116話 セインの戦術
近づくにつれ、魔物の気配が段々と強くなる。セインは立ち止まり、俺の方をチラッと見た。
「すまないタクミ。魔物の具体的な姿を教えてくれないか」
「ああ、わかった。ちょっと待ってくれ」
転職 『タンク』→『見張り番』
職業を変えたことで視覚が研ぎ澄まされていくのがわかる。見張り番はその名の通り、目により周囲の危険を察知する能力が備わっている。見えるのは周囲数十キロで魔力も可視化しおおよその能力も割り出すことができる。
「魔物は二体だ。どっちも顔は牛みたいな人獣型でこん棒を持ってる。片方は見た目が赤っぽくて炎系の魔法、もう片方は青っぽくて氷系の魔法がそれぞれこん棒の中に込められているな」
そこまで確認してから俺は目を閉じて休ませた。この能力はかなり集中しないといけないので長時間の使用は疲労を伴う。距離が遠くなるとより集中しないといけないのでセインは攻撃されないギリギリのところまで近づいてからこの能力の使用をお願いしたのだろう。
「助かったタクミ。ありがとう」
「ほんとにセイン一人でやるの?」
「ああ、心配かエマ?」
「いいや。ちょっとサボれてラッキーかなー」
「そうだな。久しぶりのアルガルドだ。感傷にでも浸っておいてくれ」
セインは言いながら、剣に魔力を込め出した。魔法剣士を天職とするセインの魔法は直接相手に攻撃するものより武器や肉体への身体能力向上や耐性付与などのバフ系とその逆のデバフ系の魔法を得意としている。
「ま、感傷に浸るまもなく終わってしまうかもしれないが」
「セイン様、お気をつけて。久しぶりの戦闘ですので」
「大丈夫だアリア。この前のお前との手合わせもあって感覚は取り戻している」
心配そうなアリアにセインは薄く笑みを浮かべた。そういえばこの前うっかり柄の取れたほうきを持ったセインが豹変してアリアと戦いを繰り広げたことがあったと思い出す。
「お兄ちゃん、セインさんの剣なんか光り出した?」
ちょんちょんと妙は剣を指差して言った。
「ああ、たぶん俺から聞いた相手の特徴を参考に、戦術を組んでるんだ」
相手のステータスを事前に把握し、対策を打っておくことで不意をつき有利を取るのがセインのスタイルだ。様々な手を尽くし、死に物狂いで勝利を掴む彼女の冷静ながらも熱い思いが俺たちのパーティーを幾度となく勝利へ導いてきたのだ。
それよりも、ここで見過ごせない事態に気づいてしまう。
「妙、もしかして魔法が見えるのか?」
「え、あ、たぶんそうなのかな?」
さっきの魔獣が出現する前も、魔獣から漏れ出て発生していた魔力にいち早く気づいていた。
「環はどうだ?」
「いや、私は全然」
どうやら双子の中でも妹の妙だけに見えているようだった。俺は今一度集中し見張り番の能力を発動する。
すると、妙の体に魔力が巡っているのがわかった。それもかなりの量だ。魔力が可視できるのも納得である。続いて環の方を見てみるが、環には魔力の一つも確認できなかった。
「やっぱり、か」
能力を解除し目をぎゅっと閉じてからゆっくりと開く。すると、妹たちが並んでどちらも恨めしそうに眼前に立っていた。
「なにやっぱりって。妹の水着ジロジロ見て」
「おい落ち着け。そんな意味で言ったんじゃねえよ」
「なに見比べてんの? やっぱり顔は似てるけど体型は全然似てないなってか」
「おい環被害妄想だやめろ叩くな!」
二人は聞く耳を持たず俺に言葉と暴力による波状攻撃を仕掛ける。思ったより力が強く普通に痛くなってきたので俺はちゃっかりタンクにジョブチェンジして二人の気持ちがおさまるのを待った。
異世界に飛ばされわけもわからぬままで不安だろうに、こうも平常運転なのは母親譲りの肝の座りようがいい方向に働いているのかもしれない。
「二人とも水着似合ってるぞ。だからそろそろ許してくれ」
「え、ほんと?」
「騙されちゃダメだよ妙。こいつとりあえず褒めとけばいいと思ってるんだ」
「そうなのお兄ちゃん?」
「違うぞ誤解するな。妙のはこう、フリルビキニって奴だろ? 白のシンプルなデザインだけど妙のかわいさマッチしていてめっちゃ似合ってる。環のは黒のワンピースタイプの水着で大人っぽい印象を受けるけどお腹とか透けてて環のスタイルの良さに合ってて魅力を倍増させてると思う」
どうだ、だいぶ具体的に褒めたぞ。これなら俺が適当に褒めてないことがわかってもらえただろう。
妹たちはもじもじと恥ずかしそうにしてから、
「あんまりジロジロ見ないで」
「それはそれでキモい」
とのことだった。褒めろって言ったのお前たちじゃん。もうどのみち詰んでたじゃん。
「よし、準備万端だ。行ってくる」
そうこうしているうちに下準備を終えたセインが再び歩を進め、いよいよ魔物の元へと向かう。
「タクミ、今はもう既に戦闘中だ。慎んだ行動を取れ」
「いや、マジでごめんそれは」
セインに叱られてしまったじゃないか。完全に俺がいけないけど。
「わかったならいい。それと、」
セインは一度剣を鞘に納める。
「戦闘が終わったら、私のも褒めてね」
ウインクを一つ決めてからまた剣を取り、今度こそ魔物の方へ駆けていった。




