59話 椅子
「わかった、やるよ。やればいいんだろ」
周りの嫌悪に満ちた視線に耐えきれず、俺はいやいやながらセイン達の元へゆっくりと駆け寄った。
「なにあの『仕方ねえな~』みたいな言い方。何様なのあいつ。」
「呼ばれてんだから走っていけや」
ああ、もうなんなのコイツら。別に走っていく距離でもねーし。
俺がセイン達のとこまでダッシュで行って、「お招きいただきありがとうございます!」とか言ったらおかしいだろ! 絶対またなんか言うだろ! いや、そんときは逆に言ってくれなきゃ困るな。
「ん、どうしたのタクミ? 早く座りなよ。ってそっか、座る椅子がないね」
セインはあたりをキョロキョロ見渡し、困ったような顔を浮かべる。
セイン達三人は、各々の席の椅子を持ってきて向かい合わせで座っている。
近くにある椅子は全て誰かしら座っているし、俺の席まで取りに行くのもまあまあ遠いな。
「まあ、立ったままやればいいだろ」
「いやー立ったままやられるとこのゲーム自体やりにくいよねー」
「エマの言う通りだ。そんなこともわからないのか」
いや、確かに一人立ったままだと目線が合わないから「せんだみつをゲーム」やりにくいとは思うけど……こいつら熱入りすぎじゃね。
「わかったよ。ちょっと取ってくるわ」
仕方ない、俺の席の椅子取ってくるか。ってもう誰か座ってるじゃん。
踵を返し自分の席に目を向けると、席を離れて一分も経たない間にもう誰か座っていた。
といってもあそこは俺の席だ。申し訳ないがご退場願おう。
「あの、ごめんそこ俺の席なんだ。悪いけど椅子貰っていいかな?」
「…………」
無視かよなんだこいつ。というか友達と喋ったりする為に座ってるならまだしも、なんで姿勢よくして前向いて座ってんの。
「あの、聞いてる?」
「…………」
ああ、もういい。他を当たろう。
俺はこれ以上関わりたくないと思い、別の椅子にあたることにした。
ん、なんかみんな椅子に深く座り直したぞ……。椅子抱きしめてるやつもいるし。
「いいか、絶対椅子は死守しろ」
「あいつに椅子を明け渡すことは死と同義と思え」
「あの三人とみすみす遊ばせてやるものか」
「椅子取りゲームの厳しさを教えてやるぜ」
ええ、そこまですんのこいつら。椅子取られただけで死って命軽すぎだろ。椅子取りゲームってこんな感じでしたっけ?
「おい、タクミいつまでやっているんだ」
「はやくー。昼休み終わっちゃうよー」
いやー早くしたい気持ちはやまやまなんだが……もう空気椅子でやろうかな。
「タクミ、その、椅子がないなら……私と一緒に座る?」
「え?」
ガタガタガタッ!!
俺のマヌケな声に続いて、深く座り直したはずの椅子から転げ落ちる音が、教室中に響いた。




