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第98話 再始動

 新たな目標を胸に、生活ベースというか気持ち的なベースをテン世界に移した俺たち。



 その翌日、レイシュトの商店街に買い物に行った。買い物と言っても、特別ほしいものがあるわけではなく、どちらかというと散歩に近い。


 もっと言えば世界同士を比較するため、というのが1番近い感覚だ。




 レイシュトはテン世界で行った中では1番大きな都市だ。それでも、G世界の都市に比べたら非常に小さい都市だ。


 もちろん、車は走っておらず、電子機器などもない。すべてにおいてゆったりとしている印象だ。



 ゆったりとしているといえば、テン世界では時間を細かく気にしないというのも大きい。G世界から時計を持ってくること自体を考えなかったくらいだ。もちろん、テン世界で時計を持っていても役立つことはほぼない。他の誰も持っていないからだ。



 そして最大の違いは空気だ。


 車の排ガスなどは一切なく、木や草が多いため、空気が非常にきれいなのだ。これは改めてG世界に戻って初めて気付けたことだ。


 空気のにおいはテン世界でコネクトで風を使うときにも気にはならなかった。つまり、風のコネクトがつないでいる先はG世界ではないかもしれないという気付きでもある。



 そんな分析をしながら歩いていると、モカはもっと深いところを考えていたようだ。以前リアさんと個室で食事をしたお店で久しぶりにおいしいお肉を食べながら話をする。


(もぐもぐ……)


「ほんと全然違うわよね。こんなに違うのに、どうやって遺物はつなげられたかしらね」


「(ごくん)ん? そりゃ、遺物だから分からないんじゃない?」


「遺物でも何かしらの仕組みで動いているわけじゃない?」


「まあ、そうだろうけど。遺物が作られたのは1万年も前だろうし……」


「そうか…… そういうことね……」


「?」


 何かモカが気付いたようだ。俺にはまだ想像がつかない。



「すべての遺物が1万年前からあるかは分からないけど、少なくともテンが作ったものはそうよね。その頃からつながったままだったらどうかしら?」


「どういうこと?」


「つまり、1万年前は今ほど遠い世界じゃなかったということよ」


「なるほど。あれ?」


「どうしたの?」



「俺たちが生まれたG世界って、テンが幼くして死んだ世界だよな?」


「たぶんね」


「でも、その世界に遺物でつないだの? 1万年前に……」


「!」



 これは俺自身も盲点だった。


 テンが目指したのは特殊チップを使って移動する先だとどこかで思い込んでしまっていた。モカも驚き、考え込んでいる。



「……ヤマの言うとおりかもしれないわ。いつつないだかはともかく、テンがいない世界に遺物がつなげられるのはたしかだもんね」


「テンやマリは将来G世界になる世界に移動したのかな?」


「さすがにそれはないと思いたいわね…… いくらなんでもその先の文明の発展が違いすぎるもの……」



 お肉を頬張りながらクルルやプリンも考えているようだ。


(もぐもぐ……)


「私だったら眺めるだけにするプイね」


「私も、見てみたい気はすると思うノ」


「……それが素直な感情かもしれないわね。他にもつないでみたかもしれないし、ひょっとしたら、実際に見た世界をもとにメノヴィーアの遺跡を再現したのかしらね」


「なるほどな」




 あの遺跡も想像じゃない可能性があるということか。すごい話だ。


「遺物ってすごいよな。あんなに違う世界をつなぎとめておくんだからな」


「そうね。穴があいたままならなんとか維持できるのでしょうけど、穴の維持自体も大変そうね」


「維持か……」


「それも1種の結合力かしらね」


「結合力?」



「細胞とかじゃなく、世界自体をつなぐ力よ。チップと同じ原理かは分からないけど、遠いところをつなぐには強く結合しないとダメな気がしない?」


「直感的にはそうだな。あれ? それってあんまり離れるとつなげられなくなる?」


「そうかもしれないわね。でも、1万年も大丈夫だったんだから、当分大丈夫じゃない? ヤマがギリギリつないでいる感じがなければ」


「ギリギリ感は全然ないな。インベントリと比べても、ほとんど差はない気がする」


「なら大丈夫そうね。それと、必要な結合力、つまりつなぎにくさが分かれば世界間の距離が分かるのかもしれないわね」


 モカの考えていることが深すぎる。


 もはや、遺物を作れるんじゃないかと思えるほどだ。遺物を研究する研究者も驚くのではないだろうか。カエデさんたちが聞いたら何か教えてくれるだろうか。



「そういえば、ユキさんは護りの腕輪が選んだとして、カエデさんたちはどうやって俺たちのところにつないだんだろうな?」


「それは…… 遺物が選んだのでしょうけど。 ……たしかにどういう仕組みなのかしらね。だって、偶然ユキさんと同じところにつながるなんてあり得ないくらい低い確率よ」


「やっぱり、消しゴムを分析した結果かな?」


「それが1番ありそうね。今度機会があったら聞いてみようかしら。でも、そうだとすると、消しゴムにG世界の痕跡が残っていたということよ?」


「なるほど。遺物なら世界間を通るときにチップを寄生させるくらい何でもありって感じだけど、消しゴムは俺が飛ばしたわけだしな……」


 消しゴムは生き物じゃないし、チップが含まれているわけないし、どうやって痕跡が残るのだろうか。



「うーん。まず、ヤマが消しゴムを飛ばしたときの、テン世界への接続自体はたぶん特殊チップが覚えていたのよね。もともとテン世界からユキさんが持って来たわけだけど、チップだからそうやって覚えられても、まだ不思議じゃないわよね。でも、ヤマ魔法で送り込んだ消しゴムから逆をたどれるのかしらね」


「あるいは、そういうのは何も関係なく、とにかく世界間をまたぐときに何かしら痕跡が残るのか……」


「そうね。世界間の境目が膜みたいになってて、何かがくっつくようなことがあれば分かるのかしらね。エネルギーを使って穴を広げているわけだから、エネルギーに触れるのかしら」


「なるほどな。でも、証明は難しそうだな」



 ユキさんが持ってくるときに特殊チップが覚えたというのはあるかもだが、ユキさんはどこから俺の部屋に来たのだろうか。たしか並行世界研究所と言っていたはずだが。


「ユキさんって、俺の部屋に並行世界研究所から来たって言ってたよな? 研究所の中のどこだろう?」


「ユキさん用の部屋じゃない?」


「そっか。カエデさんの研究室だったら、世界間を通ったときに特殊チップが覚えたのかなって思ったんだけど」


「うーん。案外そうかもしれないわよ。だって、ヤマが寝ているときでしょ? こっちも真夜中なんだし」


「それも覚えてたら今度聞いてみるか」


「そうね」



「ヤマたち、話すのもいいけど、お肉も食べたほうがいいプイよ」


「あっ、忘れてた……」


「食べましょ!」


 話に夢中ですっかり忘れていた。俺とモカも肉を頬張った。





◇


 散歩を終え、ユキさんの家の離れに向かった。


 離れに戻る途中で、庭にいたリアさんに出会った。


「リアさん、こんにちは」


「こんにちはニャ。ヤマ様たち戻っていたのかニャ」


「俺たちも基本はこっちの世界で暮らそうと思って」


「うれしいニャ!」



「今日はユキさんたちは研究所?」


「そうだけど、たぶん今日はもうじき帰ってくるニャ」


「珍しいのね」


「ヤマ様たちのおかげって、ユキ様は仰っていたニャ」


 あまり心当たりはないけど、おそらく特殊チップ関連の研究をする必要がなくなったということなのだろう。



「ユキさんたちが帰ってきたら少しお話がしたいわ」


「分かったニャ。ユキ様たちが帰ってきたら呼びに行くニャ」


「ありがとう」


 俺たちは離れでまったりと過ごした。





◇


 しばらくすると、リアさんが呼びに来てくれた。


「ユキ様たちが帰ってきたニャ」


「ありがとう。じゃあ――」

「こんにちは。今度は私たちが来ちゃったわ」


「どうぞ、って言うのも変だけど…… でも、どうぞ」


「うふふっ」




 離れでみんなで座ってお話をする。


「ヤマさんたちの世界はどうでした?」


「私やヤマにとっては特に変わらずという感じですね。久しぶりでなんか疲れましたけど。あと、クルルとプリンにはちょっと刺激が強過ぎたみたいかしら。それもあって、私たち、基本はこっちで暮らすことにしましたので」


((コクリ! コクリ!))


 クルルとプリンが激しく縦に首を振る。たぶん刺激が強かったというところへの賛同だろう。



「あら、うれしいわ。ならここをずっと使っていいわよ」


「ありがとうございます! そのうち、自分たちの家を持ちたいとは思っていますが、それまでの間、しばらくお世話になります」


 ここがG世界からの帰還ポイントなので、しばらくお世話になるしかなさそうだ。




 それとは別にモカがテルさんに尋ねる。


「テルさん、メノヴィーアに行く時間はいつ頃取れそうかしら? たぶん、1カ月くらいかかると思いますけど」


「いつでも僕は大丈夫だよ。特殊チップ研究をする必要がなくなったし」


「そっか…… ユキさんはいかがですか?」


「私も大丈夫よ。まだ、スミロ人が入り込んだ道は分かってないけどね。とりあえず、私の研究室と洞窟の間の扉は通れないはずだから大丈夫なはずよ」



 プリンが身体を動かしたいって言ってたし、すぐにでも行くのはどうかな。みんなに提案してみよう。


「じゃあ、さっそく明日とかに出発するのはどうかな?」


「えっ、ずいぶん急だけど、テルさんたちは大丈夫なのかしら?」


「僕は平気だよ。むしろ早く行きたい気持ちがすごく強いな」


「テルが行きたいなら決まりね。じゃあ、準備しましょう」


「あっ、大きな荷物は俺が持つので、まとめておいてください。身に着けるものとか、貴重なものだけ持っていてくださいね」


「「?」」


「あとで分かるプイ」

「旅が楽に感じると思うノ」


 ユキさんたちはまだインベントリの便利さを味わったことがないから、不思議そうな顔をしながら、母屋に戻っていった。





◇


 翌日、母屋を訪ねると、荷物がいっぱいだった。


「こんなに持って歩く想定だったのですね……」


「大体いつもこれくらいよ? みんなこれくらいよ?」


「僕も別に多いとは思わないけど……」


「あれ? ヤマさんたち、荷物は?」


「俺たちはしまってあるので。じゃあ、これもしまっておきますね」



(スッ)



「えっ?」


「あっ、これは俺たちの使っている蔵に置いたんです。俺はいつでも取り出せるので」



(スッ)



 試しに荷物の一部を取り出して見せた。



「これもヤマ魔法プイ」

「すごく便利ナノ」

「冷蔵庫も入っているから食べ物も日持ちするわよ」


「えっ、すご…… ヤマ魔法って便利なのね!」



(スッ)



 さて、荷物もしまったし、出発準備万端だ。


「じゃあ、行きましょうか」


「そうしましょう」




 母屋を出たところでリアさんが見送ってくれた。


「行ってらっしゃいませニャ」


「うん。あとはよろしくね、リア」


「はいニャ」




 歩きつつ、これから向かう道のりについて話をする。


「まず、トライオラシに行って、そのあとメノヴィーアに行くつもりですけど、それでいいですよね?」


「もちろん、いいわよ」



 レイシュトの東門を出るときに衛兵に声をかけられる。


「ユキさん、テルさん、いってらっしゃいませワン」


「ありがとう。しばらく出かけてきます」


「分かりましたワン!」



 やっぱりユキさんたちは有名人のようだ。初めての6人旅が始まった。


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