第99話 6人旅
レイシュトを出て、しばらく歩いてからモカが何か思い出したかのように聞く。
「そういえば、ユキさんとテルさんはキメラと戦うときはどんな武器を使うのですか?」
「私は基本短剣かしら。コネクトに頼ることのほうが圧倒的に多いけど」
「僕も基本コネクト頼りかな。一応、短めの剣を持ってはいるけど」
「そうなのね。念のためですけど、2人とも護りの腕輪はされてますよね?」
「「もちろん(よ)」」
そうか、武器とかが俺たちとは違いすぎるのか。
「ねえ、ヤマ。護りのアクセサリーをしているなら、施設の武器とか使えるんじゃないかしら? 第1から第4施設のものがまだ余ってない?」
「そうだよな。使えるものがあるかな」
とりあえず、第4施設で借りた剣とグラディウス、ダガーを見せた。
「私はダガーが使いやすそうね」
「僕はちょっと長いけど、剣を使ってみようかな」
2人はそう言って武器を握った。
「えっ? 何か色がついたような?」
「どういうことだろう?」
「施設の武器は後半の強いものはこうやってほのかな色が出るんです。それは第4施設の武器ですので、緑色です。私たちのは第5施設のものなので橙色です。たぶん護りのアクセサリーを身に着けていないと色は出ないと思いますが」
「えっ、いきなり第4施設のものを借りていいのかしらね……」
「そうか。施設って護り人を育てる意味もあるんだよな…… せめて第1施設のものにしますか?」
「そのほうが気分的にはうれしいわね」
「僕もそうかな」
「分かりました。たしかに成長を感じるためにもいきなり第4施設じゃないほうがいいかもしれませんね。では、こちらで」
謙虚な2人のために、武器を入れ替えた。
「モカ、護りのコートも第1施設のがいいかな」
「そうね。成長を感じるという点ではそうね。第1施設のものでもあるだけでだいぶ違うから意味はあると思うわ」
「護りのコート?」
「これですよ」
俺は第1施設の護りのコートの塊を出した。2人とも不思議そうに見つめている。
「何か、ぷにもちみたいですね……」
「でも硬いのよ」
(カン!)
モカがグラディウスで軽く叩いて伝えた。
「す、すごいですね。これ、どうやって身に着けたら……」
「直接触るだけよ。護りの腕輪をしてるから大丈夫なはずよ」
「「えっ?」」
2人は恐る恐る触る。すると、護りのコートはいつものように動いて、2人は身に着けることができた。
「す、すごいです。着ているかどうかすら分からないですね。脱ぐのはどうやって?」
「意識すれば脱げますけど、身体の中に溶け込ませることもできるから、新しいものと交換するとき以外は脱がないほうがいいですよ。すごく特殊なものだし」
「たしかに、他の人には見られないほうがいいですね」
「あとはいろいろ試して慣れることが大事ですよ」
「分かったわ。やってみるわ」
何か初々しい感じだ。俺たちも最初に使い始めたときはこんな感じだったのだろう。
「じゃあ、そろそろ行き――」
(ヒュッ)
(……ドサッ)
「ますか」
「そうね。行きましょうか」
俺たちは普通に流して行こうとしたのだが、2人はびっくりして固まっている。
「えっ?」
「今、キメラを倒したのですか?」
倒れているキメラを見ているようだ。
「ん? 今、プリンが倒しただけですよ?」
「そうナノ。いつもこんな感じナノ。ヤマとモカは話し込んじゃうことが多いから、大体私が先に倒しちゃうノ」
「あの一瞬で…… 全く気付かなかった……」
「あっ、そうか。まだ今は目で追うのも大変ですよね。そのうち強くなれば見えるようになりますよ」
「そういうものなのですね……」
「大丈夫です。俺たちも最初からこんなに強くなかったので」
「ヤマなんか、最初はイノウシの子どもにやられそうだったプイ!」
「もう、恥ずかしいから言わないで……」
「ププッ」
「そ、そうなんですね! すごく希望が持てました!」
希望を持ってもらえたのならいいことにしよう。
◇
トライオラシまではキメラはほとんど出ないため、その後は安定して進むことができ、数日後にトライオラシに到着した。
「ずいぶんと簡単にたどり着けたわね」
「僕は荷物をヤマさんに持ってもらってるのが大きいと思うな」
「ヤマさんが持っているというのが正しいかは分からないけど、そうよね。おかげで歩く速さが全然違うわよね」
ユキさんとテルさんが少し驚いているようだ。ただ、これは護り人だからというだけではないから、経験が無いのもしかたがない。
モカが2人に説明する。
「そうですよね。ヤマ魔法は特別なので、これまでの護り人たちもみなさん荷物は持っていたと思いますよ。こんなに楽なのは私たちだけなんだと思います」
「やっぱりすごいわよね……」
とりあえずまずはみんなで宿屋を目指そう。
「ユキさんたちはトライオラシに来るときは宿屋に泊まるんですか?」
「そうね。研究が忙しくてキメラ研究所に泊まったこともあるけど、昔の話ね」
「そうなんですね」
キメラについてユキさんに全然聞いていなかったことに今更気付いた。
「ユキさんとテルさんって、キメラについて研究されてたこともあるんですか? 俺たちキメラのこと、あまり分かってなくて」
「うーん。少しだけかしら。テルはどう?」
「僕も少しだけかな」
「そうですか……」
しかたなく、モカのほうを見る。モカが続きを話してくれるようだ。
「キメラって凶暴ですよね。でも、元となっている動物って、あそこまで凶暴じゃないと思いませんか?」
「元となる動物か……」
「それはたぶんヤマさんとモカさんならではの視点よ。私たちは元となる動物に会ったことないんですもの」
「なるほど。そう言われてみればそうですね……」
ユキさんとテルさんの頭の回転の速さもなかなかだ。ユキさんが補足する。
「ただ、キメラ研究所でもそういう研究してたんじゃないかしら?」
「私たちもモミジさんから教えていただいたわ。キメラは子どものときから凶暴だって言ってたわ」
「そうよね。私も今まで凶暴じゃないキメラには会ったことないわ。テルは?」
「僕もさすがにないよ。それにそんなのがいたら、テンは悩まかったと思うよ」
「さすがテルさん。鋭いわね……」
そうこうしているうちに宿屋に着いた。俺たちはいつも通り4人で1部屋、ユキさんとテルさんも夫婦なので当然1部屋という感じで部屋を確保した。
「じゃあ、また明日の朝、このあたりで待ち合わせしましょう」
「分かりました。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
数日ぶりの都市なので、例によってモカの長風呂タイムを待って休むことにした。
◇
次の日、宿屋のロビーでユキさんたちと合流した。
トライオラシでは少しだけ買い物をして、すぐにメノヴィーアを目指すことにした。俺たちだけならゆっくり滞在しても良いのだが、ユキさんとテルさんは研究が忙しくて、あまりゆっくりはできないだろうから。
南門から出てしばらく進んだところで、以前も気になったことをユキさんたちに聞いてみる。
「あっちに山が見えると思うんですけど、山に登ったことがある人っているんですかね」
「えっ? 聞いたことないわね……」
「僕もないな…… 山のほうにいくと、キメラが多いんだったか強いんだったか、そんな感じじゃなかったっけ?」
「山というか南に行くほど強いですね。あとは山のそばは飛ぶキメラが多いかな…… もうじきそういう場所に行くので、上に気を付けてくださいね」
「そうなのね。それにしてもヤマさんたちって私たちが気付かないことに気付くのね。私たちは山に行こうとも思わないわ」
「そういうものなんですね」
「だってキメラがいそうだもの」
「なるほど……」
モカが補足してくれる。
「私たちの生まれた世界だと、キメラがいないから普通に山登りを楽しむ人も多いんですよ。ただ、クマとかは出るので、危険は危険ですけど」
「まあ、クマ系のキメラに比べたらマシですけど、クマに武器を持たずに挑んだら普通の人なら殺されちゃいますけどね……」
「そういうものなんですね」
山を見ながら思わずつぶやく。
「あとは…… 山の向こうがどうなっているのかな、って俺なんかは思っちゃいますけどね」
「山の向こう…… うーん。でも、レイシュトから西に行くなら山の向こうまで行かないといけないと思いますよ?」
「えっ? そうなんですか?」
「だって、レイシュトの西にも山があるじゃないですか」
「そう言われてみればそうだった……かな?」
ユキさんに言われても見た覚えがない。
考えてたら、モカたちから一斉に突っ込まれた。
「レイシュトは西側に門がないから、ヤマは気付かなかったのね」
「ヤマはモカばかり見て歩いているからプイよ」
「そうナノよ」
(ヒュッ! ヒュッ!)
(……ドサッ)
「ちゃんとクルルとプリンも見てるよ。3人をいつも見てるからレイシュトの西の山には気付かなかったんだよ、きっと」
「「ならいいことにするプイ(ノ)」」
そんな会話をしながら普通にキメラを斬るプリン。ユキさんたちはまだ慣れないみたいだ。
「今のキメラって……」
「? たぶん、ワシライだと思うノ」
「洞窟の外のキメラは強くないから戦いやすいわよね」
「そうナノ」
「え……」
「僕たちもこんなに強くなれるのかな……」
「ど、どうかしらね。母たちもここまで強くなかった気がするのは気のせいかしら」
「それは、たぶんユイさんたちの本気の戦いを見たことがないだけじゃないですか?」
「私もそう思うわ。私たちとユイさんたちはたぶんそんなに変わらないと思うわよ」
「そうだといいのだけど…… そういえばヤマさんたちの本気の戦いはスミロ人との戦いで見せてもらったわね。あれに比べたら今はかなり余裕よね。速さも攻撃の種類も全然違うわ」
「そうよね。だって、そもそも今はプリンしか戦ってないわよね。もう少し強くなると、私の光を使うことが多いわね。それより強くなると、クルルとヤマのコネクトの組み合わせで一気に気絶させたりするし、最後の最後にヤマ魔法って感じよ」
「ヤマ魔法っていう奥の手があるのは心強いわね」
「そうなのよ。そのおかげで私たちは生きて来られたの」
「そうなんですよ。ユキさんが俺にあれを寄生させてくれたから、俺たちは生き延びているんですよ」
「そ、そうなのね…… なんかそう言われると不思議とうれしくなるわね」
この道を通るとどうしてもキメラとの戦いが多くなる気がする。基本的には俺たちですら気付いたときには居合抜きが発動する寸前なので、ユキさんたちだと、倒されたあとしか見ていない感じのようだが。
◇
しばらく進むと分かれ道に来た。
「ほんと、あっという間ね。ここまで来たらメノヴィーアは近いわよね」
「たしか、あと1日くらいですね」
「僕はなんかドキドキしてきたよ」
「テンの生まれ故郷と言われているものね。まあ、実際は違うのだけど……」
「えっ? あっ、そう言えば、遺跡は再現したって言ってたっけ……」
「そうなのよ。それに、行けば分かるわ。生まれ故郷のままの遺跡ではないことは中を見れば気付けるわ」
「しっかりと目に焼き付けるよ」
その後、メノヴィーアのほうに曲がり、1日ほどで、メノヴィーアに到着した。




