102話 発見
空気が張りつめ、沈黙が時間の流れを遅く感じさせる。誰か通りすがってくれればと願うが、放課後ということもあり一つの足音も聞こえてきやしない。
二人もさっきから黙りこんでいて、したり顔のセインに対しアリアは失意に満ちた顔で俯いていた。この状況から察するに、さっきのセインの発言が真実であることがわかる。
え、アリア俺のこと好きなの? めっちゃ初知りなんだけど……そんな素振り全然なかったじゃん! 普通に恋愛相談とかしちゃってたんだけど。
アルガルドでの旅の道中、俺はセインからの好意にどう応えるべきかなどアリアに相談に乗ってもらっていたのを思い出す。
エマが一番話しやすくはあったが、茶化されたり言いふらされる危険性がよぎってしまい、口が堅そうで歯に衣着せぬ意見をくれそうなアリアによくその手の話はしていた。
想像していた以上にアリアの意見は辛辣で、相談したことを後悔しそうになったこともあったが、最終的に自分の納得のいく答えを出せたのはアリアからの忌憚のない意見のお陰と言っていいだろう。
アリアはどんな気持ちで俺の話を聞いていたんだろうか。その胸の内を知ることはできないが、俺がかなり最低なことをしていたのは間違いなさそうだ。
「勘違いするな」
「え?」
アリアが顔をこちらに向けないまま口を開いた。
「昔の話だ。今はそんな気は微塵もない」
「ならなんでそんな顔が赤いんだ?」
「セイン様は黙っててください! お前もこっちを見るんじゃない!」
「お、おうすまん」
アリアの顔は確認できないが、耳はだいぶ赤くなっている。どんな表情をしているか俄然興味が湧いたが、これ以上は俺にも被害が及びそうなのでおとなしくしておこう。
「昔の話、か。まあそういうことにしといてやろう。最近はあれか、雄牙と仲が良さそうだったが」
「ん、なんの話です?」
「とぼけるな。この前遊園地でいい感じだったじゃないか」
アリアは身に覚えがないようで首を傾げている。だが、セインには確信があるようでぐいぐいと質問攻めにかかる。
「ほら、ジェットコースター乗っただろ?」
「はあ、乗りましたねみんなで」
「その時、怖がるお前も見かねて手を握ってくれたそうじゃないか」
「怖がってません」
「今そこはいいんだそこは」
「怖がってませんから」
アリアは頑として意見を曲げようとしない。目をつぶって情けない顔をしていた気がするがこれもややこしくなりそうなので静観することにした。俺も雄牙とアリアの関係には興味あるし。
「わかったわかった。でも手を握られたのは本当だろう?」
「確か、そうだった気がします」
「そんなとぼけてお前……覚えてないわけないだろう! あれからどうだ? なにか進展はあったのか?」
「進展もなにも、別にあれっきりですよ。それよりも誰から聞いたんですその話? あの時セイン様からは私は見えなかった筈ですが」
アリアの鋭い指摘を受け、セインはピタリと止まってしばらく動かない。どんな言い訳をするか考えているのだろう。しかし、なにも浮かばなかったセインは急に動き出したと思ったらアリアに切りかかっていった。
「御託はいい。ここからは剣で語り合おうじゃないか!」
「苦しくなったからって急に危ないですよ! どうせエマにでも聞いたんですよね?」
「違う! これは内緒と言われている!」
「ほら! それほとんど全部言ってますよ!」
再びホウキとさすまたの攻防が繰り広げられる。俺はやれやれと思いながら、人が通らないか確認しながら戦いの行く末を見守ることにした。
しかし、勝負はそう長引くことはなかった。切りかかったセインが優勢でアリアは防ぐことで手一杯の状況が続き、アリアの持っていたさすまたが弾かれ手から離れていった。
しばらく宙を待った後にからんからんと乾いた音が響く。セインはとどめだとばかりにホウキを天高く振り上げた。その時、俺の体は考える間もなく動いていた。
「終わりだ、アリア」
ブンッと唸るような音で振り下ろされたホウキはその先にあるアリアではなく横から割り込むように入ってきた俺に命中した。
「タクミ!? なんで……」
いってぇぇぇ死ぬ死ぬ死ぬ! 少しは加減しろよセイン!
とっさに防御の構えを取った腕で受けた攻撃は強烈で、あたりどころが悪ければ致命傷にもなりかねえない一撃だった。
衝撃で数メートル飛ばされ、壁に激突したので背中が熱くじんじんと痛む。
「お前、なんで私を庇った」
顔を上げるとアリアがキッと俺を睨み付けていた。返答したい気持ちは山々だが、絶賛悶絶中でうまく言葉が出てこない。
少しは心配くらいしてほしかったが、アリアのことだ、セインの攻撃を対処する用意があったのかもしれない。なのに俺が庇うように割って入ったのが気にくわない、そんなとこだろう。
「大丈夫かタクミ」
「……心配してくれるならこのへんでやめにしようぜ」
「ああっ!……ごめん」
近づいてきたセインのふいをつき、ホウキを取り上げるといつものセインに戻った。手をもじもじして居心地悪そうにしている。
「アリアも、ごめん」
「いえ、私は大丈夫なので」
「ほんと?」
「そう聞かれると困りますね。今はいいので家に帰ったらたっぷり話しましょうか。もちろんエマも一緒に」
「うわ、えっと……お手柔らかに」
「保証しかねます」
ぷいっとそっぽを向くアリアにセインが泣きつく。多少のわだかまりはあれど、仲違いにははならなさそうで少しだけ安心する。
「それで、なんで庇った?」
「なんでって。わかんねえよそんなこと。俺だってなんでって思ってるし」
「考えなしに行動するからそういうことになるんだ」
アリアはやれやれと呆れた様子だ。一応お礼を言われてもいい立場だと思うんだがそんな感じは一切ない。だが、助けなきゃよかっとは不思議と思わない。
「お前のそういうところだ。そういうところが……」
「なんだよ」
「いや、なんでもない」
アリアは出しかけた言葉を飲み込み、俺の持っていた壊れたホウキを取り上げ事務室の方へ歩いていく。
「そういうところだぞっ」
「ぐへっ! まだ痛むからやめてくれ」
無防備になった俺の脇腹をセインに小突かれ、まぬけな声が出てしまう。こいつ、嬉しそうな顔しやがって。
「さて、じゃあ宝探し再会だ!」
「そういえばそんなことしてたな。いや待てよ、そもそも図書室の整理をしてたんじゃなかったか」
「細かいことはあとあと!」
「全然細かくねえから。てかさっき壁にぶつかった時、なんか音しなかったか?」
「ううん、特には。強いていうなら男子トイレの壁のタイルが落ちたくらいだと思うけど」
「それのこと言ってんだよ。まずそこからやらねえと」
痛みのせいでいつもより重く感じる体をなんとか動かし、落ちたタイルを確認する。セインの言う通り、数枚のタイルが壁から剥がれて床に落ちていた。割れているのを覚悟したが、幸いにも下の方のタイルだった為、全てキレイな状態を保っていた。
「よかった割れてない。適当にくっつければなんとかなりそうだ」
「ほんと! やった、今日はついてるね!」
「そうか? うーん、まあそうなのかもな」
悪いことの方が多い気がするが、セインのウキウキした顔を見ていたら俺も楽しくなってきたのでもうそういうことにしといてやろう。
「ちょっと待ってろすぐ終わらすから。ん、なんだこれ」
トイレの外から見守るセインに声を掛けながらタイルを拾い、元の場所に戻そうとすると、タイルが剥がれた壁にはなにやら紙切れが挟まっている。
手に取ってみると、そこには「宝」と大きい文字で書かれていた。




