第二十話 鈴鹿川の戦い
鈴鹿川周辺・徳川義直本陣
なんとか高虎をはじめとした武将が持ちこたえているが、その劣勢が義直の経験不足であることは明らかであった。
「前線の戦況は!」
「はっ。増援部隊が奮闘しており、藤堂殿も何とか持ち直しております!」
「なるほど。よし、もっと増援を手配しろ!」
「宜しいのですか?本陣の兵数が少なくなりますが…」
「良い!この時を逃せばまた劣勢になる!」
「承知致しました…」
鈴鹿川周辺・豊臣秀頼本陣
「膠着してきたな。」
「どうなさいますか、何か手を打たれた方がよろしいかと。」
秀家は参謀として今回は秀頼本陣に控えていた。
「お主もそう思うか。どうすれば良いかの…」
「この様な策はいかがでしょう。恐らく敵方の本陣の兵数は増援で減っているはず。そこに真田殿に本陣を急襲させ、木村殿の軍勢二千五百を藤堂軍の対応に向かわせるのです。」
「良い策じゃ。だが本陣の兵が減るのはこちらも同じではないか?」
「確かに兵が減るのはどちらも同じ。しかし敵方に今ついている家臣の数が我らに比べ格段に少ないのです。」
「成瀬が死んだからか?」
「長宗我部殿の攻撃で成瀬隼人正始め多くの義直を支える家臣が討死しております。今義直の周りにいるのは、同世代のいわば子供でございます。」
「分かった。そのように左衛門佐に伝えよ。」
「はっ。」
鈴鹿川周辺・真田隊
「殿!」
「どうした内記!疲れたのか!」
「いや、狼煙が上がっております!」
「狼煙?何かあったのか?」
「我が隊に向けているようにも見えますな。」
「佐助、居るか!」
「はっ、ここに。」
日ノ本に居る沢山の忍びの中でもこの猿飛佐助は一、二を争う能力を持っているといっても過言ではない。
「直ちに本陣に向かい、何があったか聞いて参れ!」
「はっ!」
それからほんの数分で佐助は再び現れた。
「殿!」
「何があった佐助!」
「どうやら真田隊は一時退いて、本陣に回り込み急襲。真田隊があった方面は本陣より二千五百の軍勢を向かわせるとのこと。」
「本陣が少々空くが、本陣には備前殿が居る。急ぎ皆を集めよ!山影を利用して回り込むぞ!」
鈴鹿川周辺・徳川義直本陣
「藤堂勢は!」
「何とか持ちこたえているようですが福島隊の攻勢が激しく、このままでは時間の問題かと!」
「このままでは父上に顔向けできぬ!儂が先陣を切って戦う!」
「殿!なりませぬ!もし殿にもしもの事があれば、全ての戦線が崩れまする!ここは某が!」
「ならぬ!儂が行かねば藤堂殿の部隊が壊滅してしまう!」
「殿は総大将なのです!なりませぬ!」
「藤堂殿を見捨てても良いと言うのか!」
「ん、なんじゃ!」
近くで声が聞こえる。喧嘩か?などと思っていると、赤備えの兵たちが一目散に走ってきた。
「我こそは真田左衛門佐幸村!腕に自信のある者は掛かってこい!狙うは徳川義直の首、ただ一つ!」
「ここは某にお任せください!」
「その様なことは許さぬ!付いてこい!」
「殿は総大将なのです!しっかりしなさい!早う行け!」
「相分かった!逃げる!」
「そうはさせぬぞ!」
そういって幸村が突き出した槍は、非情にもまだ若い総大将の胸を貫いていた。
「父上…申し訳…ございませぬ…」
こうして鈴鹿川の戦いは終結した。奇しくも大坂冬の陣の戦闘が開始した1614年11月19日であった。




