第二十三話 反乱
伊勢国・神戸城
甲冑の隅々に傷がつき、今にも倒れそうになっているのは猛将・福島正則その人であった。
「福島殿…!」
「市兵衛、大坂で何があったのだ!」
「謀反にございます!」
摂津国・大坂城
「福島殿。」
「青木殿、どうなされた。」
「実は妙な噂を耳にしましてな。南の浅野が密約を破り、この機に乗じて兵を進めようとしておるそうなのです。」
「真であれば、由々しき事態でござるな。」
「万が一ということもあり得まする。ここは福島殿と孫七郎殿で岸和田に入っていただけませぬか。」
「承知した。青木殿に大坂はお任せしてもよろしいか。」
「勿論にござる。」
和泉国・某所
「青木殿の提案、些か急ではござらんか?」
「確かに、いきなりではあったかもしれぬな。」
「某は少し気がかりでござる。」
「孫七郎殿の言うことも一理ある。岸和田なら近い。ここは一度、大坂に引き返すか?」
「そういたしましょう。」
摂津国・博労淵
大坂城に近づく中で二人が目にしたのは衝撃の光景であった。
「あれは、淀ではないか!」
大軍を率い、馬上に佇むのは、死んだはずの淀であった。
「あの旗印は青木、薄田、大野修理までおるぞ…」
「こうなったか…」
「何か知っておるのか?」
「某は青木や薄田から誘いを受け、謀反を未然に防ごうとあえて向こうと通じておったのです。」
「殿はこの事知っておったのか?」
「青木殿らに不穏な動きがあることは承知しておられます。まさか淀が生きているとは…」
「なぜここで奴らは反旗を翻したのだ。」
「某は再三日延べをせよと言っておりました。協力する気が元よりないことを感付かれたかもしれませぬ。」
「ひとまずここを切り抜けねば我らに道はない。我らの手で逆賊を必ず討つ!」
大和国・某所
淀率いる三万の軍勢と正則・秀持の一万五千の軍勢はそのまま博労淵でぶつかり戦となった。結果は淀らの大勝利であり、秀持は捕縛、正則は敗走を余儀なくされた。
「くそっ!なぜこのようなことに…」
「いたぞ!あれが福島左衛門大夫じゃ!」
「お主らなぞにこの首、渡してたまるか!」
「殿は素直に降るなら命は取らぬと仰せじゃ!」
「お主ら、どこの手の者じゃ。」
「某は片桐家中の者じゃ。」
「片桐…やはり裏切りおったか…」
「豊臣などに今更つく訳がなかろう!」
「口を慎め!」
正則はその者を斬り、伊勢方面へただ馬を走らせた。
伊勢国・神戸城
正則は事の顛末を話した。
「この責は全て某にございまする。多くの兵を失い、豊臣の根城である大坂を敵の手に渡したこと、某の命をもって償わせていただきまする。」
「福島殿の仰られることは間違っておりませぬ。」
「左衛門佐…」
「福島殿や孫七郎殿は大坂の守備を任されたのです。その職務がありながら殿の許しもなく大坂を離れ、挙げ句戦に挑み兵を失った。この責は、重いですぞ。」
幸村の発言で、場の空気が更に重くなる。それを変えたのは、秀家であった。
「殿。備前は、福島殿の処断には反対にございます。確かに此度の一件、福島殿や孫七郎殿に落ち度があるのは明白。しかし命までとってしまえば、徳川を利することにしかなりませぬ。不器用な男ですが、豊家を想う気持ちはこの備前となんら変わりませぬ。どうかここは一つ、寛大なご処置をお願いいたします。」
秀頼は暫し沈黙した。
「分かった。命は取らぬ。暫くは備前の預かりとする。戦で起こした罪だ。戦で返して見せよ。」
「ありがとうございまする!」
「片桐が裏切ったということが真であれば、大和の他の領主も裏切ったと考えるべきであろう。苦しい行軍となる。お主には先陣を切ってもらうぞ。」
「はっ!」
「これより我らは急ぎ大坂へ戻る!一柳に伊勢のことは一度任せる。左衛門佐、四郎右衛門にそう伝えよ。」
「はっ!」
「豊臣に仇なす徳川の傀儡、儂がこの手で切って捨てる!」
神戸城・二の丸御殿
「どうされましたかな。真田殿。」
「一柳殿、些か困ったことになりました。」
幸村は現在得ている情報を直盛に詳らかに話した。
「真でござるか?!」
直盛は思わず声を裏返した。
「そこで、一柳殿には暫くの間伊勢をお任せしたいのです。」
「なぜ、新参の某に?」
直盛の表情は困惑していた。
「殿は難局の今、伊勢を守りきれるのは一柳殿しかおらぬと仰せです。」
「某に、背中を預けられると?」
「無論にございます。」
「ならばこの話、謹んでお受けいたしまする。真田殿、この借りは大きいですぞ。」
伊勢豊臣軍の大坂奪還作戦が今、始まった。




