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96話 暴発

「なんの用だろう」

「さあ。マジか、だいぶ奥まで行くな」


 エマは神社の社の前まで来ても、立ち止まらず更に進んでいく。足取りに迷いはなく、しっかりとなにか目的を持って行動しているのがわかる。


「あっち、もう建物とかない、よね?」


 もうこの先には雑木林があるのみだ。そんなことにも構うことなくエマは生い茂った林をかき分けながら消えていく。


「行く?」

「うーん、そうだな。なんか嫌な予感するし行くか」


 これ以上進めばエマにバレる可能性が高まるが、そうも言ってられない状況だ。なにを考えてるのか知らないが行くしかない。


「雫は危ないからここで待っといてくれ」

「やだ」

「おい、服だって汚れるぞ」

「いい。拓実もじゃん。それにエマも」


 そうだけど、と反論しようとするがこれ以上言っても聞いてくれそうにないので、仕方なく一緒に行くことにする。


「危なくなったらエマに気付かれるとか気にしなくていいからすぐ言えよ」

「わかってる。ありがとう」


 俺はよし、と頷き雑木林の中に侵入していった。意外にも踏みならされた跡があり、それ通りに進んでいくと、そこまで苦を感じることなく歩くことができた。

 セミを筆頭に虫の鳴き声が俺たちの足音をうまい具合にごまかしてくれているので、エマにバレることはなさそうだ。


「あいつ、頻繁に来てるのかもな」

「うん、そうみたい」


 まさか神社の裏にこんなところがあったなんて知らなかった。やがて、水の音が聞こえてくると、一本道からひらけた場所に出て、真ん中に大きな湖が確認できる。


「なんだこれ、なんで湖が」

「昔からあったの、かな?」


 声を潜めながら、その水際に一人制服姿で佇むエマを観察する。だいぶ距離が離れているお陰で俺たちには気付いていないらしい。


「ていうか、隠れる必要ない、よね?」


 雫が今さらなことを言い出した。確か、最初エマから身を隠したのは雫の筈だ。

 でも、俺は前々からエマには疑問を抱いていた。


 冒険をしていた時も、どこか上の空でなにを考えているかわからないこともあったし、聞いても「なんでもない」としらを切られた。魔王を倒した時も、相性の悪さもあったと思うが、いつものエマらしい戦い方ができてなかったように思う。


 それに、セインが望んだとはいえ、一緒にアルガルドから転移してくる動機はあいつにはないはず。エマは掟に従順な奴だ。気まぐれで手を貸したりしないだろう。


 そして、「優しくないよ私は」というあの言葉の真意も未だわからないままだ。多少罪悪感はあるが、このまま観察しておきたいのが本音である。


「雫、もうちょっとだけでいいから今の状態のままいさせてくれ。頼む」

「わかった」


 雫はこくりと頷き、さらに身を屈めた。俺もなるだけ身を隠し、エマの行動を観察する。


「なんか、霧が出てきたな」

「霧?」

「ああ、夏なのに変だ」


 まだ日も落ちてないし、温度もそこまで低くない。どういうことだ。


「私、見えないけど」

「あれ、そんなはずは、」


 霧に気を取られていると、今度は湖が煌々と光りはじめる。それはどうやらエマによるもので、エマがいる場所を中心に、光は大きくなっていく。


 ここまで来たら流石の俺も察しがついた。これは魔法だ。それもかなり強大な力を持ったもの。この辺り一面に広がる霧だと思っていたやつは魔力の可視化されたもの。魔法を知らない雫に見えてないのはそのせいだ。


「おいエマやめろ!!」


 いてもたってもいられず俺は飛び出し、エマに突進するかのごとく接近していった。


「ん、あれタクミ!? ちょいちょい今はタンマ!」

「こんなことやめろ! なにしようとしてるか知らねえがそんな強大な魔力を使うなんて!」

「なになにっ! やめてお願い死ぬ死ぬ!」


 エマは必死に抵抗するがそうはさせない。かざしていた手を掴み、光に満ちた湖にこれ以上魔力を注ぎ込ませないようにする。


「お前、なにしようとしてるか知らないがそうはさせねえぞ!」

「なにしようとしてるか知らないならやめて! ああもう手遅れだ逃げるよ!」


 エマは俺の手を取り、湖から離れようとする。雫もそんな俺たちを見て雑木林の方に避難していった。湖が見えなくなった頃、爆発音が辺り一面にけたたましく響き、風圧で吹き飛びそうになる。


「大丈夫、二人とも」


 爆発がおさまり、静まり返るとエマの声が聞こえる。


「ああ、なんとか」

「私も」


 外傷はないが、吹き飛ばされてきた葉っぱや砂が服の中に入ってきて気持ち悪い。雫とエマは俺より遠くに逃げていて近くにあった大木や大きな岩のお陰で目立った汚れはなさそうだ。


「それはよかったよかった、じゃないよ! なにさ急に邪魔してきて死ぬかと思ったよ!?」

「いや、すまん。なにかよからぬことをしてると思って」

「タクミの方がよっぽどよからなかったけど!」

「……すまん」

「はあもう……あら、雫ちゃんもいたのね」

「……はい」

「つまり付けてたんだ私のこと。へえ」

「ごめんなさい」


 珍しく怒るエマに言い訳も立たず、ひたすら二人して謝罪した。

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