第十八話 高虎の決意
上総国・大多喜城
「おい、人払いをしてくれ。」
「はっ。」
忠朝は文に目を通すと目を丸くした。
「なっ、何だと…」
「一柳様は、何と?」
「イスパニアが、豊臣と結ぼうとしておる…」
「真にございますか?!」
「舅殿はあえて豊臣と内通し、その情報を掴んだとのことじゃ。」
「それが真ならば、とんでもないことになりますな。」
「どうやら北伊勢は既に豊臣の圧がかなりかかっているようじゃな。」
「いかがされますか?」
「行くしか無かろうな。神戸に。」
伊賀国・上野城近郊
「隼人正よ、儂に援軍の大将など出来ようか…」
そう馬上で俯くその若者は、尾張藩藩主・徳川義直である。この時13歳。初陣にして豊臣徳川直接対決の総大将を任されたのである。
「心配ございませぬ。この成瀬隼人正正成がいる限り、殿は何も心配ございませぬ。」
「隼人正、早速心配事があるのじゃが…」
「何でございましょうか?」
正成は拍子抜けしたように答えた。
「敵兵が、おらぬ…」
「おかしいですな、いるはずなのですが…」
兵が後方から全速力で走ってきた。
「申し上げます!豊臣勢、神戸城を落としました!」
「何だと?!」
正成が驚きの声を上げた。義直は総大将として、何とかその平静を保っている。
「一柳は?」
「まだそこまでは…」
「豊臣はまだ神戸におるのか?」
「はっ。現在は休息中だそうです。」
「どうなされますか、殿。」
「藤堂殿を呼べ。緊急で軍議じゃ。」
伊賀国・上野城近郊
「してやられましたな、見事な敵方の陽動作戦に。」
「藤堂殿、我らはどこへ向かうべきと思う?」
「某はやはり神戸に転進するのが無難かと。かの地は平地で戦には持ってこいにございます。豊臣も同じことを思っておるはず、ここは向こうに乗って戦で片をつけるのが良いかと。」
「そうでござるか、一柳はどう致す?まだ行方知れずと。」
「逐電ですかな?」
「おそらくは。」
「いずれにしても情報が錯綜しすぎています。慎重に事を進めねば、何か策にはめられておるということも考えられましょう。」
義直は小さくうなずいた。
「隼人正、全軍に転進命令を出せ。」
神戸城・本丸御殿
「面を上げよ。」
「はっ。」
「此度の寝返り、大義であった。」
「滅相も御座いませぬ。」
「暫くこの城を使わせて貰うことになる。この戦が終わった暁には恩賞を与える故心待ちにせよ。」
「有り難き幸せ。」
「ところで左衛門佐、敵軍の動きはどうなっている?」
「ようやく上野より転進したようです。未だ情報は余り掴めていない様子ですが。」
「そうか。戦になりそうじゃな。」
「敵方もそれを望んでおります。恐らくは決戦となるかと。」
「うむ。そろそろあれの出番か。」




