97話 貯金
「はあ、もう。今度からは気を付けてよ」
「「はい……」」
エマは呆れるようにため息をつく。渋々ながら許してもらえたようだ。
「で、本題だけど、」
「本題?」
「二人はこんなところでなにしてるの?」」
顔を上げたエマはすごくいじわるな笑顔で俺たちを見ていた。二人とも不意をつかれなにも言えないでいると、エマが憶測を並べだす。
「ごめんね、いじわるな質問だったね。普通にデートに決まってるよね。そっかそっか。この前遊園地に雫来れなかったし、それでだね。雫の服それ、この前買ったやつじゃない? いやー、みんなで悩んで買った甲斐があったねすごい似合ってるよ」
横目で雫を見ると、俯いて顔を真っ赤にしている。
そうなのか、もしかしてこの日の為に……なんてことはないか。なんか俺まで恥ずかしくてむずむずしてくる。
「ちょっとうっすら、お化粧もしてる? すごくかわいいけどタクミそんなの気付かないもんね。あーあ雫かわいそう」
「え、あ……そうなの?」
確認しようとするも、すごい勢いで顔を横に向けられ、見ることはできなかった。
というかあれだ、そもそも顔を凝視できるほど心に余裕がない。ごめんな雫。
「エマ……」
俺に顔を背けつつ、雫はなにかを示唆するようにエマの名前を呼ぶ。表情こそ見えないが、嬉しいとか楽しいとかプラス方面の感情が込められていないことはわかる。というかたぶん怒っている。
「はいはい、これでおあいこね。ちょっとからかうくらい許してもらってもいいと思うな。あやうく死ぬとこだったんだし」
「そうだ、エマ。結局何してたんだよ」
ここだとタイミングを見計り、話をそらす方向に全力で舵を切る。
「お、話そらす感じ? タクミにはまだなにも報復してないなあ」
「頼むやめてくれ」
「うーん、仕方ない。また今度だね」
どうやらあきらめてくれたようだ。このまま忘れてくれることを願う。
「君たちは私がなにか危なげなことをしようとしていたんじゃないかと、そう思ったわけだね」
頷きもせず無言でただ目を泳がせている俺たちを見て、肯定と受け取られてしまう。
「いやー、普段からなに考えてるかわかんないもんね私。裏でよくないこととかやってそうだもんね……はい、これも否定しないと。君たちが私のことを普段どう思っているかよーくわかりました」
「おい先生口調怖いからやめてください」
俺はともかく、雫も否定しようとしないし、笑ってはいるがまあまあショックを受けてそうなエマは尚も続ける。
「そうだよね、こんな神社に一人で来てさらにその奥まで入っていっちゃうんだから、これはなんかあるぞと思われても仕方ないよね。あーあエマちゃんかわいそう」
「……ごめん」
「ああいいのいいの雫ちゃん。なんか無理矢理謝らせちゃったかな、そんなつもりじゃないのむしろごめんね」
「おいもういいから。本題に入ってくれ頼む」
「もうつれないなあ。えっとね、私はここら一帯の魔力調査をしてるの。なんでかっていうとアルガルドへ帰る為の準備ね」
「魔力調査?」
「そう。タクミは知ってると思うけど、転移には膨大な魔力が必要なの。とても私一人の魔力じゃまかなえないくらいの。タクミ呼んだ時もたくさん魔法使いいたでしょ。あれくらいの人数は余裕で必要」
俺は転移したときのことを思い出す。
確かに、周りにたくさんの魔法使い達がいた気がする。それも全員熟練した凄腕魔法使いだったらしいし、あの日俺を呼んだせいで魔力が空になったと嫌味を言われたっけな。勝手に呼んどいてそれはないだろと心の中で悪態ついた記憶がある。
「でも、魔力を溜めておけば大丈夫ってことで。こうして魔力のふきだまりになってるところを見つけては定期的に魔力を溜めていってるわけ」
「魔力のふきだまりって、そんなことできるのか」
魔力のふきだまりとは魔力が込められている場所のことで、そこで魔法を使うと多少威力が上がったりする。エマはそこに自らの魔力を貯金し、来るべきアルガルドへ帰る日に使用する転移魔法に備えているということらしい。
「そう。それが溜まるのが私の計算だとタクミたちが高校卒業するくらいってところかな」
「そういうことか。だから卒業までにって」
エマは転校して来た日に、俺にだけ時間停止魔法を掛け、卒業までにセインとの関係にけじめをつけてほしいと頼んだ。今はまだ先のことということもあり、なにも決められていないが。
でも、と俺はここで一つ、疑問を抱く。そんな長い年月を掛けて魔力を溜めることなくアルガルドへ帰る術が一つだけあるのだ。
「なにタクミ。言いたいことありそうだね」
「おう……。そんなことしなくても、リオスの鉤爪あるだろ。あれで帰れるんじゃないか?ああ別に帰ってほしいわけじゃないぞ!」
「そんなこと思ってないって。そうだね、私もそう思ったんだけど、」
国宝の一つであるリオスの鉤爪は、魔法を使わずとも、その爪で魔法陣を形成することで転移魔法を発動することができるチート級のアイテムだ。アリアが持っているはずなので、それですぐにでも帰ろうと思えば帰れるはずだ。
「リオスの鉤爪なんだけど、あれ、偽物だったんだよね」
「え?」
あっけらかんと言うエマだが、参ったよといいたげに苦笑するその表情から冗談ではなく、そのことが紛れもない事実であることが伺えた




