105話 初訪問
「さ、上がった上がった」
エマに言われるがままついてきて、たどり着いたのはマンションのとある一室。
「ここがお前らの、」
「そ。私とセインとアリアが住んでるマンションです!」
じゃーんと扉が開かれ、中に入るよう促される。
「勢いで本当に来ちゃったけどいいのか?」
「え、なんで? 別いいでしょ」
「だって一応俺男だぞ」
「なにを偉そうに。思わせ振りな態度取るだけ取って責任の一つも取れない意気地無しのくせに。さ、上がって上がって」
「ものすごい悪口が飛んできたはずなのになんでそんな笑顔でいられるんだ?」
エマはなにごともなさそうにきょとんとしている。少し重くなった体をなんとか動かして、お邪魔しますと玄関に入った。
「適当にスリッパ履いてね。私着替えてくるから」
エマはそれ以上の指示は出さず、自分の部屋があるであろう奥の方へ引っ込んでいった。
誰も使ってなさそうな質素なデザインのスリッパをありがたく履かせていただき、恐る恐る足を進める。
「あ、あまりジロジロ見ないでね! 女子の部屋入るの初めてで緊張してるかもだけど!」
「は、初めてじゃねーし!」
緊張してることは否定せず、きょどっていた目線を真正面に固定した。なんか脱ぎっぱなしで放置されたシャツとか靴下とかあったけど別に興味なんてないからほんとに。
進んでいくと、リビングに差し掛かり、ソファーがあったので、誰も普段座ってなさそうなすみっこのほうにちょこんと腰を下ろした。
十畳程度のリビングはテレビに今座っているソファーにローテーブルとあって、片付きすぎず、かといって散らかりすぎずの印象だ。ソファーの後ろに見えるキッチンはカウンタータイプで、奥に見える真っ黒い冷蔵庫が存在感を放っていた。
「や、お待たせ! お、慎ましく座ってるけどそこアリアの特等席だよ」
「マジか、悪い悪い」
「ああいいいい座ってて。アリアも喜ぶよ」
「絶対怒るだろ」
へらっと笑うエマは制服からTシャツと短パンとラフな格好に着替えていた。
「いよいよ魔法使い感ゼロだな」
「お、もしや褒めてるそれ?」
真っ黒なローブを身に纏い、大きな杖を高々と振るっていたあの頃のエマとのギャップがすさまじい。
「なに、そんな見とれて。どうせなら見てよこのほどよく肉のついたふとももを」
「あのな、エマ。そういうので男は興奮したりしないんだ。ふいに見える普段隠されてる部分にグッとくるわけで」
「じゃあ見るのやめたら? めっちゃ凝視しながら言われてもね」
無意識にふとももに吸い寄せられたことに気付き、一つ咳払いして仕切り直す。エマめ、きっと魔法を使ったに違いない。
「全然魔法使ってないよ」
「おい、心を読むな」
「これも別に魔法使ってないから。タクミはすぐ顔に出るんだから」
ひとしきり俺で遊んだエマははい、と麦茶の注がれたコップをテーブルに置いてくれる。素直にありがとうと受け取り、一口いただいてから話を切り出した。
「で、エマ。今日俺を呼んだのは」
「ああそうだったそうだった。忘れてたよ」
ポンと手を打ち、エマはクローゼットをゴソゴソと漁る。
「今日はね、各々買った水着お披露目会をするんだよ!」
専用のハンガーに掛かった水着を体にあてがい、エマは心底楽しそうだ。
俺はテーブルに両ひじをついて、手を組む。
「詳しく聞かせてもらおうか」




