148.未来からのメッセージ その3
『安心しろ、冗談だ。
いや、それじゃねえよ! と、多分ツッコミを入れてるだろうな
分かるよ。だって、お前は俺だからな』
ははは、と笑う未来の俺に、俺は無性にイラッとした。
この野郎……!
『クジャクパンツについては、別の記録を参照にしてくれ
メッセージはいくつか分割して残してるからな
冗談とは言ったが、本当に強力な装備だ
将軍を相手にするなら、あって損はない
それで――こっちが本題だ』
未来の俺が再び何かを取り出す。
それは野球ボール程の大きさの真っ黒な魔石だった。
『これは、俺の中にあった魔人ヘリアスの因子だ
小雨が迷宮扉を使えるようになったあの日、お前は『廻転輪廻』の扉を開き、ヘリアスに出会っただろう?
あの時、ヘリアスはお前の中にこの因子を埋め込んだんだ』
「なっ……」
『この因子は、特定条件下で取り憑いた者の悪意を増幅させる
しかも麻薬に似た強い中毒性も持っていてな
悪意が増すばかりでなく、自我もだんだんと歪んでいく
人の苦しむ様が、悲しむ顔が見たくてたまらなくなるんだ
当時の俺は、まさに人類の敵だった
元に戻れたのは運が良かったよ……』
自嘲気味に笑う未来の俺。
ヘリアス――あの廻転輪廻の扉の先に居たあの化け物が原因だったのか……。
『とはいえ、ヘリアス自身にはその自覚はないがな
いや……自覚がない分、余計に性質が悪いな
一度、話をしたが、アイツには因子を渡した自覚すらなかったよ
悪意や善意の価値観そのものが歪みまくってる
そのくせアホみたいに強い。最低最悪最凶の化け物だ』
未来の俺は、手の中でヘリアスの因子を弄ぶ。
『この因子は特殊な方法で取り出すか、
あるモンスターの加護によって耐性を付けることでしか抵抗できない
俺は偶然その条件を満たし、因子を取り出して、自我を取り戻した
本当ならすぐにでも処分したかったんだが……方法が分からなかった
捨ててもいつの間にか収納リストに戻っているし、ヘリアスを倒しても同じだ
呪いみたいなもんだな』
俺は無意識に自分の胸に手を当てる。
背中が冷や汗でびっしょりと濡れていた。
悪意を増幅させる因子……そんなものが埋め込まれてたなんてゾッとする。
『とはいえ、因子を埋め込まれたとしても、
あるモンスターの加護さえあれば問題なかったんだがな……
お前が知ってるかどうか分からないから、伝えておく
ディザス・マッシュリーという茸のモンスターだ
コイツの加護が手に入れば、ヘリアスの因子は無効化出来る
もう一つの条件はかなり特殊で、おそらく再現することは出来ない
俺はこのもう一つの条件を偶然、達成したおかげで因子を取り出せた』
当時の事を思い出したのか、未来の俺が渋い顔をする。
『だから、もしまだ会っていなかったら、必ずディザス・マッシュリーに会え
俺は……彼に出会う事は出来なかった
パルムール王墓まで行ったが、会ってくれなかったんだ』
そうだ。戦いが終わった後、未来の俺はそんな事を言っていた。
その原因は、エイトさんとの共闘戦を一日延長したから。
その一日の間に状況は一変し、エイトさんは無限ログイン状態に陥り、現実でも実質的な昏睡状態になった。
だが俺はその日のうちにエイトさんと終末世界に向かった。
エイトさんを救うことが、結果的に俺自身を救う事に繋がったって訳か。
『もし既にディザス・マッシュリーと会っているなら、この話は気にしなくていい
既にヘリアスの因子は無力化されているはずだ
少なくともお前が終末世界を引き起こす可能性はなくなる』
終末世界でも同じことを言っていたな。
ヘリアスか……。ナトゥリアと同格の時点でまあ破格の存在だとは思っていたが、そこまで厄介な存在だったとはな。
てか、待てよ?
もし仮に、ディザスさんの加護が無くなった場合、まだ俺はその因子の影響を受ける可能性はあるって事か?
……まだまだ油断は出来ないな。
『俺が終末世界を引き起こした理由はそんなところだ
色々あって因子は取り出せたが、その時には何もかも遅かった
まあ、そもそもそれ以前にもう色々と失ってたけどな……』
再び未来の俺は暗い表情になる。
『最初にエイトさん、次は大河さんだった
俺の目の前で死んだんだ……
彼女の死が、俺の中にあるヘリアスの因子を目覚めさせるきっかけになった』
「ッ……」
未来の俺の言葉に、緊張感が走る。
『悪いが詳しい状況は言えない。いや、言えないんだ
メインストーリーの内容に関わってくるからな
彼女を救いたければ、メインストーリーを進めろ
徳川ロドリゲスを何としても倒せ。俺から言えるのはそれだけだ』
映像のはずなのに、まるで真っ直ぐに俺を見ているような気がした。
『お前は俺だ。だが、俺に出来なかった事を、お前はやり遂げた
だから……変えてくれ。俺が辿り着けなかった未来を掴んでくれ
健闘を祈る。……じゃあな』
映像が終わる。
再び、膨大な量のリストが表示された。
「……」
しばらくの間、誰も何も言わなかった。
俺は井口の淹れてくれたコーヒーを一気に飲み干す。
「なんというか……先輩、でしたね」
「りゅーぅだった」
「ウッキィ……」
「……そうだな」
世界を終末に変えた大罪人であることは間違いないが、それにも理由があった。
いや、理由があったとしても、罪は罪だ。
だからこそ、未来の俺は、自我が戻っても、倒されるまでずっと悪人で居続けた。
アイツはアイツなりに自分の罪と向き合おうとしていたのだろう。
「ともかく情報は得られた。皆、色々と言いたいことはあるかもしれないが、時間が惜しい。装備やアイテムを整えたら、すぐにメインストーリーを進めよう」
「ですね」
「うんっ」
「ウッキィ~」
「きゅー」
「ウガゥ」
『……ボー』
小雨も起きたようで、ピチピチと尻尾を振っている。
出来れば、リストの閲覧出来る情報は全て見ておきたいが、全てを確認していれば、何か月もかかってしまうだろう。
とりあえず、いくつか気になる項目だけ、確認しておいた。
次に手に入れたアイテムの確認だ。
未来の俺との戦いで得られた報酬は、大空の欠片×10、終末の楽譜B、豊穣の雫。
大空の欠片は強化アイテムなので、主要メンバーにそれぞれ割り振る。
終末の楽譜Bは、まだ保留だ。
今回でB~Gまで揃ったが、今回は特に効果はなかった。
やはりセイランの力が解放されるには、一定の枚数が新たに必要なのだろう。
んで、最後に豊穣の雫。
・豊穣の雫
たった一滴で枯れた大地も瞬く間に豊かな大地へと生まれ変わらせる
どんな植物であろうとも、豊かに育つ
これはまたなんとも凄いアイテムである。
とはいえ、今のところは使い道はないから収納リストに保管しておく。
そういえば、エイトさんはどんなアイテムを入手したんだろうか?
一応、メールはしておこう。
次に新しい装備やアイテムが入荷していないか確認。
目新しい装備やアイテムはなかったが、今回はオススメ商品が入荷していた。
【オススメ商品】
・栄養ドリンク 1ポイント 飲めばとても元気になる
・ぬるぬるローション 10ポイント とてもぬるぬるするローション100ℓ
・紙飛行機 10ポイント とても長い時間飛ぶ紙飛行機
・ふかふか毛布 100ポイント とても心地よく眠れる
・ガム(梅味) 100ポイント キシリトール入り
今回は5つもオススメ商品があるのか……。
相変わらず何に使うのかよく分からんような商品ばかりだが、オススメ商品だ。
買えるだけ、買っておこう。どうせポイントには余裕があるんだし。
他にも回復アイテムや、予備の装備品なんかも購入する。
次に『世界の記憶』で閲覧可能な情報をいくつか確認。
本当ならすべて目を通したいが、時間が惜しい。
必要な情報だけ、確認しておこう。
特にえねみー『将軍』や閲覧方法の広げ方。
あとは――。
・大河茜の性癖について
「…………」
そう、必要な情報だけ確認すればいい。
大事な人達を決して死なせない為に。
未来の俺と同じ道を辿らないように。
…………ぽちっとな。
『――プレイヤー名『トラ』の承諾が必要です』
『プレイヤー『トラ』は情報開示の承諾をしていません』
『閲覧は出来ません』
ちくしょう。やっぱそういうオチかよ!
まあ、いいや。これで準備は完了だ。
ササキ・リュウジ LV54
職業 変態貴族、存在破廉恥男
加護 天星菌類の加護
称号 嘆きの解放者、艱難辛苦を超えし者、
保有ポイント18,653 所持金120,490イェン
装備 盗賊頭の短刀、ソウルイーター、派手なサングラス、旅人のブーツ
アヒルパンツ、被る下着(ブリーフ型)、派手なマント、乳首シール、
力の指輪、敏捷の指輪
スキル『悪運減少』、『指揮』、『紙装備』、『紙一重』、『不快』
『着替え』、『二段飛び』、『急所突き』、『催眠』、『脱衣』
『疲労耐性』、『麻痺耐性』、『呪い耐性』、『大物喰い』、『徴収』
『隷属』、『浪費』、『幻惑』、『時間停止』、『マジックミラー』
攻撃 152
防御 103
敏捷 131
知力 90
魔防 83
器用さ94
運 90
俺はメインストーリーの項目に触れる。
『メインストーリー8 『亜人解放戦線を救出せよ』
クリア条件 NPC全員が脱出地点まで到達する
敗北条件 NPCが一人でも死亡する
成功報酬 ポイント+50
※このステージにEXシナリオはありません
また敗北した場合でも、ストーリーは進行します』
視界が白く染まる。
さあ、メインストーリーを進めようか。




