第三十四話 条件
大坂城・大広間
秀頼たちは、大和侵攻が終わり、改修工事が終わった大坂城に戻ってきていた。
「良し、皆揃ったな。奴を呼べ。」
「はっ。」
「こちらが筒井紀伊守慶之でございます。」
「大義である。早速、この者の裁きを始めたいと思うのだが、順斎、お主から何かあるか。」
「此度の戦は、兄から全権を譲渡されておる。大和の領主を巻き込み、籠城戦に持ち込んだのは、某の独断じゃ。」
「つまり、兄・定慶はお主がした事に関して知らず、承認もしていなかったという訳か?」
「では、これは何だ?」
秀頼が手に取った書状は、慶之が定慶に宛てた領主たちからの物資の提供を確認する物であり、しっかりとそこには「筒井定慶」の名が記されていた。
「お主が申しておる事が真であれば、このような書状は無いはずじゃ。」
「儂はその様な書状、知らぬ。」
「いつまで戯言を言うつもりじゃ。お主の兄の首が飛ぶぞ。」
「何だと。」
「実はな、定慶は我らが捕縛した。奴は捕縛される時、『儂は関係ない!』などとほざいておったがな。」
「兄は、関係ない…」
「まあな、兄を救う手立てもある。」
「…」
「お主、豊臣に付け。それが条件じゃ。その代わり、定慶と会う事はもう無いじゃろうな。どうする。」
「その条件…お呑み致しまする…」
「そうか。紀伊守を連れて行け。縄を解いてやるのじゃ。」
「はっ。」
「殿も冷徹さでは殿下に似ておられますな。」
「あの御方の冷徹さが凄まじいことは、備前、お主が儂よりも良く分かっている事であろう。」
「そうでしたな。」
「では、定慶を呼んでくれ。」
「はっ。」
「こちらが、筒井主殿助定慶でございます。」
「大義である。」
「儂は知らぬ!儂は関係ない!」
「お主からの説明はもう要らん。処分ももう決まった。」
「どういうことじゃ!」
「お主と話しても埒が明かぬと思ってな。お主の弟に先に話を聞いた。」
「そうじゃ!儂はあやつに全権を譲った!」
「まあ聞け。紀伊守は、自身が捕縛される原因となったお主を許す所か、助命嘆願までした。紀伊守はお主と違って有能だからな。奴を登用する事で、お主を追放処分に留める事にした。」
「…」
「尾張に追放じゃ。」
「この者を連れて行け。」
「はっ。」
「儂は、郡山城で籠城しておった大和の領主たちは追放処分にしようと思うのだが、皆はどう思う。」
「某も、追放が妥当かと。」
「某も、異論御座いませぬ。」
「それでは、異論無いな。」
駿府城・本丸御殿
「遠路はるばるお越しいただき、真に大義である。」
「滅相も御座いませぬ。」
「今日、浅野殿に駿府までお越し頂いた理由はな、浅野殿の加増転封の話じゃ。」
「加増でございますか。」
「そうじゃ。紀伊は浅野殿にとって手狭じゃろうし、豊臣の抑えとなる場所じゃ。それ故、安芸に転封を考えておったのじゃが、こんな物が見つかってのう。平左衛門。」
「はっ。」
「な、何故、そこに平左衛門がおるのですか。」
「あれを出せ。」
「はっ。こちらでございまする。」
「『豊臣軍の通行を全面的に許可する。浅野領内通行の安全を保証し、また豊臣軍が浅野領内で狼藉を働かないことを約束していただきたい。』浅野殿、どういうことじゃ。」
「こ、これは、某が平左衛門に、豊臣に内偵を送れと言った所、それを違う形で受け取ったと言う事でござる。」
「そんな見え透いた嘘が儂に通用するとお思いか?」
「これは、豊臣に嵌められたのです!」
「もう良い浅野殿。」
「少しお待ちを!」
「お主、一人子がおるらしいな。その者に家督を譲れ。」
「まだその者は幼少で、嫡子では…」
「それなら心配いらん。今後は平左衛門が執政となり、浅野家の政治を補佐していくのじゃ。」
「平左衛門…」
「そしてな、紀伊は没収し、信濃川中島に国替じゃ。」
「……」
「そうじゃな。お主は京で隠棲しておくのが良い。」
「ぎ、ぎょ、御意。」
駿府城・本丸御殿
「この浅野平左衛門忠吉、大御所様にこれからも尽くしまする。」
「大義であったぞ。平左衛門。」
「はっ。」
「浅野は、お主のものじゃ。」
「大御所様、お約束通り何卒、何卒これからも浅野に格別のお引き立てを…」
「そのようなこと申したか?まあせいぜい慎まれよ。」
忠吉は唇を噛んだ。
「申し訳ありませぬ…殿…」
豊臣恩顧の大名がまた一家、転落していくのだった。




