99話 図書室
「セイン様。ここは私がやりますので」
「ううんいいよアリア。こっちは任せて。タクミの方、手伝ってあげて」
「いえ、あいつは一人で大丈夫でしょう」
「おいこれが大丈夫に見えるか」
俺は図書室の空になった本棚を動かそうと奮闘していた。だが、どうやっても一人では無理そうなので本を種類別に仕分けしている二人に助けを求めた次第だ。
「タクミ、貴様男だろう? それくらい一人でやってみせろ」
「物理的に無理だって話だこれは」
本棚は縦に三メートル程で幅はその倍以上ありそうだ。キャスターもついていないので引きずらずに移動させるには二人で両端を持って運ぶしかない。
「仕方ない、じゃあ私がやるよ」
「いえ、セイン様は今手が離せない状況。ここは私がやりましょう」
「ありがとうアリア」
「いえ、勿体なきお言葉」
「スッとやれよ時間ないんだからってこっちに押してくんな!」
「お前が口答えするからだ」
危うく壁と棚に挟まれるところだった。俺とアリアは指定された場所まで棚を移動させ、ゆっくりと下ろした。
「ていうか元はといえばお前のせいでこうなったんたぞ」
「なんだ、私のせいで教師に怒られて、罰としてこの図書室の雑務を任されたと言いたいのか」
「その通りだわかってんじゃねえか」
アリアが授業中騒いで、仲裁に入った俺たちがとばっちりを受け、連帯責任でこのめんどくさい仕事を放課後にしている状況だ。
ちなみにエマはこうなることを想定していたのか、我関せずの姿勢を貫き、無事先に帰ることに成功していた。
「だいたいなんであんな騒いでたんだよ」
「なんで? お前はあの惨劇を聞いてなにも思わなかったのか? あの明智光秀という男、主君を裏切り闇討ちするなど考えられん……今すぐにでも刑に処されるべきだ」
「気持ちはわからなくもないけど感情移入しすぎだ。あととっくに死んでんだよ」
アリアは歴史の授業にご執心のようで、質問したり、意見を言ったりといつも授業に積極的に参加している。それは良いことなんだが、あまりにも熱がこもりすぎていて、最初は嬉しそうに授業していた先生も流石にと怒り出したのだ。
そして罰として、この図書室のレイアウトを変更するということでその手伝いをしているわけだ。セインはアリアに甘くてなにも言わないので、俺がその分文句を言ってあげないと割に合わない。
「二人とも、喋ってても終わんないよ。大変だけどあと少しだしがんばろ?」
「その通りです、流石セイン様。貴様も見習え」
「おい、俺はずっと真面目にやってるぞ」
あとは、本を仕分けして、本棚に並べていくだけ。三人でやればまあ一時間くらいで終わる筈だ。
俺はまだ手のつけられていない本の山に手を伸ばし、仕分け作業を開始した。
「タクミ、ありがとね」
「ん、なにが?」
仕分けした本をアリアが本棚に入れる為に移動ししたのを見計らってセインはこっそり近づいてきた。
「手伝ってくれて」
「いや、俺も注意されたし、しかたないだろ。それにお前ら二人だけに任せたらもっと大変なことになりそうだ」
「それはそうかも」
「否定しないんんかい」
セインはえへへとあどけなく笑う。図書室をぐるっと見渡して、感慨深そうに目を細める。
「私、楽しいよ」
「このめんどくさい仕事がか?」
「このめんどくさい仕事が。だって、こんなことやらせてもらったことないし」
セインは王女であり、身の回りのことは全てやってもらっていたのだ。こんなザ・雑用みたいなことするのは確かに珍しいことかもしれない。
「こっちの世界に来てよかったよ」
「そう思うのはいいけど今の状況で思うかね普通」
「普通の人は異世界からやって来ないよ」
「その通りすぎるな」
再び手を動かし始めたセインを見て、俺も作業に戻る。さっきよりもなんだか作業スピードが上がった気がする。
「ていうか今日雫ちゃんは?」
「雫? ああ、流石に遅いから先に帰って貰ったよ」
「そっか、悪いことしたね」
「友達が一緒に帰るって言ってたし、まあたまにはな」
雫の友達はむしろ一緒に帰ることを喜んでくれていたのでよかった気もする。雫は何故かうかない顔だったがまあ気のせいだろう。
「じゃあタクミは今日帰り一人だ」
「まあそうなるな」
「じゃあ一緒に帰ろうね!」
「そりゃ、途中まで一緒だろ。これ終わった後特に用事ないし」
「そうじゃなくて! もうわかってないなあ」
セインがなぜかぷくっと頬を膨らませたところで、アリアがやっと帰ってきた。
「申し訳ありませんセイン様」
「遅いよアリア。なにかわからないことでもあった?」
「サボるならバレない程度にな」
「黙れ」
はいめっちゃ怒られたー。ちょっと軽口聞いただけなのに。もう黙って作業してさっさと帰ろっと。
「セイン様、違うんです。実はこんなものを見つけまして……」
「ん、なにそれ?」
アリアは一冊の本を開いてみせ、中に挟み込まれていた紙を取り出した。しおりにしては大きすぎるその紙を広げて俺たちのままに掲げる。
「宝の、地図?」
「どうやらそのようです」
紙の上部には殴り書きくらい汚い字で「宝の地図」とあり、中央には地図らしきものがある。その一ヶ所には星マークがあって、どうやらそこに宝というものがあるらしかった。
「おい、お前らそんなのいいから早く終わらせようぜ、な? おい、目をキラキラさせてどうした? セイン、本を置くな仕事しようぜ。おい、どこ行くんだよ冗談だろ?」
「こんなの誰かのイタズラに決まっています」
「そうだね、全く、誰がこんなことを……タクミ、私たちちょっとこのイタズラした人とっちめてくるよ!」
「絶対今じゃなくていい! 頼むから行かないでくれ!!」
俺の嘆きにも似た声はもちろん二人に届くはずもなく、乾いた二つの足音が消えると静寂が室内を支配した。
――こうなっては仕方ない。俺は一つ深呼吸して集中力を高める。ゆっくりと立ち上がり、閉じていた目を見開く。一つ一つの動作を確かめるようにして体を動かし、やがて図書室のドアに手を掛ける。
「ちょっと待って俺も行くー!!」




