108話 脱がせ合い
「あれ、誰かいるの?」
一瞬ビクッとする。が、声の主がエマだと知りほっと胸を撫で下ろす。
「なーんちゃって。びっくりした?」
「お前な……」
かわいくポーズを取るエマに呆れ、俺はのそのそとクローゼットから顔だけ出した。
「そんなところに隠れて……散らかさないでよ」
「悪いな。気をつけるよ」
中にある衣服や置物に当たらないよう一層配慮する。エマの持ち物だからきっとディザイアから持ってきたものもあるだろう。ヘタに触れてめんどくさい事態になったら笑えない。
「とりあえず今のところ順調だから、後はそれとなく出てきてもらえれば完璧よ」
「そうだな、俺が出ていって殺されないタイミングを探さないと」
そう、みんなの会話だけでもじゅうぶん楽しめる要素だが、どうせならこの目で水着姿を見たい。
「そうだね。フォローはするけどある程度揉めた方がおもしろいよねー」
「お前はな。っておい俺まだいるんだぞ!?」
「え? だって着替えにきたから着替えないと。あんまり長いと怪しまれちゃうし」
うんしょとTシャツに手をかけるエマにびっくりする。俺は顔を両手で顔を覆った。
「そうだけど……ひとこと言ってくれよ」
「じゃあ手の隙間からのぞいてる目も隠さないとね」
ちゃっかり見ていたことが看破され、俺はおとなしくクローゼットに引っ込んだ。
「別に見たいなら見ればいいじゃん。水着も下着みたいなもんでしょ」
「女子がそれを言うなよ」
下着と布の面積がほぼ変わらないのに、水着と名前が変わるだけで、女性は奔放に肌を露出する。
逆説的に、水着が恥ずかしくないなら下着姿も別に恥ずかしくないのではと思うが、全然別物だというのが一般的な女性の見解だ。
「それに、タクミになら別にいいけどね」
「な、また思わせ振りなことを」
「だって、私たちの世界を救った勇者だよ? 英雄だよ? これくらいの望みなら叶えてあげないと」
「俺は女性を好き放題したいから必死に戦ったわけじゃねーよ!」
その時、コンコンとノックの音が聞こえ、俺は口を閉じてひっそりとクローゼットの奥の方に潜んだ。
はーいとエマが返事すると、扉がゆっくりと開く音がする。
「エマ、なにか声がしたが?」
「ん? なんのこと?」
「とぼけるな。誰かと話していただろう」
入ってきたのはどうやらアリアだ。扉があるとはいえ、流石に声が聞こえていたか。
「ひとりごとだよひとりごと」
「あんなにはっきりしゃべるひとりごとなんてないだろう」
「ん、じゃあアリアの寝言はどうなの?」
「なんの話だ。私は寝言なんて言わないぞ」
「そっかそっか。そう思ってた方が幸せかもね」
「おい、詳しく聞かせてみろエマ」
エマのお陰で話が逸れていき、俺のことはバレることはなさそうだ。エマの話術を褒めるべきか、アリアの扱いやすさを褒めるべきか悩ましいことろだ。
「なに、私と喋りにきたのアリアは? もう着替えたの?」
「それはまだ、だけど」
「そっか、じゃあ一緒に着替えようよ! ほら、脱いで脱いで!」
「おい、私はまだっちょっ……そんな待ってくれ」
暗闇の中、布の擦れる音だけがくっきり耳に届き、ドキドキしてしまう。これは聞いてていいものだろうか。
アリアは口では抵抗するものの、スルスルとエマに衣服を剥ぎ取られていく。
「ありゃ、あられもないね」
「お前がやったんだろ!」
「後は自分で脱げるかな?」
「……わかったから。あっち向いててくれ」
観念したアリアはおそらく一糸纏わぬ姿になり、素早く水着をつける。
「お、いいじゃん! ほら、鏡見て」
部屋のすみに置かれた姿見に誘導する。
「こんな……これで外に出るなんて私にはとても」
「なに言ってんのアリアちゃん! こんなエロい体して!」
「おい触るな!」
エマがかなりドギツいおっさんと化していた。俺はドキドキして理性で耳を塞ごうとしたが、本能がそれを拒否する。
「全く、お前という奴は」
ぶつぶつ言いながら元々来ていた制服を着直す。
「よし、次はお前の番だエマ!」
気を取り直して大きな声でアリアが宣言する。
「お、そっか次は私か」
「そうだ、覚悟するんだな」
アリアがエマににじるよる足音がする。エマはあとずさることはせず、アリアを受け入れるようだ。
「逃げなくていいのか?」
「ん? だってアリアが脱がせてくれるんでしょ? ほら」
「そ、そうは言ったが」
いざ脱がすとなると恥ずかしいのかアリアが怯む。
「ほら、仕返ししなくていいの?」
煽るエマにアリアが間を空けてから、ガバッと服を脱がす音が聞こえる。
「な、お前もう」
「うん、私さっき着替えたから大丈夫。なにその覚悟決めた顔は」
エマはアハハと笑ってからアリアを置いて先にリビングに出ていった。アリアが膝から崩れ落ちる音が聞こえ、俺も少しだけがっかりする。
どうやら俺が来て制服から部屋着に着替えていた時にはもう下に水着も来ていたらしい。
つまり、さっき俺の前で脱ごうとしていた時も水着だったわけだ。
「全く、あいつは本当に……」
アリアがごそごそとなにやら水着を手直しする音が聞こえる。それがしばらくして止むとゆっくりとリビングへ向かう。
そしてアリアが揃い全員が集まったようで、ゲームの開始が告げられた。




