第三十二話 決断
大和国・宇陀松山城
二つの剣が重なりあう音が戦場に鳴り響く。その音は鋭く、甲高い音だった。
「兄上の実力も…その程度でござるか!」
「お主こそ、儂の首一つ取れぬのか!」
『がっはっはっは!』
戦場に漂う重い空気とは裏腹に、正則と高晴はこの一騎討ちを楽しんでいた。
「兄上、そろそろ決着を付けましょう。」
「そうじゃな。参るぞ!」
先程より重い空気に変化し、二人の周りは異様な空気が漂っていた。
刃が擦れる音が響く。決着は着かない。だが、福島高晴が発したその一撃は、福島正則の手に当たっていた。
「うっ…だか儂はこの程度で終わる器ではない!」
この異様な空間の中で、痛みなど気にしている余裕など無かった。
そして負けじと正則も刀を振り下ろした。その瞬間、高晴の鋭い一撃は正則の首の皮を掠めていた。
『グスッ』
鈍い音がした。きっと、自らの首が落とされようとしているのだろう。そう思った。でも、現実は違った。自分が右手に持つ刀は、高晴の胸部にしっかりと突き刺さっていた。正則が気づいた時には、もうすでに高晴は絶命していた。
「助六郎、さらばじゃ。」
正則は刀を抜いた。
大和国・龍田城付近
その頃、後藤又兵衛率いる第二軍は順調に進撃を続けており、諸勢力の平定をしながら龍田城付近まで来ていた。
「皆の者、今回の龍田城攻めに関して、意見はあるか。」
「私に策がございまする。」
そういったのは、塙団右衛門だった。牢人衆の一人で、今回初めて豊臣家として副将に任じられた男である。
「塙殿、お願いしますぞ。」
「はっ。聞いたところによりますと、龍田城の士気は下がっているというふうに聞きました。ただでさえ士気が下がっているこの状況に兵糧攻めをし、士気を今より下げるというのはいかがでしょうか。」
「そう致しましょう。日程も当初より早まっておる。ここで時間をかけて温存しておくのが最善の策じゃ。」
龍田城・本丸御殿
「殿、後2日、持つかどうかでございまする…」
「左様か…決断せねばならぬか。」
「恐れながら…もうすでに勝負は決しているかと…」
「相分かった。降伏しよう。儂が出向く。」
「御意。」
大和国・龍田城付近
「こちらの条件は、某と某の倅の切腹の代わりに城兵を助けることでございまする。」
「こちらも異論はござらんが、お主ら親子の身柄は一度、殿の所に送られる。よいな?」
「異論ござらぬ。」
「事情は分かったが、お主は後悔はないのか?」
「後悔ばかりでござる、某は傅役としての務めを果たすことができず、豊臣を裏切ってしまった。そのけじめは、自らで付けたいのです。某の、決断でござる。」
「決断か…」
こうして過去を知る人物がまた一人、消えていくのだった。




