第二十四話 明石掃部頭
大和国・某所
「市兵衛、お主の弟はどうした。」
「はっ。先ほど返答が。問題なく、通行は可能かと。」
「何じゃ?」
「奇襲でござる!お逃げくだされ!」
「何!?旗印は!」
「沢瀉紋…」
沢瀉紋とは、紛れもなく福島家の家紋である。
「おのれ助六郎、やりおったな!」
「とにかく殿じゃ!どうする!」
「ここはこの市兵衛にお任せ下され!」
「福島殿にはもう任せられん!この明石掃部頭が務めまする!」
「掃部、ここはお主に任せたぞ。」
「はっ!」
「市兵衛、そなたは儂と共に来い!」
「はっ…」
「この明石掃部頭がいる限り、何人たりともここを通すわけにはいかぬ!」
「すまぬ掃部!今のうちに逃げるぞ!」
河内国・国境
殿軍の明石隊は後世に残る大活躍で敵を翻弄し、壊滅。その報を聞いた豊臣軍は意気消沈していた。
「掃部は、このようなことで死ぬ男ではありませぬ。」
沈黙を開いたのは、旧主・秀家であった。
「万に一つ、死んでいたとしてもあやつはあやつなりの使命を果たしたのです。今我らがすべきことは大坂を取り戻すこと。それしかござらん。」
「明石殿がこうなったのは、福島殿のせいではないか!」
そう涙目で叫んだのは、又兵衛であった。
「お主さえいなければ、このようなことにはなっておらんかったわ!」
「それまでにせよ!」
「我慢なりませぬ!某は悔しいのです!なぜ明石殿が死なねばならぬのか!なぜじゃ…」
「冷静になれ。これ以上将兵を失えば、我らは必ず負ける。これ以上の負けは許されん。」
その場にいた全員が息を呑んだ。
「市兵衛。次は儂がお主を斬る。よいな。」
「殿の手を煩わせることはございませぬ。市兵衛の首が落ちるとき、それは戦に負けたときにございます。」
大坂城・本丸御殿
「お主は女子に戦に出よと申すか!」
「ですが、敵方は混乱しております。あの時のように淀様にご出陣していただければ、自ずと敵は内側から崩れるは必定にございます!」
「青木殿、淀様は行かぬと仰せだ。某が淀様の名代として戦場に参りましょう。」
「修理はよく分かっておるのう。それに比べお主らは何じゃ。我らには徳川からの物資や兵、極めつけには四国からの援軍があるというのに。」
「今、何と…」
「もうよい!お主らとは話にならぬ!下がれ!」
大坂城・本丸御殿 廊下
「青木殿、これは…」
「淀はもう期待できませぬな。実の息子と戦うということがあまりよく分かっていないのか、既に限界が来ているか。」
「四国の援軍なぞ、そのような話聞いたこともない。」
「大方淀が徳川から吹き込まれた偽りにございましょう。」
「まさか真に信じておるとは…」
「戦の前に淀を何とかしなければ、これは我らの足手まといとなりかねませんぞ。」
「それには及ばぬでしょう。敵方は伊勢遠征の疲れも癒えぬうちに大坂に取って返しておる。恐らく今頃は大和で袋叩きにあっている頃じゃ。」
「我らと戦う前に秀頼は死ぬかもしれませぬな。」
「それより引っ掛かるのは、孫七郎殿のことにござる。」




