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100話 男子トイレ

「おい付いてくるなタクミ。誰か残らないと先生に怒られる」

「その考えがありながら俺を置いて飛び出していったのか」


 二人にやっとの思いで追い付いたものの、歓迎はされていない。


「まあすぐ見つけて作業に戻れば大丈夫だよ! それにタクミの方が学校の中詳しいはず!」

「いや、俺もたいして詳しくはないな。まだ半年も通ってないし」

 

 高校二年生ではあるが、去年はアルガルドで冒険していたため学校に通っている期間はまだ少ない。二人と大差ないだろう。


「役に立たない奴め。いったい去年はなにをしていたんだ」

「一緒に冒険してましたよね!?」

「……そういえばそうだったか」

「そういえばじゃねえよ頼むぞアリア!」


 ボケなんだよな? けっこう過酷な冒険だったぞ覚えてないわけないよな?


「もう二人とも。仲がいいのはけっこうだけど時間ないから行くよ」

「セイン様、ご冗談を」

「どうやったらそう見えるんだよ」

 

 セインは俺たちの反論に耳を貸すこともせず、「えーっと」と地図に書いてある星の位置にあたりをつける。


「たぶんあの辺りかな」

「というと、男子トイレですか?」

「うん、ほらこれ見るとあそこが……」

「なるほど、確かにそうなりますね」


 二人で地図とにらめっこして間違いないことを確認。地図から外された視線はそのまま俺の方を向き、アリアが一つコホンと咳払いする。


「喜べタクミ。出番だ」

「他にもいうことあるんじゃねえか」


 手のひら返しもいいとこだ。俺がいなきゃ詰んでたじゃねえか。


「お前がセイン様の役に立てる時が来た。光栄に思うんだな」

「もうアリア、ダメだよそんな言い方したら。ごめんタクミお願いしていい?」

「わかったよ。ちょっと借りていいか」


 セインが持っていた紙切れ、もとい宝の地図を持って男子トイレへと向かう。


「ていうか放課後で誰もいやしないだろうし入ってもバレないんじゃないか?」


 利用者がいる様子はないし、人が通る気配もない。少しくらいならいいんじゃないかと思ってしまう。


「バカか貴様は!? 時代を考えろ時代を!」

「そうだよ、一昔前の考えだよ!」


 だいぶ叱咤されてしまった。はあはあと肩で呼吸するくらい取り乱して怒っている。これは普通に二人が正しいので素直に謝っておいた。


「それともあれか、私が女に見えないとでもいうのかおい」

「そこまで言ってないですはい」


 被害妄想が過ぎる。セインもハッとした顔になり、なにか思い出したようだ。


「温泉で私の裸見ても平然としてたのも……そっか、タクミには男の子みたいに見えたってことだよね」

「誤解を生む言い方をするなよ頼むから!」

 

 セインは自分の体を抱きしめるようにしてしょんぼりした顔をする。抱きしめた感覚で是非ともわかってほしい、どこにそんな豊かな体型の男の子がいるのかと。


「おいどういうことだ聞いてないぞ」

「俺も初耳だよ。違う、あのときは温泉の煙で誰がいるとかわからなかったんだ」


 セインが言ってるのは温泉でのできごとで、入ってきた俺がセインの裸を見ても平然としていたという話だ。だがあれは煙で誰かいるなくらいしか見えなかったし、そもそも男湯に間違って入ったセインにも非がある。


 もう埒があかないので俺は、えいやっと男子トイレに逃げるように侵入。これで二人とも入ってこれまい。


 アリアはまだなにか言いたげだったが、構うことなく宝の地図を頼りに捜索にあたる。


 俺は宝物を探す傍ら、二人のさっきの行動について思いを馳せていた。アルガルドでは女性の地位がだいぶ低く、劣悪な扱いを受けているのが目に見えてわかった。新参者である俺にはそれがより顕著に見て取れた。


 だから、セインもエマもアリアも男らしくあろうと努め、女性であるということを憂いてさえいた。


 それが、誤解とはいえ、女性に見えないということに不満を持つまでになったのだ。二人はその変化に気付いているのか定かではないが、俺はとても嬉しく、感動さえしてしまう。もちろん二人にはそんなこと言いはしないけど。


「特にこれってのはなかったな」


 男子トイレを粗方探し終え、手がかりのなかった俺は二人の元へ合流した。


「ほんとか、ちゃんと探したのか」

「ああ。てか本当にあるのかもわからないからな」

「もう。夢のないこと言わないでよ。一応暇だったから女子トイレも探してみたけどなにもなかったよ。ね、アリア?」

「はい、我々は重要なことを見落としているのかもしれませんね」

「そんな手の込んだことしてないと思うけどな。見ろこのいい加減な地図を」


 改めてみるとただの落書きにも見える。紙もだいぶ色褪せていて、10年以上本に挟まれたままだったのではないだろうか。そうなるとこの宝物のがある場所も掃除され、もうなくなっている可能性の方が高い。


「じゃあ、図書室戻るか」

「そう、だね。でもけっこう楽しかったよ。またリベンジしよう!」

「ですね。あ、先に戻っていてください。私はこれを事務室に届けて来ますので」


 アリアはT字型のホウキを掲げる。といっても棒とホウキを繋ぐネジが取れていて、それを事務室にお願いして修理をお願いするとのことだ。


 俺なら壊れているのを見つけてもそのままにしているだろう。アリアのこういうところは素直に尊敬する。


「あ、すごいもう剣みたいだね!」

「確かにそうですね。ホウキが取れてしまっては木刀とほとんど変わりないです」


 セインが物珍しそうにそのホウキの棒になった方を触る。


「では私は行きますので。……セイン様? 離してもらわないと」


 アリアが棒を引っ張ろうとするが、セインの手は棒から離れようとせず、むしろより強く握られた。


「タクミ、離れろ」


 アリアが深刻そうに放った言葉が聞こえるとほぼ同時。セインに完全にコントロールを奪われた木の棒はアリアめがけてブンッと唸りを上げて振り下ろされる。


 間一髪でよけたアリアは距離を取り、攻撃に備える。


「ほう、よく避けたな」

 

 セインから発せられたその声で、俺は今の状況を察した。

 セインは剣を持つと性格が変わってしまうのだ。それはあの棒状になったホウキでも同じらしい。


「お前と手を合わせるのは久し振りだなアリア。どれ、鈍ってないか見てやろう」


 


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