第二十二話 本多忠朝の最期
伊勢国・国境周辺
「もう伊勢に入った!すぐそこじゃ!」
そう忠朝が言った途端後方の兵が騒がしくなった。
「何事じゃ!」
「本多内記じゃな!」
そう言うと、近くの茂みから大量の弓が浴びせられた。
「こうなれば前進あるのみじゃ!進め!」
忠朝はとにかく愛馬と駆けた。ついてくる者はもう誰もいない。
「儂もここまでか…大御所様に喧嘩を売ったのは、やはり身の丈に合っておらんかったな…」
そういうと忠朝は微笑んだ。
「未練はない。大御所様との約束じゃ。」
そう短刀に手を掛けようとしたとき、忠朝は何者かに襲われた。
「何をする!」
「こやつを連れて行け!」
伊勢国・桑名城
「久しいのう。内記。」
「兄上!どうしてこの様なことをなさるのですか!」
「まあまあ、酒でも飲もう。縄をほどけ。」
そう言って兄・忠政は忠朝を奥の部屋に案内した。
「もう一度お聞きします!何故この様なことを!」
「大御所様のお怒りが、それだけ相当なものだったということじゃ。お主も、何故あの様なことを。」
そう言うと忠政は豪快に酒を口に流し込んだ。
「では、あの伏兵は…」
「豊臣の手の者ではない。我が家中のものじゃ。」
忠朝は持っていた盃を床に投げつけた。
「このようなときに!身内で争ってどうなるのです!兄上は、そこまで某が憎いのですか!」
「黙れぇ!」
普段感情をあまり出さない忠政が、怒声を上げた。
「お主のせいじゃ!何故あの様なことを申した!儂の立場にもなってみよ!主の命で弟を殺さねばならぬのだ!その苦労がお主にはわからぬ!」
「ですが某は!」
「いつもお主はそうであった。お主がしたことの後始末は全て儂がした。その癖功を上げた時はいつもお主の方が褒められた。そんなこと、お主は考えたこともないじゃろ!」
「某は徳川の為大御所様に献策をしたまで!兄上にそのようなことを言われる筋合いはございませぬ!」
「お主真に一柳の書を信じたのか。」
「当然にございます。義父上が助けを求められたのです。某が何もせぬ訳には参りませぬ。」
「一柳はとっくに寝返っておるわ!お主は謀られたのだ!」
「儂は、豊臣の術中に嵌まったのですか…」
「見事にな。」
「はっはははは!」
忠朝は高笑いを上げた。
「某も全く阿呆にございますな…まさか策に嵌まるとは。」
「真に、真に阿呆じゃ…」
忠政の目には涙が浮かんでいた。
「兄上。」
「何じゃ。」
「兄上、改めて申し訳ございませぬ。」
「許さぬ、許せるわけなかろう…」
「こうなれば、兄上にお願いしたいことは一つ。入道丸のことにございます。」
「案ずるな、入道丸は儂がなんとかする。」
「これで、思い残すことはもうありませぬ。」
「さらばじゃ。弟よ。」
そういって本多忠朝は奥の部屋に連行された。享年33。この事は徳川に大きな影を落とすことになる。
駿府城・本丸御殿
「そろそろ本多内記も処断された頃かと。」
「そうか。だがあやつの申す通り、このまま引き下がることはできぬ。豊臣の息の根、そろそろ止める時が来た。」
「そうですな。そろそろ頃合いにございますかな。」
「お主も悪いことを考えるのう。今やれば奴らは一溜りも無いだろうに。」
「こう言う所は父譲りですので。」
『はっはっは!』
これから来るであろう豊臣の崩壊に、家康と正純は心を躍らせていた。
神戸城・本丸御殿
「此度の危機は何とか乗り越えられましたな。」
「戦場では何が起きるか分からぬ。皆、気を引き締めよ。」
「はっ!」
「次に手を施さねばならぬのは、恐らく堺かと。」
「某も同意見にございまする。今の堺は豊臣家の領土であるにもかかわらず好き勝手しております。どうやら、徳川と密接に通じておる様子。」
「そうじゃな。一度ここで堺始め、統治について見直すべき時かもしれぬな。」
「まだやらねばならぬ事が山のようにありますな。」
そんなことを話していると、配下の者が勢いよく飛び出してきた。
「なんじゃ。またか!」
出兵中にこの様な事が豊臣軍には続いたため、秀頼は少し苛ついて言った。
「申し訳ございませぬ。福島殿が来られています!」
「はぁ?」
「福島殿は大坂の守りを任されているはず。何故ここにいるのじゃ?」
「殿、これは急用かもしれませぬ。福島殿が無断で持ち場を離れるなど、あるとは思えませぬ。」
「市兵衛をここに呼んでこい。」




