125.カードの合成をしてみよう
朝食を終えた後、俺は異世界ポイントにログインし、待機室へと向かった。
雷蔵たちは小雨の『世界扉』で先に戻ってもらった。
俺が寝てから一度使用していたので、6時間のCTも既に経過していたからな。
待機室の扉を開けて中に入る。
服が消え、いつもの姿になった。
……いつもの姿ってなんだよ。
慣れるな。この姿に慣れるなよ、俺……!
「先輩、待ってましたよ」
「待ってたって言ってもさっきぶりだろ」
「りゅーぅ♪」
「ウキキ~♪」
コアラのように胴体に抱き着いているセイランと、左腕にくっ付いている夜空はもうスルー。
好きにさせる。
でもたまに撫でる。
二人も喜ぶし、ウィンウィンである。
「んで、早速だけどカードの合成解除ってどうやるんだ?」
「えっ?」
俺の質問にぽかんとする井口。
お前も知らないのかよ。
「……とりあえずカードに戻ってくれ。バインダーや合成の項目で調べてみる」
「了解です」
井口をカードに戻し、バインダーにセット。
『名前 井口綾香 LV50
種族 終末の魔導士
戦闘力 ☆☆☆☆☆
スキル 黒魔法、結界、透明化、転換、呪い
高位屍鬼召喚、身代わり、破滅の唄、
忠誠度 最良』
今更だが、これが井口のカード情報だ。
とりあえず、合成の項目を選んでみるか。
『カードを選択してください』
井口のカードを選ぶ。
『このカードは既に合成が最大数まで達しています
新たに合成を行うには、共存状態のカードを解除してください』
井口綾香
合成状態 同化×5
共存×5
……なるほど、カードの合成にも限度枚数が存在するのか。
井口の状態を見る限り同化、共存それぞれ最大5枚。
クラウン・レディオが両方使っていた理由もこれか。
俺は共存の項目に触れる。
『共存状態のカードを解除しますか?』
枚数が選べるようなので、最大数の5枚に設定してイエスを選択。
『共存状態のカードを5枚解除します』
『解除に応じて、合成されたスキルが使用不可になり、戦闘力が減少します』
『合成が解除されました』
手元には井口を含め、6枚のカードが戻ってきた。
井口のカードを確認すると、結界、透明化、転換の三つのスキルが消えていた。
この三つが合成で手に入れたスキルってことか。
戦闘力の星も四つになっている。
5枚のカードは『終末の魔法使い』が1枚、『終末の住民』が3枚、『終末の亡霊』が1枚。
名前の部分にはそれぞれの本名が記載されていた。
……井口と同じ、人としての名前が。
(……てか、合成について調べるだけなら、ここまでは事前に確認できてただろ)
大半のアナウンスで必ず実行するかどうかの確認が出てくるのだから、たとえ合成する気はなくとも、する直前までは事前検証が出来たのだ。
これは単純に、俺の考えが足りなかったな。
いや、他にもやることが多くて頭回らなかったってのもあるけど。
ともかく井口と共存状態だったカードを具現化させる。
「これは……」
「解放、された?」
「え、え……?」
俺と井口が彼らに事情を説明すると、最初は混乱していた彼らも理解を示してくれた。
というか、俺の格好の方が説明するのに時間が掛かった。
中には「あの道化の手先か」と襲い掛かってきそうな奴までいたし。
……うん、気持ちは分かる。すっごい分かる。
怪しいを絵に描いたような見た目だものね。泣きたい。
井口が今後どうしたいかと問うと、皆一様に成仏したいと答えた。
改めて彼らは終末世界で巻き込まれ変異しただけの人間だと思い知らされた。
「――皆、もう心残りはないそうです」
「そうか……」
アンデッド系のモンスターは、この世に未練がなければそのまま成仏することが可能らしい。
彼らは静かに消えていった。
「……一緒に逝かないって誘われたけど、断りました。まだこっちでやり残したことがあるので」
「……そうか」
井口はカードたちが消えた後をじっと見つめる。
「……待っててね――ちゃん」
手を振り、どこか名残惜しそうに誰かの名前をつぶやく。
消える間際、終末の魔法使いだった少女がずっと井口に向けて手を振っていた。
おそらく知り合いだったのだろう。
くるりと、こちらを向いた彼女の顔はいつもの表情に戻っていた。
「ありがとうございます、先輩。私の我儘を聞いてもらって」
「別にこれくらい構わねえよ。それで、カードの合成についてだけど――」
湿っぽい雰囲気は苦手だ。
俺は努めていつもの口調で、話題を切り上げた。
……ただ一瞬だけ見えた井口のあの表情が気になるけど、今は触れないでおくか。
その後は、井口のケースをもとに、夜空と猿たちに合成について説明する。
意外にも、合成に反対する者は居なかった。
むしろ積極的に手を上げる者すらいた。
「ウキー!」
「ウキキー!」
「ウッキィー!」
「キィー! ウキキィー!」
夜空と聖歌猿が大人気だった。
なんというか、猿たちの表情が怖い。
「俺、夜空さんの一部になりたいっす!」みたいな感じ。
どことなく純血教の連中に似た――そう、狂信者の顔だ。
共存どころか、同化でも良いという奴すらいた。
「……ウキキ」
「……ウキィ」
夜空と聖歌猿は、猿たちを避けるように俺の後ろに隠れた。
うーむ、俺が居ない間に、猿たちの関係がこんなに変化していたとはな。
一番人気は夜空と聖歌猿。
次いで騎士猿の月影と、重戦士猿の月光。
射手猿の満月はまだ猿たちの中では立場は普通より上くらいなのか、そこまでの人気はない。……同じ時期に進化した聖歌猿はあんなに人気なのに。
ちなみに聖歌猿はもう一体居るのだが、こちらも満月同様、そこまでの人気はない。
雄だからだろうか?
シンゲツはアイドル的な人気もあるのかな?
「合成できる数は戦闘力の星の数×2か」
「それで間違いないと思います。正確には星が四つなら、同化が4、共存が4ですね」
武器の強化と同じく、無限に出来るわけじゃないってことだな。
仮に夜空の場合は、今星5になったので、合成は同化5、共存5の計10枚可能ってことになる。
「あと、合成できるカードには相性があります。同系統――私ならアンデッド系のモンスターなら合成した時の上り幅も大きく、全く関係ない種族なら力が上がるどころか、下がっちゃいますし、最悪死んじゃいます」
「闇雲に合成させるのは駄目って事だな」
「はい。ただ……極稀にですけど、全く違う種族同士の合成が成功する場合もあるみたいです。クラウン・レディオは失敗してましたが」
クラウン・レディオざまぁ、と言いたいが、それで死んだ人たちのことを思うと素直には喜べないな。
全く違う種族同士……あれか? 炎と氷を合わせて極大消滅呪文にするみたいな。
ゲーム的にはロマンがある。
今の話と、雷蔵たちのことを考えれば、全く試す気にはないけど。
「てことは、今のところ合成が可能なのは夜空たちだけか」
雷蔵や雲母、小雨は同系統のモンスターが居ないからな。
まあ、そこは仕方ない
「じゃあ、合成を試してみるか。勿論、試すのは共存の方だ」
「ウキィー」
すると重戦士猿の月光が手を上げる。
まずは自分で試してくれという表情だ。
「分かった。じゃあ、月光の力になりたい奴はいるか?」
「ウキキ」
「ウッキィー」
「ウキキー!」
「キキィー」
「キキー」
手を上げたのは五体。
月光の戦闘力は星4だから、一体余っちまうか。
月光と同じ重戦士猿が2体、騎士猿が1体、戦士猿が2体か。
ソウルイーターのストック貯める周回プレイでかなりの数の猿たちが進化したからな。
戦士猿の内、1体に候補から外れてもらう。
残念がっていたが、仕方ない。
「じゃあ、カードに戻ってくれ」
猿たちをカードに戻し、合成の項目を選択する。
『月光に合成(共存)を行いますか?』
四枚のカードをスライドさせ、イエスを選択。
『合成を行います』
『――――……成功しました』
『月光の戦闘力が上昇。スキルが変化しました』
早速確認する。
『名前 月光 LV41
種族 重戦士猿
戦闘力 ☆☆☆☆☆
スキル ひっかき、投擲、堅守防衛(new!)、剛腕(new!)
高防御指揮(new!)、重戦士の誓い、高守勢(new!)
忠誠度 最良』
おお、戦闘力が星5になってる。
それに防衛、鉄腕、防御指揮、守勢が、それぞれ新しいスキルになってる。
スキル効果を確認したら、既存スキルの上位版だった。
「星が増えたって事は、合成のストックも増えたってことか?」
俺は先ほど、手を上げていたもう一体の戦士猿にカードになってもらう。
案の定、合成することが出来た。
戦闘力が『☆☆☆☆☆+』に変化していた。
合成することで、戦闘力が上がり、新たな合成の枠も増やすことも出来るのか。
月光をカードから元に戻す。
「月光、体の調子はどうだ?」
「ウッキィ……ウッキウッキキ~!」
「かつてないほどに絶好調です!」と月光はマッスルポーズを決める。
どうやら問題はないらしいな。
「じゃあ、またカードに戻ってくれ。解除の方も試してみる」
「ウッキィ」
月光にカードに戻ってもらい、解除も行う。
無事に猿たちはカードに戻った。
どんな状態だったか聞くと、眠っているような感覚だったらしい。
月光の方も確認すると、スキルや戦闘力が合成する前の状態に戻っていた。
猿たちの希望もあり、再び月光に合成を行った。
合成は枚数制限はあっても、回数制限はないらしい。
その後、騎士猿の月影も同じように合成(共存)を行い、同じような結果になった。
これなら問題なさそうだ。
次は夜空とシンゲツも試したいが……立候補する奴が多すぎるな。
下手に選ぶと、残った奴らに恨まれそうだ。
夜空たちと相談しながら選ぶとしよう。
合成についての補足
共存状態のカードを解除し、星の数が下がっても
同化した方のカードは解除不可のため、そのままです
なので例えば現在の井口の場合
戦闘力 ☆☆☆☆
合成状態 同化×5
共存 空き4
という状態になってます




