60話 解散
「え、今なんて?」
「もー! だ、だからー、一緒に座ろうって」
「どこに?」
「椅子に! タクミからかってるの!?」
「いや、そんなつもりじゃないんだが……」
どうやら聞き間違いではなかったらしい。
セインは座ってる椅子の左端ギリギリに体を移動させ、空きが出来た右半分に手を据え、「ほら」と俺に座るよう催促する。
俺はもう一度辺りを見渡し、誰も座っていない椅子を探してみるが、みんなセインの行動に驚いているのか声も上げずに固まっている。
仕方ねえ、座るっきゃねえか……。
「おい、タクミ! どこに座ろうとしている! 貴様のような下卑た輩がその方の隣に座していいわけがないだろう!」
意を決して一歩足を踏み出すと、後ろからアリアの怒声が飛んでくる。
「下卑たって……ああもうわかったよ。じゃあ立ったままで――」
「いや、それはダメだ」
「はあ、じゃあどうすりゃいいんだよ」
「そうだなあ――よし、では私の椅子に一緒に座ればいい」
「え?」
「か、勘違いするなっ! 仕方なく、だ。ほら、グズグズするな」
アリアはそう言うと、セイン同様に椅子を半分空けてくれた。
「い、いいよアリア。タクミ、早くおいでよ」
「いえいえ、そういう訳にはいきません。ここは私が……」
「ええ、結局どっちに座ればいいんだよ……」
セインもアリアもお互い一歩も引かずに、尚も言い争いを続けている。
「タクミの好きな方に座りなよー。好きな方に」
その光景を、ニタっとした表情で見ているだけだったエマは、期は熟したとばかりにそう言い放った。
「好きな方って――お前なあ」
毎度毎度、話をこじらせるのが好きな奴だよ全く……。
「いいじゃん。わかりやすくて! なんなら私でもいいんだよ?」
エマは二人と同様に椅子の片側に寄り、空いたスペースに俺を手招きする。
「好きな方……うん、私はそれでいいかな」
「ま、まあそれが妥当だな」
セインとアリアはエマの提案に渋々ながら賛成の意向を示す。
「ほら、タクミ-。二人共いいって言ってるし、さあどうぞ!」
クソッ、もう後戻りできない感じになっている……。
誰が一番好きか、だと……そんなこと考えたことねーしな。
教室内には、カチッ、カチッと時計の針の音だけが規則正しく響いている。
好きな奴――うーん、もう「どれにしようかな」とかで決めようかな。
でもそれはそれで失礼だし……てかセインは俺のこと好きって言ってくれてるからわかるけど、アリアはなんでそんな神頼みしてんの?
あれこれ思考を巡らせいると、頭がパンクしそうになる。
ズキズキと頭が軽く疼きだしたところで、ガタガタッふいに誰かが椅子から立ち上がる音が聞こえた。
「ほら、椅子」
振り向くと、しかめ面を浮かべる雫がそこにはいた。
言葉には、悪寒すら覚えるほどに感情が籠っていない。
他にもなにか言いたげだが、読んでいた本を片手にそのまま教室への外へと出て行ってしまう。
「あ、あららー、ちょっと怒らせちゃったかな」
苦笑いを浮かべるエマの言葉が合図となり、教室にいた生徒全員が我に返ったように騒ぎ始めた。
「やばい、あいつ何角関係だよ」
「ああ、このクラスじゃなくてよかったかも……」
「よ、よーし! もうすぐ昼休みも終わるし自分の教室に帰ろーっと」
周りは解散だと言わんばかりに、誰に聞かれたでもない言い訳をこぼして自分の教室へと去っていった。
同じクラスの奴らも、トイレや課題の提出だとかで無理くり言い訳を残し、教室を去っていく。
「よ、よかったなタクミ。たくさん椅子が空いたぞ。取り放題だ。なんなら二個使ってもいいんだぞ!」
流石のアリアも、重苦しい空気を察したのか、冗談で場を和ませようと試みる。
「ハ、ハハッそうだな!」
必死に作り笑いを浮かべることしか、この時の俺にはできなかった。




