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紅い侍  作者: 柴崎龍
第二章 豊臣の反攻
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第十九話 蝙蝠



伊勢国・亀山



「隼人正、ここはどの辺りじゃ。」



「亀山の山中をそろそろ抜けた頃かと存じます。」



そんな二人の背後から家臣が顔を青ざめてやって来た。



「も、申し上げます!後方の軍勢が豊臣に襲われております!」



「なんじゃと!」



「敵の大将は?」



「旗印は、七つ片喰…」



「まさか…」



「何があったのじゃ!」



そう叫ぶ主に対して正成は改めて向き直った。



「殿、ここは劣勢にございます。狭い道にこれだけの大軍が集まれば向こうの思うつぼ。ここはお逃げくだされ。」



「隼人正はどうするのだ?」



「某は殿(しんがり)としてここで時を稼ぎまする。片付き次第参ります。」



「わ、わかった…」



「後は藤堂殿にお任せいたしまする。殿はそのまま豊臣との決戦にお臨みください。それでは、御免!」



成瀬隼人正正成。家康から九男義直の附家老を命じられたこの男は、最期まで主のために尽くしたのであった。



大坂城・本丸御殿 一ヶ月前



幸村ら七人衆は一月後に迫った伊勢攻めの策を夜な夜な連日練っていた。



「となると、補給部隊が鍵になりますな。」



「敵の兵糧や物資を断つのは戦の要。此度は特に大軍でござる。ここを叩けば見事に崩れていきましょう。」



「ならばそのための部隊を編成しなければなりませぬな。」



「そのお役目、某にお任せいただきたい。」



「長宗我部殿が?」



「長宗我部殿は精強な家臣団をお持ちじゃ。前線を担当していただく方が良いのではないか?」



「だから申しておる。この役目、しくじれば相手に策を見透かされることにも繋がりかねん。仕留めるなら確実性が必要じゃ。」



「確かに、そうでござるな。」


 

「ならば長宗我部殿にお任せしよう。」



「某にお任せいただくのならば、新部隊は蝙蝠隊と名付けたい。」



「蝙蝠?」



「そうじゃ。かつて某の父が信長より『鳥なき島の蝙蝠』と揶揄されたことがあってな。我らは今や流浪の身。その言葉と我らの境遇を重ねたのだ。」



「蝙蝠隊、よき名じゃ。」



鈴鹿川周辺・福島正則の陣



両軍は鈴鹿川を挟んで対陣。しばらくの間、睨み合いが続くのだった。



「福島殿!」



「あぁ…孫七郎殿…」



正則は謀反に秀持が加担しているという噂を耳にしてから、接し方が分からなくなっていた。



「もうすぐ真田隊から砲撃がある頃ですな。」



「そうで、ござるな…」



正則は思わず目をそらした。



「どうかなされたのですか?」



「いや…戦を前に少し緊張しておるだけじゃ。」



「福島殿ほどの武士でも緊張なされるのですか。」



「うん、まあ、実はな…」



「関ヶ原の時も…」



「それより、長宗我部殿は上手くいったかのう。」



正則は強引に話を変えた。



「あれほどのお方です。長宗我部殿もそうですが、あの方の兵は強い。心配いらぬでしょう。」



そんな会話をしていると、真田隊の方角から激しい銃声が聞こえた。



「動いたな。」



「かなり激しいですな。高虎の軍勢にそのまま行ったのでしょうか。」



「もうすぐ我らにも本陣から出撃の狼煙が出る頃合いだろう。」



「あっ!あれは!」



徳川方の背後を襲うようにやってきたのは七つ方喰の旗印を持つ軍勢であった。 



「長宗我部殿が上手くやったぞ!」



「狼煙が上がりました!」



その狼煙を機に福島隊、秀持隊が川を渡り、既に交戦している真田隊と共に真正面からぶつかる。そこに蝙蝠隊が背後をついた。



「藤堂宮内高吉、討ち取ったり!」



「六文銭…真田殿もやりおる。我らも負けていられぬぞ!進め!」



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