第二十九話 本望
大坂城・地下牢近く
「これは…」
「大野修理、お主に逃げる道はもうない!大人しく下られよ!」
「黙れ!雑魚に構っておる暇はない!」
治長は決死の覚悟で敵方に向かい、何とかそれを切り抜けた。
「茶々様!どこにおいででございますか!」
そう治長が進む道は瓦礫で溢れ返っている。壊滅的な打撃を受けたであろうことは、言うまでもなかった。
「修理…」
「茶々様!」
淀がいたのは瓦礫の山の中であった。
「どうなされたのですか!何があったのですか!」
淀は泣き続けた。治長が見渡すとそこには誰もいなかった。
「茶々様、ここにいては危のうございまする。近江にでも逃げましょう」
「もう、よい修理…このつまらなき世など、終わってしまえばよいのだ…」
「茶々様…」
「修理、わらわを殺せ…ここまでわらわに…よく仕えてくれたな…」
治長はその言葉を受け、しばらくたった後、涙を堪えて刀を振り下ろした。
「茶々様…お一人にはいたしませぬ…」
大坂城・本丸御殿
秀頼は大坂制圧の報を受け、遂に居城・大坂に戻ってきた。
「ようやく、大坂に戻ってこられましたな。」
「戻ったと言っても、まだ住めるのは先なのじゃろう、備前。」
「その通りにございまする。完全な再建には二年程かかるかと。」
「そう遠くない頃に大和攻めを行いたいが、この惨状では少し日延べも考えねばならぬか。」
「いや、逆に言えば今が好機かもしれませぬ。」
「何故じゃ?」
「大和の国衆はこの戦がこれだけ早く決着すると思ってはいなかったはず。防戦の準備はあまり万全ではないかと。」
「そうか。ならば大和攻めは早めに行おう。」
『はっ!』
津城・本丸御殿
秀頼は大坂城の仮御殿完成まで大和攻めの準備に注力するため、津で政務を執ることを決めた。
「評定を始めまする。」
「まずは大和攻めに関する事じゃ。総大将だが、此度は市兵衛に任せたい。」
「某にございますか。」
「気乗りせぬか、市兵衛。」
「その様な事は決して…」
「お主、弟を討てるか。」
正則の顔が強ばる。
「お主も当然存じておるとは思うが、あの弟のおかげで我らは大損害を被った。許すわけにはいかぬ。」
「承知仕りました。某の手で大和の国衆、討ち果たして参りまする。」
「見事じゃ。市兵衛、頼りにしておるぞ。」
「はっ。」
「誰か提案のあるものは居るか。」
そう秀頼が言うと、秀家が手をあげた。
「何じゃ備前。申してみよ。」
「はっ。この前少し話しておりました、堺の話にございます。」
「堺か。」
「左様でござる。堺は自治都市を謳っているものの、近頃は反豊臣のような事を行っており、十分脅威になるかと存じまする。」
「左衛門佐はどう思う。」
「某も備前殿と同意見でございます。堺は商人たちが集う商いの町というだけでなく、情報が行き交う場所であり、徳川が堺に影響力を強めている状況は打開せねばなりません。」
「相分かった。備前、堺への介入を進めておけ。」
「御意。」




