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112話 作動する光

「ねえ、アリアまだー? 入るよー」


 なかなか着替えの終わらないアリアに痺れを切らせてエマが入ってくる。


「おい、返事を聞いてから入れ!」

「いいじゃん私の部屋だし。うわ、アリアさっきも見たけど相変わらずすごいねー」

「ちょ、やめろ!」


 エマがアリアにちょっかいを出す。そのお陰でどうやら俺の存在はバレずに済んだようだ。


 そして、衝撃の事実が発覚してしまう。


 さっきうっすらと見えたアリアの胸部の輪郭の変化。エマのこの発言――このことから導き出される真実はそう、アリアは普段、胸のふくらみをさらしかなにかでおさえているということだ。


 ゲーム開始前にこの部屋で着替えていたが、なにやらゴソゴソしていたのは水着の上からさらしを巻いていた為だろう。


 アリア・エルフォードは代々カルサス王国に仕えるエルフォード家の一人娘。アルガルドでは男尊女卑が色濃く根付いていて、アリアも例に漏れず、その洗礼を受けたことだろう。


 父親は男の子を生めなかった母親に罵詈雑言を浴びせることもあったらしい。それも幼いアリアの前で。


 それでも母親はアリアを最後まで大事に思ってくれていたという。病弱だったアリアの母はアリアの小さい頃に亡くなってしまったらしいが、アリアは亡き母親の存在を否定されないように、男性として振る舞うことにしたらしい。


 自分の存在が肯定されれば、その自分を生んだ母親を否定されなくて済む。そんな考えのもと育っていったアリアは女性らしくなる自分の体を押さえつけ、今日まで生きてきていたのだ。

 

 そんなアリアだからこそ、同じような境遇を持ったセインと心を通わせることができたのかもしれない。


「いやー、感慨深いものがあるね」

「なにがだ」

「だって、アリアが水着なんて。提案した時は絶対却下されると思ってたし」

「却下したはずだが?」

「一回だけでしょ。セインがお願いしたら渋々オッケーしてたじゃん」

「それは……セイン様の頼みなら聞かないわけにはいかないだろう」

「うそ。前のアリアならオッケーしなかったと思うよ? お風呂も一緒に入ったことないでしょ? 私ともセインとも」

「そんなこと、覚えてないな」

「はいはい。そういうことにしとくよ。じゃあだいぶハードル上がってるから早く来た方がいいよ。今度はみんなで温泉だね!」


 エマはそう言い残してまた外へと出ていった。しばらくして、


「もう、アリアの水着すごいよ! お金払わなくていいのか迷うレベル!」


 エマの更にハードルを上げる声が聞こえてきた。あいついい奴なのか悪い奴なのかわからん。


 アリアは一つため息をついて少ししてから、みんなの前に出ていった。


「え、アリアすごっ! いつの間にそんなに……」

 

 セインのはしゃぐ声がきこえる。さっきぼんやりと見えた胸のふくらみはセインやエマが普通の体型に見えてしまうほどだった。


 気になってクローゼットから出て、ドアの少しだけ空いているところから覗いてみると。


「嘘だ! 絶対嘘だ!」

「あ、やめろちょっ……」

 

 裏切られたと環はアリアに接近し、あろうことかアリアの胸部に飛び掛かった。流石にみんなに止まられて羽交い締めにされる。うちの妹が申し訳ない。


 とにかく、あのアリアがこうして自分を女性だと認め、楽しく一緒にいれる仲間ができたのは嬉しい限りだ。


 しかし、いよいよリビングに出ていくタイミングを見失ってしまった。今出ていったらアリアに覗きの容疑をかけられて殺されてしまう。


 どうしたものかと考えていると、ふとエマの机にあった一つの写真立てに目が留まる。写真立てとはいったが、伏せて置いてあるのでどんな写真かは確認できない。


 写真立てに手をかけ、後は持ち上げれば写真が見えるところで動きを止める。


 流石に勝手に見るのはマズイか。ちょっと気にはなるが。


 エマはつかみどころがなく、秘密も多い。だが、仲間であることは間違いない。無闇やたらに詮索するのもよくない気がした。


 その時、カタカタと俺の背後で音がした。見ると、さっきまで俺のいたクローゼットから(まばゆ)い光が漏れている。


 なんだ!? もしかしてさっきぶつかった拍子になにかが作動して……。


 クローゼットが勢いよく開き、中に入っていたものがなだれるように落ちてくる。そしてその中には一際輝きを放つものが確認できた。あれは、リオスの鉤爪……!!


 光はどんどん強くなり、俺はエマの部屋を飛び出した。


「ヤバいみんな! なんか光が!!」

「え、タクミ? なんでここにいるの!?」


 みんな驚いた顔で俺を見る。しかし、今はそんな場合じゃなかった。どうにかしなければ!


「エマ悪い! さっきクローゼットが急に光って! たぶんなんかぶつかった拍子に作動したみたいで!」

「光? そんなことある!?」

「お兄ちゃん後ろ!」


 妙の声で後ろを向くとまばゆい光は俺のすぐそこまで来ていて、まぶしさで目を細める間もなく、その光に吸い込まれてしまった。

 


 


 


 



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