106話 お呼ばれ
エマの話はこうだ。
夏休み、みんなでプールに行く約束をした。中々スケジュールも合わないので各々で水着を買いに行き、当日お披露目するとなっていたがエマ達はプールが初めてなので不安要素も多いことから一度プールでの注意事項を教えてもらい、ついでに水着も見せ合おうという運びになったらしい。
そしてその日が今日というわけだ。
「で、俺を呼んだのは」
「そう! どうせ見せるなら異性の意見も聞いておきたいでしょ? それにタクミがいた方が話がこじれておもしろそう」
「そんなおもしろがり方しないでくれ。当事者は大変なんだぞ」
いつも輪の外で傍観して楽しそうにしてるエマらしい考えだ。しかし、今回だけは感謝しておこう。
「で、他には誰が来るんだ?」
家主のエマ、アリア、セインは確定として他に誰を呼んでいるのか聞かされていない。
「それは来てからのお楽しみだね。お、噂をすればかな」
部屋の外から数名の足音がわずかに聞こえてくる。急に緊張が走りごくりと唾を飲み込んだ。
「タクミはまず隠れてて。じゃないと玄関で帰る人いそうだし」
「おう、わかった」
ちょっと悲しかったが下手したら全員帰りそうまであるのでおとなしくエマの自室に隠れる。
「あんまり物色しないでね。私も女の子だから」
「妙な言い方するな。そんなことしねえよ」
「あ、言うの忘れた。男の人、部屋に上げるの初めてなんだ」
妙に艶っぽい演技をするエマ。俺は部屋の扉をゆっくり閉めて見なかったことにした。
扉の向こうでエマがぶーぶー言っていたが、玄関のドアが開いて「ただいまー」とセインの声がしたので黙っておく。
「お、お邪魔します」
小さくではあるが、確かに雫の声がした。耳をそっと澄ますと足音の中の一つに雫っぽいものもあるのでほぼ確定だ。足音で特定できるとは我ながら気色悪い。
「お邪魔しまーす!」
「お邪魔します」
俺は二つの声を聞いて戸惑う。聞き間違いか!? 俺の妹たちの声に似ていたが?
「いらっしゃい環ちゃん妙ちゃん」
エマがささっと中へ引き入れる声がして疑念が確信に変わった。
どうやらこの家には今、住人であるエマ、セイン、アリア。そしてお呼ばれした雫に妹の環と妙。隠れている俺の計7人が存在しているらしい。
「ん、誰だ私のスリッパを履いてるのは?」
「あれ、私じゃないよ? 雫ちゃん達も別の履いてるし。おかしいな」
セインの困った声が聞こえる。たぶん俺が履いてるやつだ。スリッパの裏側を見てみると「アリア」とでかでかと書かれているのを今さらながら発見する。わかるかい。
「エマ。お前が先に帰ってきていたんだ。なにか知らないか? 今朝、家を出る前まではあったんだ」
頼むエマ。いい感じにフォローしてくれ。
「あ、えっとね……聞かない方がいいかも」
「なんでだ? 私に隠し事か」
暗雲が立ち込める。ここからどう切り抜けるつもりなのか。
俺は耳をよく澄ませてことのなりゆきを見守る。
「そこまで言うならいいよ。さっきね、この部屋に」
まさか早々に俺がいることをバラすつもりか? ハラハラしながらその後の言葉を待つ。
「出たの。あれが」
「あれ? も、もしかしてあれか?」
「そう、A、B、C、D、E、F、?」
「嘘だろエマ……まさかこの家にやってくるはずがない! そんな、そんなことが……!?」
アリアが後ずさる足音が聞こえる。緊迫した空気が俺にまで伝わってくる。
「落ち着いてアリア。でも大丈夫、私がさっき葬ったわ」
「そうか。エマ、ありがとう感謝する」
アリアが素直にエマに礼を言うなんて。よっぽど怖かったんだな。ま、大げさに話してるがゴキブリが出たってだけの話なんだけど。それも嘘だし。
「いえいえ、当然のことよ。それで、とっさに取ったスリッパがあなたのもので……それはごめんなさい。片足なら無事だけど」
「いいんだエマ。お前はよくやった。奴を葬る犠牲になったとなれば、私のスリッパも少しは報われるというもの。もう片方も後を追わせてやってくれ」
「えーっと、ゴキブリ出たからアリアさんのスリッパで退治しただけですよね?」
「環ちゃん!! 野暮だよ野暮!」
「はあ、すいません」
空気を壊す発言をする環の口をセインが制す。
出ていったらゴキブリ扱いされそうだな、と思いながら音を立てないようにしてその後もエマの部屋に隠れていた。




