RPGセカンドストーリー 第十話
【フェーズAYANO】
目覚めると、実家の自分の部屋だった。
(なんか変な夢見たような気がする。誰かにキスされたような……)
俺は、ハッと気づいて飛び起きた。
(今日は何日だ?)
腕時計を見ると31日になっていた。
3月31日。
(31日! やっと、彩乃に逢える)
俺は、うれしくなった。
が、同時に、みゆきの顔が浮かんだ。
(あ、昨日、みゆきとキスしたんだった……)
あれは、恋愛感情じゃない。
あれは、みゆきとの終わりの証……。
なんて、言い訳だよな。
(……彩乃に言わないわけにはいかないよな)
少し重たい気持ちが全身を奪った。
午後、俺は彩乃と七ヶ月ぶりに会った。
待ち合わせはいつもの交差点。
車を停めると彩乃が乗り込んできた。
「崇君、久しぶり。元気だった?」
「うん、元気だったよ。彩乃は?」
「もちろん!」
と、彩乃の目が涙目になった。
「え?」
「ごめんね。ずっと逢いたかったから、なんかホッとしちゃって」
「……ああ、そうか、急に涙目になってるからびっくりした」
「崇君はなんともなかったの?」
「いや、俺だって逢いたかったよ」
「ほんと?」
「ほんと、ほんと」
「……なんか軽いなぁ。KAHOさんと何かあったんじゃない?」
「ああ、あったよ」
「え?」
「いや、恋愛とかじゃなく、一緒にライブステージに立ったってこと」
「へえ、冬に電話した時、もう一緒にはできないって言ってたのに?」
「うん、そう思ってたけど、先輩が企画してくれて、一緒に弾けたんだ」
「なんか、うれしそう」
「うん。なんかね。穏やかに気持ちになれた。恋愛とか考えなくてもKAHOちゃんと一緒に演奏できるんだって思えたから」
「そう、よかったね。あれ? 私のこと、思い出してくれなかったのかな?」
「いやいや、毎日、考えておりました」
「ほんとかなぁ?」
「ほんとだよ。で、どこ行く?」
「うん、やっぱり『オアシス』が一番話しやすいよね」
「『オアシス』か……」
「何、ダメなの?」
「いや、『オアシス』がいい」
「なんか変ね」
「久しぶりに彩乃に逢えたから、ちょっと変になってるのかも」
「……そうなの? まぁいいわ」
「じゃ、行こうか」
そして、俺は『オアシス』へと車を走らせた。
昨日、みゆきと行ったばかりで、少し気が引けたが、
(いや、やっぱり『オアシス』で話した方がいい)
そう思い直していた。
オアシスに着くと、駐車場はいっぱいだった。
仕方なく隣のショッピングモールの駐車場に車を停めて、オアシスに入った。
すると、
「申し訳ありません。本日、一階席は満席で……」
ウェイトレスの子が困ったように頭を下げた。
「え、そうなの?」
「どうする?」
彩乃と俺は顔を見合わせた。
と、奥から店長らしき男が現れた。
「お連れ様でしたら、二階の特別席が空いております」
「特別席?」
「カップル専用になりますが」
彩乃が少し照れたように笑う。
「どうする? 崇君」
「とりあえず、行こう。他のお店に今から行くのもなんだし」
「そうね」
「じゃ、お願いします」
「かしこまりました」
店長らしき男について、俺たちは二階へ上がった。
上がりながら、その男に声をかけてみた。
「ここ、去年できたんですよね?」
「ええ。ここを管理されてるオーナー様が『なるべくカップがゆっくり話せる空間をつくりたい』ということでしたので」
「ああ、だから、いつ来ても、長くいてもいいって雰囲気なんだ」
「はい。おかげさまでたくさんのた方にご利用いただいております」
「そうなんだって」
俺は彩乃を見てそう言った。
彩乃が頷くと同時に、
「こちらの部屋になります」
と、店長の男が扉を開けた。
その部屋に入った瞬間、俺は、妙な違和感を覚えた。
(……なんだ?)
はじめて来たはずなのに、なぜか、ここを知っている気がした。
その空間は夕焼けみたいな琥珀色の光に包まれている。
席は三つだけ。
半透明のレースカーテンの向こうに、 誰かが座っている気がするのに、 顔は見えない。
壁の時計がゆっくりと時を刻んでいる。
部屋の奥では、 古いジュークボックスが、 ノイズ混じりのラブソングを流している。
「どうしたの? 崇君」
「いや、ここ、前に来たことがあるような気がして……」
「え? 誰と来たの? ここ、カップル専用でしょ?」
「あ、いや、誰とも来たことないけど、なんか見たことあるような気がするだけ。たぶん、どっかと勘違いしてる」
「ほんと? ……どうも怪しいなぁ」
「怪しくないよ。俺には彩乃だけだよ」
と、彩乃は紅い顔になって、
「もう、すぐそんなこと言うんだから」
照れたように笑う彩乃を見て、
(ますます、みゆきのこと、言いづらいなぁ)
俺は心の中で、そう呟いた。




