115話 勇者の恩恵
「うわ、またトラップあるぞ気をつけろ」
言われていた通り、洞窟までの道中にはけっこうな数のトラップが仕掛けられており、これでもう8個目となる。
「またか、なにも見えないがな」
アリアは不審そうに言う。雫も一緒になって目を凝らしているが、魔力がないとただの手入れのされてない地面にしか見えないだろう。
「よし、見てろよ」
俺は、その辺にあった石ころを手に取り、トラップがあると思われる場所に放り投げる。すると、地面が割れてあっという間に大きな落とし穴ができた。それだけでは飽きたらず、穴の上の空間が歪み、そこから大きな岩が出現しそのまま穴に投下される。
「いやいや! やりすぎやりすぎ!」
十秒後くらいに岩が穴底に当たった音がしたので、たぶん穴に落ちただけでも死んでしまえる深さだ。それなのに岩で追い討ちを掛けるとは。セインはトラップの本気度に引いていた。
「タクミがいなきゃ死んでるじゃん私たち。ヤバイね」
「なんで楽しそうなんだよエマ」
「お陰でタクミをこっそり連れ込んだ私の罪も帳消しになると思って」
「なるわけがないだろ。タクミがいなければここにいることもない」
アリアの言う通りだ。俺がクローゼットでリオスの鉤爪にぶつかったせいで魔法が発動し、こんなことになっている。
「いや、どうだろう。私は違うと思うけどね」
「どういうことだ?」
「だって、普通、ぶつかったくらいで魔法が発動するかな? それに私たちを呼んだ相手は私たちの行動を把握している感じだよね? タクミが作動させたんじゃなくて、相手が望む状況ができたから転移が行われたんじゃない?」
確かに、ふいに転移が行われたにしては用意周到すぎる。転移先にすぐ魔物も出現したし、こうしてトラップを仕掛けているのも多少の準備期間がないと厳しいものがある。
「エマの言う通りかも。もしかして相手は勇者パーティー全員が私たちの部屋に揃うのを待ってたのかも」
「セイン様まで……でも、そうですね。それならありえなくもないです。……ん、でもそうしたらやっぱりタクミが私たちの家に来たのがいけないのは変わらないことに」
「アリア、いつまでそんな話してんの。今はみんなで協力して洞窟を目指すべきだよ!」
「おい待てエマ話は終わってない」
どのみち俺がセイン達の部屋に来たことが引き金っぽいという結論に落ち着いた。落ち込んでいても仕方ないのでここはできるだけ助力し、許しを請うしかない。
「おいエマ! そこは危険だストップ!」
「え、危な」
アリアから逃走を計ったエマの進む先にはまたトラップが仕掛けられていた。しかし時はもう遅く、トラップは発動してしまう。仕方がないので俺は急いでエマの元に駆け寄り、トラップを代わりに受けることにした。
転職『罠師』→『タンク』
心の中で念じると、体の中を巡る魔力の質が変化したのを感じる。
「お兄ちゃん危ない!」
妙の声が聞こえたかと思うと、地面からバカみたいに巨大なトラバサミが出現し、俺めがけて鋭い刃が向かってくる。
カキーンと甲高い音がした後、トラバサミは完全に閉じることはなく、俺の体に当たったことで刃こぼれを起こして使いものにならなくなっていた。
そう、タンクとなった俺の体はこの程度じゃものともしない程に硬くなっている。さっきの魔獣の時もこの職業を使わせてもらった。
「大丈夫! タクミはこの程度じゃ傷一つつかないから!」
「ほんとほんと。すごいんだよタクミの固さは!」
セインとエマが心配する妹たちにプレゼンしてくれているので、俺は痛くて叫びそうなのをこらえ、アザになってしまった腕を後ろに組んだ。いくら頑丈になっているとはいえ、痛覚が完全になくなるわけじゃないし、なんの装備もしてないので普通に死ぬほど痛い。
このアルガルドという世界を説明する上で欠かせないのが「天職」というものだ。数多ある職業の中から神に定められた自分の天職を見つけだし、それを極めることをで歴史に名を連ねる人物へとなれるわけだ。
天職は基本、一人一つで生まれた時から変わることはない。教会へ行き、神を模した像の前で職業を一つ宣言することでどんな職業へでも転職することができる。
天職に職種が近ければ近いほど、上達も早くステータスの向上も顕著だ。逆に天職から遠い職種だとなかなか上達せず、ステータスも低いまま。
ちなみにエマは魔法使い。セインは魔法剣士。アリアは剣士が天職だと聞いている。
そして、勇者として召喚された俺の固有の能力が「全職業天職適正」と「転職自由自在」というものだ。横文字にすると「オールワークマスター」と「オールウェイズジョブチェンジ」。なんだか社畜極めた奴みたいで全然気に入ってない。
生まれがアルガルドではない別の世界である俺は、神から天職というものが定めれてないので全ての職業を極めることが事実上可能である。そして、いつでも心の中で念じれば教会にいかずとも転職し、職業に沿ったステータスや能力を得ることができる。しかし、異世界転移者としての恩恵はここまでだ。
全ての職業を天職にまで極めることができるというのは、あくまで俺の努力次第だ。ただの高校生である俺が極限まで職業を極めるには途方もない努力の量が必要となる。
そこで俺は攻撃方面は三人に任せて、防御や囮役に特化した「タンク」、トラップを仕掛けたり、逆に見破ったりできる「罠師」などを極めることにしたのだ。攻撃をあえて捨てることで防御のみでパーティーへ貢献し、なんとか魔王を倒すという目的を果たすことができた。
「巷では臆病勇者などと揶揄されていたがな」
アリアに痛いところを突かれ、メンタルにダメージがいく。タンクといえど、心の防御力までは強化してくれない。
転職 『タンク』→『罠師』
また心の中で念じ、周辺の魔力の痕跡を探り、トラップの有無を確かめる。
「トラップは見たところなさそうだな。だけど、そこまで遠くない距離に魔物がいるなそれも二体、か」
今いる場所と目指している洞窟のちょうど中間地点くらいに、かなりの魔力を秘めた魔物を確認する。
「ありがとうタクミ。じゃあ、次は私の番かな」
「セイン様、危険ですここは私が」
「だってさっきアリアが頑張ってくれたじゃん。いいから休んでおいて」
「いえ、そういうわけには。セイン様の身にもしものことがあれば、」
「アリア、」
セインは言いながらアリアが腰に納めていた剣をえいっと奪い去る。
「それ以上は私の力を愚弄するに等しいぞ。下がれ、いいな」
「はい……」
剣を持ち豹変したセインにアリアは従うしかなかった。先陣を切って歩き出すセインの変わりように驚きを隠せない雫達の手を引いて、俺たちは魔物の元へと向かった。
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