第三十話 徳川の威信
駿府城・本丸御殿
「どうやら大坂は大和に侵攻した後、堺に手を着けるそうです。」
「堺は困るのう。あれは我らの情報源じゃ。」
「恐れながら、堺に関してはここで早急に一手を打っておく必要があるかと。」
「そうじゃな。」
「失礼いたします。井伊掃部頭様が来られておりますが、お通しされますか?」
「うむ。通してくれ。」
少しした後、井伊直政の次男で高崎城主である井伊直孝は怒りの表情を浮かべて入ってきた。
「どうした掃部、わざわざ高崎からやってきて。」
失礼する。そう言うと直孝はその場に座り込んだ。
「大御所様、今すぐにでも大坂へ打って出るべきです!」
「何じゃ。お主までもその話を言うのか。」
「尾張様は亡くなっておられるのですぞ!」
そう直孝が言うと、一瞬家康の顔が暗くなった。
「あいつが戦下手だったのだ!それだけじゃ!」
「二人も息子を失い、何も思わないのですか!」
二人と言うのは、義直とそして武田家への内通を疑われ処断された松平信康のことである。
「これは徳川の威信に関わりますぞ!」
「お前に何が分かる!息子を殺され、頭を垂れてきた気持ちが分かるか!」
「わが父も同じことを言ったでしょう。これ以上豊臣の横暴を許すのであれば、権力などすべて江戸にいる上様にお譲りくださいませ!」
「相分かった。だが、今打って出ることはできん。儂に策がある。」
津城・本丸御殿
「佐助の報告によると、家康と高崎城主・井伊直孝が駿府城で言い争っていたと言うことです。」
「まあ恐らく豊臣に兵を出す、出さんの話であろうな。」
「恐らく。家康にも考えがあるそうですが詳しく聞かされていない家臣たちは混乱しているようです。」
「まあすぐに何もしてこないと言うことは大和に関心はないということか。」
「そうでしょうな。」
「徳川にとって問題なのは堺じゃ。あそこは徳川にとって情報源。堺を取られるとまずいはず。」
「失礼ながら、この真田左衛門佐に堺攻めの総大将をお任せいただけないでしょうか。」
「相分かった。お主に任せよう。大和攻めが無事終わり次第、堺を攻めよ。」
「はっ。」
そして豊臣と徳川、両者の思惑が入り乱れる中、豊臣家による大和侵攻が始まるのであった。
津城・大広間
「此度の総大将は福島市兵衛、副将は豊臣孫七郎である。この両名を中心とした第一軍はここ、津城から出陣してもらう。良いな。」
『はっ。』
「そして第二軍は大坂側から総大将に後藤又兵衛、副将に塙団右衛門。儂は此度出陣はせぬ。徳川が何かしてくることはないだろうが、津で睨みを利かせておく。長門、説明を頼む。」
「はっ。先程も上様が仰られたように此度の作戦では第一軍と第二軍に分けて進軍を致します。」
「福島様が率いられる第一軍は主に宇陀松山城、高取城を攻撃していただき、その他の諸勢力を平定していただきます。」
「そして後藤様が率いられる第二軍は主に龍田城を攻撃していただき、諸勢力の平定が終了したところで第一軍と合流。共に大和郡山城を攻め落としていただきます。」
『御意。』
「皆の者、思う存分力を奮ってこい!」
『はっ!』
評定後、秀持が立ち上がろうとすると、秀頼に引き止められた。
「孫七郎、少し良いか。」
「某に何か?」
「少し知らせておきたい事がある。お主に大和を任せようと思う。」
「某に大和を?宜しいので御座いますか?」
「儂が津を暫く使うことになった故、お主に伊勢を与える話が白紙になってしまった。こういう状況になった以上、お主には重要な地を任せたい。」
「有り難き幸せ!大和の発展に注力いたしまする。」
「それで、一柳四郎右衛門のことじゃ。あれはお主の家老を続けさせる。その代わり、南伊勢を与えようと思う。」
「良きお考えかと存じまする。」
「北伊勢は元伊勢の領主である冨田平九郎を入れようと思っておる。」
「徳川に捨てられた、あの冨田平九郎にございますか。」
「あやつは備前の親類でな、備前は使えると言っておった。」
「宇喜多殿が仰るなら、間違いはございますまい。」




