118話 洞窟内へ
「ああ、で、こっちですこっち」
「へえ、こんなところにワープホールが」
青い牛の魔物が草の茂みをかき分けると、丸い形をした空間の歪んでいる部分が現れる。エマは興味津々にそれを観察している。
「ここがあそこの洞窟の最深部にあるアルベール様の住みかへと繋がっています」
赤い牛の魔物が捕捉してくれる。さっきまでの好戦的な態度が嘘のように物腰柔らかく接してきてなんだかむずがゆい気持ちになる。
結局あの後、重くなったこん棒にかかった魔法をエマに解除してもらってことで、二体の魔物は俺たちをアルベールの元へと案内すると志願してくれた。
アルベール様を裏切ってでも恩返しがしたいとか言っていたが、たぶん俺たち側につくことでアルベールからの報復を受けずにやり過ごせると思っての判断だろう。
俺たちにとってもありがたい提案だったので、誰もそこにツッコんだりはしなかった。
ちなみに、兄じゃこと赤い牛の顔をした人獣型の魔物がアーデスで青い方がシーデアという名前らしい。みんなからはデスとデアの愛称で呼ばれているとの追加情報もあったが(みんなって誰だよ)、覚えるがめんどくさいと却下され、赤い方を「赤」、青い方を「青」と呼ぶことに即決した。
「では、入りますね」
赤がおいしょ、っとワープホールの中に片足を入れる。ワープホールがマンホールくらいの大きさなのに対して赤の体長は3mほど。どうやって入るのかと思っていると、ワープホールが赤の体に合わせて大きく広がり、あっという間に赤の体を飲み込んだ。
しばらくしてワープホールは元の大きさへと戻り、赤の姿は完全に見えなくなる。
「ここで僕たちがワープしなかったら兄じゃ、どうなりますかね」
「そんないじわる考えないで早くあんたも行きなさい」
エマに青は冗談ですよと笑いながら続いてワープしていく。緊張感ゼロだなこいつ。さっきセインに切られて体ズタズタなの忘れてんのかな。止血されてるとはいえだいぶグロい傷できてるけど。
「ここで私たちが行かなかったら面白くない?」
「流石にかわいそう」
「冗談だよ雫。じゃあ、先に行くね」
エマが笑いながら続いてワープする。次にアリアが入ろうとするもピタリと動きを止め、
「待てよ。ここで私たちが行かなければ奴が単身で敵地に乗り込むことになるな。これは愉快だ」
「アリアもういいから早くっ」
「おっと、押さないでくださいセイン様!」
セインはえいっとアリアを押し込み、二人一緒にワープしていく。俺たちもやれやれと呆れつつ、その後に続いた。
「うわ、本当に洞窟の中なのこれ?」
エマが辺りをぐるっと見渡し驚いている。
ワープを終え現れたのは洞窟内とは思えない高級感溢れる部屋。室内は広く天井も高い。こだわりがありそうなシャンデリアやカーペットに観葉植物なども配置され、高級ホテルのロビーみたいだ。
そこに、牛の魔物二体に水着姿の女子数人と制服姿の男一人。なんてシュールな絵面だこと。
「ささ、アルベール様の自室はこちらです」
「お手荷物お持ちいたしましょうか?」
「お、なんだかホテルマンみたいなこと言って~」
エマは既に魔物たちと打ち解けていた。こん棒に掛けられた魔法を解除したのをすごく感謝しているようだ。余程大事なものだったんだろう。
「おい、なんだこれは?」
「はい? あちらの世界にいたのにご存知ないですか?」
部屋を抜け、だだっ広い通路を進んでいく先に待っていたのはエレベーターだった。一応もう一回だけ言う。エレベーターだった。
「こちらエレベーターといって、これに乗って行きたいフロアを選択すれば自動で動き連れていってくれる優れた機械です」
「そうじゃなくて、なんでここにあるのか聞いてんだ」
「え、でもここはこの洞窟の中央部に位置し、頻繁に通ることも多いのでここに設置するのが使い勝手がいいだろうって」
「俺は設置場所に文句言ってるんじゃねーの! なんでアルガルドにエレベーターがあるのか聞いてんの!」
「だって転移魔法ってマナ消費激しいでしょ? それに誰でもかれでも使えるわけじゃないし」
「それはそうだけど……なんかこう、文明には頼らないとかいうプライドみたいなものはないのかよ」
「ないですないです。プライドあったら殺してこいって命令された対象にへりくだったりしないでしょう。そんなことより行きましょう」
赤はきょとんとした顔でとりあえずボタンを押した。しばらくしてチンと乾いた音が鳴ると、扉が開く。魔物が乗る用だからかエレベーターがかなり広めの設計になっている。
「ほら、みなさんも早く」
赤と青は早々に乗り込み、俺たちを待っている。青は扉が閉まらないように「開」ボタンを押してくれていたので渋々乗り込むと、エレベーターは再び動き出す。
「あ、兄じゃすいません。違う階も間違えて押しちゃって」
「なにやってんだ。そういう時は取り消したい階のボタンをもう一回押せば……ほら、消えるだろ?」
「すごい。ありがとう兄じゃ」
魔物がエレベーター豆知識を披露してるのを黙って聞いていた。なんかすごい不思議な気持ちだ。
セインとアリアとエマはどうやら知らなかったらしく、「へー」とか言ってその光景を眺めていた。よかったなタメになって。
「着きましたみなさん」
しばらくして目的地である地下10階へと到着し、エレベーターから出ると、これまた高級感溢れる部屋が現れた。
通路にはレッドカーペットが引かれ、中央には王がふんぞり返るのにうってつけの玉座が一つ。間違いなく魔王幹部アルベールの部屋だ。
「アルベール様、アルベール様!」
赤が呼び掛けるも返事はこず、室内に声が反響するのみ。
「留守、なのかな」
エマも辺りを見渡しアルベールの姿を探す。しかし、どこにも見当たらない。
「もしかして、でもそんな」
青が真剣な顔で考え込んでいる。
「なんだ、もしかして、私たちが来るのを恐れて逃げたか?」
「いえ、そうではなく」
「歯切れが悪いな。なにか隠し事か?」
アリアがイライラしているのを感じ、二体は顔を見合せ、しかたないとうなずいて再び歩き始めた。
「みなさん、こちらです」
二体は玉座をスルーし、その奥の壁を指す。言われるがまま壁まで移動すると、壁に掛かった絵画を持ち上げ、その裏に出現したボタンをポチっと押した。
「なんてベタな隠し部屋だよ」
「そんなこといって元勇者。わくわくするでしょこういうの」
「まあ、否定はしない」
ゴゴゴと壁は二つに割れ、一つのドアが出現する。ドアといっても今までこの洞窟内で見た重厚なドアではなく、なんの変哲もない、木でできた簡素なドアだ。
そしてドアに「アルベール」と表記されたプレートがかかっていた。それもハート型で。女子の部屋かよ。




