
「だから?」
「だから、はっきり言うと、曲はつくれたけど、お前の気持ちまでは救ってやれなかった。つまり、俺はお前のパートナーとしては失格ってことだよ」
「そう……。パートナーとして失格ってことがわかっているのに、昨日、私にキスしたの。最低ね」
「ああ、最低だよ。でも、昨日のみゆきをあのままにしておけなかった。そして俺自身もこれで終わりにしようって……」
「でも、崇の言う通りなら、彩乃の詩だって自分の感情をあなたに送っただけじゃないの?」
「そうなの?」
俺は彩乃の方を見た。
彩乃は急にそう言われて、ビクッとなった。
「あ、いや、その……」
「あ、ごめん。意地悪するつもりじゃなかった。あれは彩乃が精一杯書いた詩だってわかってるよ」
「崇君……」
彩乃は少し恥ずかしそうな顔をした。
「ほら、ごらんなさい。彩乃の詩だって一緒じゃない」
みゆきはここぞとばかりに反撃してきた。
「いや、違うんだよ。彩乃の詩は、自分の思いを書いていても、それを誰かに届ける歌になってる。だから世の中に出しても、彩乃個人の手紙にはならない」
と、彩乃が、
「それにラストは崇君が詩を付け足してくれたもんね」
「え、そうなの?」
みゆきの表情が変わった。
「まぁ、俺が詩を付け足したことはともかく、彩乃の詩は誰かに伝えたい詩になっていた。でも、みゆきの詩は俺だけが読めばいいものだった。その違いがライブで使わなかった理由だよ」
「……はぁ」
みゆきは深いため息をついた。
「あ〜あ、ここまで言われたら、もうしょうがないわね。彩乃、崇はあなたに譲ってあげる」
「……ありがと」
「『ありがと』か……。さっき、すごい勢いだったから、もっと何か言ってくるかと思った」
「言えないわ。だって崇君があなたのこと、ほんとに好きだったのは間違いないもの。私には言えない」
「もういい。もうやめにしましょ。二人とも帰って。これ以上、一緒にいるとコーヒーが不味くなる。お代はいらないから、ここから出てって」
「……わかった。彩乃、帰ろう」
「うん」
俺と彩乃は部屋を出ようと扉に手をかけた。
すると、彩乃が、
「ちょっと待ってて」
そう言って、みゆきの元へ走って行った。
そして、一言二言、話したかと思うと、すぐ戻ってきた。
「何、話したの?」
「ううん、大したことじゃない。ただ、みゆきに少し言いすぎたから謝っただけ」
「そう。みゆき、なんて?」
「ひみつ」
「え、ひみつ?」
「女同士の会話の内容を聞きたがるなんて失礼だぞ」
彩乃は、さっきまでのこわばった表情から変わって、やさしい顔でそう言った。
「わかったよ。聞きません」
「何よ。怒った?」
「怒ってません」
「もう、すぐ拗ねる。子どもね」
「どうせ俺は彩乃に転がされてる子どもですよ」
「崇君、いい加減にしなさい」
「ハイ、もう言いません」
二人は笑いながら店を出た。
出てゆく二人の後ろ姿を二階の窓から、みゆきが見つめていた。




