107話 野球拳
「よし、早速みんなで着替えようよ!」
セインのはしゃぐ声が聞こえる。初めての水着でわくわくしているようだ。
セイン達のいたディザイアでは、この世界と比べて女性の扱いが悪い傾向にあったので、水着なんて文化は存在しなかったのだ。はしゃぐ気持ちはわかる。
「その、いきなりはちょっと」
「うん、心の準備が」
妙と雫は恥ずかしいようで、待ったをかける。
「そうね、とりあえずゲームでもしましょうか!」
意見の分かれた場をまとめるのはエマ。パンと手を叩いてとりあえずみんなで遊ぶことを提案する。
「えー、でもそれじゃ時間がもったいないよ。ね、アリア?」
「えっと、そうですね」
「ん、もしかしてアリア乗り気じゃないの?」
「そんなことないです。でも、ちょっと私もいきなりは恥ずかしいかな、と」
珍しくセインの味方に回らないアリア。よほど恥ずかしいんだろう。
学校に来た時も制服のスカートですら、スースーするとそわそわしていた覚えがあるので、水着なんてもっとハードルが高いはずだ。
「そんな、みんなして恥ずかしがって。環ちゃんは水着見たいよね、ね?」
すがるようにただ一人、発言してない環に意見を求める。ただ、しばらく環の返答がない。
「えっと、環ちゃん?」
「…………」
俺はその場にいないが、この間の環の行動が手に取るようにわかる。
環はじっと、セインの胸を見ているに違いない。
妹の妙に比べて、胸の成長が遅れている(というか止まっている)コンプレックスから、環は女性の胸を変態のおっさんくらいに気にする。
それも同じ同性だからチラ見ではなく、思いっきりガン見したりする。
そして、この水着というどう足掻いても体のラインが出てしまう服を披露したいという、セインの意見の真意を考えているのだろう。
それが、ただ単純に水着という非日常感のある開放的なものを着てテンションを上げたい、楽しみたいというものなのか。
はたまた、水着により、自分の魅力的なプロポーションを他にアピールして、自己顕示欲を満たしたい、自分がメスとして優れているという序列を付ける為のエゴに過ぎないのか。
それをセインの胸の大きさによって判断しているのだろう。この多様性の時代に胸の大きさだけでそこまで考えるか思うかもしれないが、俺の妹ならそこまで考えていてもおかしくない。というか考えていると断言できる。
「私は、アリアさんがいいなら」
「ん、なぜ私?」
戸惑うアリア。セインではなくアリアに委ねたか。
自分と同じくらい、主張のないアリアの胸を見ての考えだろう。今度あいつには「胸の大きさだけで女性の価値が決まってたまるか!」という、俺の人生を変えた名作を読ませてやるしかないようだ。
となると現状、すぐに水着を見せ合いたいセインと、恥ずかしいからもう少ししてからがいいという雫たち5人の意見に分かれた。
今すぐ飛び出してセイン側に一票入れたいが、場が荒れて最悪水着を見れない可能性もあるので、歯をくいしばって耐える。
後は、場をとりもってくれているエマがどんな行動に出るか。ここに全てが掛かっている。
「じゃあ、こうしよう。とりあえずみんな水着に着替えてその上から制服を着ます」
各々相づちをうちながら、エマの話に耳を傾ける。
「そして、みんなでゲームをして、負けた人が罰ゲームで服をちょっとずつ脱いでこう。そしたらゲームも楽しいし、水着も披露できていいんじゃない」
思わず拍手しそうになるのを寸前のところで止める。なんて素敵なアイデアなんだ! 夢なら覚めるな!!
「まあ、それならいい、かも」
「私も構わないぞ」
「賛成! なんかおもしろそう!」
口々に肯定的な意見が並ぶ。これはどうやら決まりのようだ。
「なんか野球拳みたいじゃないですか?」
「え、妙ちゃんなんか言った聞こえないけど?」
「す、すいませんなんでもないです」
妹が脅されている。兄としては助けに行かなければだが、俺は動くなとエマの指示を受けている。すまない妹よ。
「じゃあ、それぞれ着替えていこうか。空いてる部屋に適当に入っていいよー!」
みんな荷物を持ってゴソゴソと移動を始める。俺はマズいと思い、急いでクローゼットの中に身を潜めた。
そして間一髪のところで俺が隠れているエマの部屋に誰かが入ってきた。




