第三十三話 情報戦
大和国・高取城周辺
宇陀松山城で壮絶な戦いを繰り広げた後、正則率いる第一軍は高取城に攻め寄せようとしていた。
「さあ、孫七郎殿、貴殿はこの城どう攻める?」
「そうですな…某なら、狭山城のように大筒を使い、空砲を撃ち、敵の戦意を喪失させまする。」
「奇遇ですな。孫七郎殿。某も同じようなことを考えておった。山城は天然の要害に囲まれ、平城よりも閉鎖的な空間でござる。十分使えるじゃろう。」
この軍議の翌日から、豊臣軍は山に昼夜問わず空砲を放った。この攻撃は三週間以上続き、本来なら指揮官である城主や家臣はそのほとんどが大和郡山城に出向いており、僅かな兵しかおらず、元々戦意があまりない高取城はあっさりと落ちてしまった。
大和国・斑鳩
宇陀松山城、高取城、龍田城を問題なく落とした第一軍と第二軍は大和国の領主らが籠る大和郡山城を攻めるため、手前の斑鳩で合流した。
「揃いましたので、軍議を始めましょう。」
「まず、敵の兵数は約2万、我々も同規模でござる。」
「敵の士気は高いと思っておりましたが、我々が斑鳩に進行できている時点で本気で戦う気は無さそうですぞ。」
「某に策がある。」
「後藤殿、お聞かせ願おう。」
「敵は我らの情報があまり掴めていないと見た。情報が不安定だからこそ、斑鳩に我らが行くのを止めることが出来なかったのではないか?」
「確かに。」
「つまり、それを利用すると。」
「そういうことじゃ。恐らく我らの兵数も掴めておらぬ。前もって豊臣軍が夜討ちをかけるという情報を流し、敵の目を引いたのちに郡山城付近まで近づく。その時、兵に多くの松明を持たせる。そこで敵方がどう出るか勝負じゃ。」
「某も後藤殿の意見に賛成でござる。」
「某も。」
「右に同じく。」
「それでは、明日決行致しましょう。」
「塙殿。」
「何でしょうか。」
「郡山城に先程言った噂を流して頂きたい。」
「承知致しました。」
大和国・郡山城
「一体何が真なのだ!」
「兄上、落ち着いてくだされ。」
「落ち着けるか!豊臣がどこにおるかも分からぬのだぞ!」
「とにかく今は新しい報せを待ちましょう。」
「お主も知っておるであろう!龍田や宇陀松山、高取は簡単に攻め落とされた!悠長に待っている暇などないのだ!」
「兄上!この城の総大将たる兄上が弱気になってどうなされます!」
「だいたいお主が他の領主を迎え入れると言ったのだ!儂は知らぬ!」
郡山城では豊臣への備えとして大和の領主たちを引き入れ二万の軍勢を形成していた。
「過去の事を今更後悔されるのですか!」
「御免。」
「何じゃ!」
「豊臣軍が明日夜討ちをかけると言う情報が入りました!」
「何!」
「もう某は知らぬ。お主が指揮をとれ。」
「兄上!あなたが最終的に判断を下したのでしょう!筒井を潰すおつもりか!」
「もしそうなったとしても、お主が決めたことであろう!儂が原因ではない!」
「あの…どうなされますか。」
「明日、偵察に行ってくれ。」
「御意。」
「たかが大和の小名が天下人の子息に勝てるはずが無かったのだ。」
「兄上!」
「もう今日は寝る。お主も、もう一度我らの立ち位置を考える事だな。」
大和国・斑鳩
「ある程度噂を流し終えました。」
「お役目ご苦労でござった。」
「どうやら郡山城内では情報が錯綜しているようでござる。」
「それは好機ですな。」
「某は早速、今日の作戦の準備をしてくる。」
「これで決着が付くと良いですが。」
「どうじゃろうな。筒井主殿助の力量次第であろう。」
大和国・郡山城
「豊臣軍が郡山城に進行中!敵はかなりの大軍と見受けられます!」
「兄上、ご決断を。」
「何を言っておる。儂はお主に全権を譲ったはずじゃ。」
「まだそんな事を言っておられるのですか!」
「それはお主じゃろう!たかが大和の小名が日の本で一、二を争う武器を持った大軍に勝てると思っておるのか!」
「あなたは兵たちを守らなければならぬのです!ご決断を!」
「とにかく儂は出ていく!」
「兄上!」
この事を聞き付けた豊臣軍は、城内に筒井定慶が逃げたという情報を流した。その結果、郡山城内の兵たちは次々と離散していき、筒井家は降伏した。その後、定慶も発見され、捕縛された。
江戸城・本丸御殿
「殿、全ての用意が整ったようです。」
「そうか…儂は片時も上田での事を忘れたことは無かったぞ。真田め。」




