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第95話 帰還方法

 翌日、ユキさんたちと研究所に向かった。


 前日と同様にユキさんの研究室に行き、奥まで進む。


「あっ、ここって、俺たちでも開けられるんですよね?」


「えっ? あっ、そうかもしれないわね。ヤマさん、試してみます?」



 俺が試してみると、護りの腕輪はちゃんと反応し、扉が開いた。


「やっぱりそうだったんですね。この護りのアクセサリーじゃないと入れないところが結構あるんですよ」


「そうなんですね」


 雑談しながら、昨日入る直前まで行った部屋に向かった。




 部屋はそれほど大きくはないが、いくつかの遺物が置いてあった。その中からユキさんが遺物を選び出す。


「これです」


 持ってきてくれたのは、縦長の箱型のような遺物だった。上の部分にはユリの模様が付いている。それを見たモカが聞く。


「これ、護りのアクセサリーがないと動かせない遺物かしら?」


「ええ、そうみたいなの。でも、エネルギーがたまってないと大きな穴はあけられないみたいなの」


「接続先は固定なんですか?」


「そうじゃないみたいなの。私の腕輪が反応して選ばれた場所がヤマさんのところだったの」


「なるほど。そうやって選んだんですね。どうやってヤマを見つけたのかが不思議だったのよ」


「そうですよね。もともとヤマさんのことを知っていたわけじゃありませんから」




「ちなみに、3、40年くらい前に使った人がいるか分かりますか?」


「3、40年前ですか? お祖母様の時代かしらね…… さすがに分からないわ。ただ、私が使う前にも使われたことはあったようです。腕輪を近づけたら場所が変わったような表示がされたので」


「なるほど。となると、ユキさん以外の腕輪を近づけたら、帰れなくなるわね」



 言われなかったら、危なく触るところだった!


「気付いて良かった。俺が試しちゃうところだったよ」


「もう、ヤマ。気を付けてよ」


「ごめんごめん」




「で、まだこれ動いているから小さな穴があいたままじゃないかって言うことね?」


「ええ、そうじゃないかなと」



 問題はここからどうするか、だな。


「ヤマ。ヤマなら薄っすらと、ヤマの部屋が見えるんじゃない?」


「えっ? あっ! そういうことか! 試してみるよ」


「?」


 他のみんなが分からないのはしかたがない。




 穴があいているところから向こうの世界の光が漏れてきていれば、俺ならそれが薄っすらと見えるはずなんだ。


 俺は遺物の周りをじっくりと歩き始めた。


「ユキさん、穴の中心ってどのくらいの高さですか?」


「うーん。私の肩くらいだったと思います」


 ユキさんの肩くらいに目が来るように中腰になって注意深く見ながら歩くことにした。




(もやっ)




「ん?」


 何か見えた気がする。


 見えた位置あたりに戻って意識を集中した。




「おっ、見えた! 俺の部屋だと思う。ベッドが見える!」




「すごいわ、ヤマ! その見えた先を接続先として覚えられない?」


「やってみる!」


 目を閉じて集中した。


 目を開かなくても見えてくるのだ。おそらくAI細胞が俺に見せている。だから、目を閉じたほうがうまく接続先を覚えられそうだ。


 最もはっきり見える中心を探す。どうやら枕のあたりが1番はっきり見えるようだ。さらに絞り込んでいく。



(ここだ!)



 中心の1点に意識を集中した。その先を接続先として覚えるように……



「ふぅ……」


「どうだった?」


「試してみるよ?」


「うん」



(ヒュン)



 インベントリをつなぐ要領で、さっき覚えた接続先につないだ。


 穴の向こうには俺のベッドが見えた。



「やったわ! 成功だわ! ヤマのベッドだわ!」


「うまく行ったな。これでいつでもつなげられるよ」


 試しに1回閉じて、別のところに穴をあけてつなげられることも確認した。



「ヤマ魔法って本当にすごいのね。遺物すら超越しているのね」


「ヤマ、帰っちゃうプイ?」


「へ? 今から?」


「違うノ?」


「うーん。どうしよう?」


「うふふっ、ヤマらしいわね」


「「?」」




「帰ったあと、何が起こるか分からないから迷っているんでしょ?」


「やっぱりモカには分かっちゃったか」


「当たり前よ」


「「?」」


 クルルとプリンは不思議そうな顔をしている。



 しかたがないから説明する。


「たぶん、普通に行って帰ってこれると思うんだ。でも、もし、帰ってこれなかったら、って思っているんだ」


「だから、帰るときに穴を通る人は、俺とモカ、それにクルルとプリンにもできれば一緒に来てほしいんだ。2度と会えなくなるのは嫌なんだ。でも、もし、帰れなくなっちゃったら、クルルとプリンはこっちの世界の人ともう会えなくなっちゃうから悩んでいるんだ」


「なんだ、そんなことプイか。行くに決まってるプイ。私はヤマの第2夫人プイ」

「私も行くに決まっているノ。私はヤマの第3夫人ナノ」



「あ、でも、あっちの世界の俺たちが住んでいるあたりは重婚禁止なんだ」


「えっ、ヤマ、そんなこと気にしてたの? どちらにしてもクルルとプリンは向こうに戸籍がないんだから、事実婚しかないわよ。法律上は私としかもともと結婚できないわよ」


「あっ、そっか。なら関係ないのか……」


 ん? さっき私としか、って言ってたけど、モカと俺が向こうでも結婚するのは既定路線なわけね。もちろん俺もそのつもりだけど。



「あっ、あと、もし俺たちが帰って来れないと、護り人がいなくなっちゃって困るんじゃないかなあとか、メノヴィーアには光のコネクトを使えるモカがいないと困るんじゃないかな? とか……」


「それはあるわね……」




 ここまで話したときにユキさんがしびれを切らしたのか、提案をしてきた。


「もともとこっちの世界の都合でヤマさんたちは連れて来られたのよ。そんなにこっちの世界のために自分を犠牲にしないで。ヤマさんたちの幸せも大事よ!」


「そ、そうか。みんなの幸せを護るには、自分の幸せも護らないとな」


「そうね!」




 ここで少し俺は考えた。そもそも戻ったあと、何をしたらいいんだろうか、と。


「なあ、モカ。戻ったあと、俺たちやることないよな?」


「ん? そうね…… 大学に通うのもつまらないわね……」


「え……」


「大学を休学するのと、親に別の国でヤマと一緒に勉強してくるって伝えるくらいかしら? あとはクルルとプリンを案内するくらいしかやることないわね。あっ、カエデさんたちも案内するって約束したわね」


「そうだな。親は心配しているかもしれないから連絡はしないとな」



「じゃあ、1回帰りましょうか」


「だな。あとは、こっちの戻り先だよな。向こうの世界からの接続先がおかしくならないように、もう1箇所覚えておこうかなって。今のままだと、万一インベントリに戻るしかなくなると、蔵に鍵かかってて大変だから」


「それもそうね」




 俺たちの話を聞いていたユキさんが、さらに提案してくれた。


「それなら、私の家のどこかを使えばいいわ。離れはもう1つあるし、そこがいいんじゃないかしら?」


「え? いいんですか?」


「もちろんよ」



 俺とモカは顔を見合わせてうなずき合った。


「「よろしくお願いします」」





◇


 ということで、さっそくユキさんの家に戻ることに。研究所の守衛では短時間の滞在だったためか少し不思議そうな顔をされた。


 そのあと、ユキさんの家のもう1つの離れに案内してもらった。


「ここの鍵よ。自由に使ってもらっていいわ。合鍵はあるから、向こうの世界に持っていっても構わないわ」


「ありがとうございます」



 とりあえず中に一緒に入った。


 離れの中で、靴を持って移動しやすい場所に目星をつける。玄関の隣の部屋の角あたりだ。そこを接続先としてしっかりと覚えた。


「さあ、いよいよ初めての世界間移動だな。最初は行ってすぐに帰ってくるので、待っていてもらえますか? もしすぐに帰って来なかったら俺たちはもともといなかった人ということで……」


「もう、そんなに心配しなくて大丈夫よ。みんなヤマを信頼しているわよ」


「うふふっ、そうよ」



 俺とモカ、クルルとプリンは靴を持って、準備した。


「じゃあ、行くよ」


「うん」

「「行くプイ(ノ)!」」



(ヒュン)



 穴の位置を固定にした。大きさは十分に通れる大きさだ。


 4人で手をつなぎ、はぐれないようにして、一斉に穴をまたぐ。




 無事に通れた!




 穴の向こうまで行ったあと、一旦、穴を閉じた。ただ、閉じると言っても、実際は小さな穴があいているはずだ。


「わあ、ここがヤマの家プイね」


「見たことがないものばかりナノ」


「ま、そうだよな。あっ、スマホ。俺のは充電器に刺さってたけど、モカのは?」


「私のはかばんの中だから電池切れよ」


「じゃあ、この充電器に挿して。そうしたら一旦戻ろう」


 スマホの日付を見たら、2月21日だった。半年以上もあっちにいたことになる。


 モカが充電器に挿している間にちらっとスマホを見たが、ヤバそうな連絡はなさそうだ。まあ、みんな俺が普通に大学生をしていると思っているのだろう。



 モカが準備を終えたので、戻ることに。


「じゃあ、1回戻ろう」



(ヒュン)



 穴の向こうはユキさんの家の離れだ。


 4人で手をつなぎ、一緒に穴を通過した。



「おかえりなさい!」



 ユキさんが声をかけてくれた。


「成功だわ! ヤマ! 行き来できるようになったわ!」


 モカがうれしくてピョンピョン飛び跳ねている。こんなにうれしそうな姿も珍しい。


「ああ、やったな!」


 俺は思わずモカを抱きしめた。モカは薄っすらと泣いていた。




 しばらく抱き合ったあと、現実に戻り少し恥ずかしくなる。


 ふと気付くと、ユキさんたちも涙を流していた。


「本当、良かったわ」



 一方のクルルとプリンはうれしそうだ。


「まだまだやりたいこといっぱいあるプイよね」


「そうナノ。私たちのお仕事はいっぱいナノ」



「じゃあ、少しだけ向こうの世界で過ごしたら戻ってこよう」


「そうしましょう」

「「行くプイ(ノ)」」


「離れの鍵は外からかけておくから気にせずに行ってらっしゃい」


「ありがとうございます!」



(ヒュン)



 また、俺の部屋に移動した。


 とりあえず靴を持ったままもいまいちなので、玄関に置きにいく。


「あっ、ヤマ。玄関に置かなくても、インベントリに置けないかしら?」


「えっ? インベントリ? そっか。ここからでもつながるのか」



 試してみると、これまで通りインベントリにつながった。


「インベントリは普通につながるみたい。となると、世界間を移動するときの荷物はインベントリに入れておけばいいんだな」


「そうね。今は少しの間、こっちで過ごすから玄関におきましょうか」


「そうだな」





◇


 クルルとプリンは目をまん丸にして、周りを見ていた。


「あっ、ヤマ、私、スマホの充電がある程度できたら1回服とか取りに家に戻るね」


「そうだよな」


「えっ、ヤマとモカって一緒に暮らしてなかったプイ?」


「そうよ。こっちではまだ結婚してないの」


「いつするノ?」


「いつでもいいけど、紙に書いて出すだけだからあんまり関係ないわよ。どうせ向こうの世界に行けば夫婦として認められているんだし」


「たしかにそうプイよね」



 モカの覚悟がすごい。まあ、俺としてもモカ以外と結婚するなんてもう絶対にあり得ないから、当然というスタンスだが。



 まずはこっちの世界で、部屋の中での生活に必要なことからクルルとプリンに説明する。


「クルル、プリン、まずこっちきて」


「「分かったプイ(ノ)」」


 最初は台所というか、水だ。


「ここを上げると水が出るんだ」


(ジャー!)


「すごいプイ!」

「しかもすごいきれいナノ!」


「そうだよな。あとはお手洗いはこっちね」


「なんか変な形プイ」


「あっ、使い方はモカに教えてもらったほうがいいかな」


「あっ、そうね。あとで教えるわ」




「で、こっちがお風呂」


「面白いプイ」

「なんかいろいろと光るものがあるノ。変わった文字もいっぱいあるノ」


「そうなんだよな」




 部屋に戻って、テレビをつけた。


「これがテレビっていうやつなんだ。遠くの映像を流しているんだよ」


「ナ! 何ナノこれ!」


「人が動いているプイ? 中に入っているプイ?」


「入っていないよ。映像だけ表示しているの」


「すごいプイ」



「あっ、で、これが遠くの人ともお話ができる機械」


「ヤマ、とりあえずご両親に連絡しといたら? 私も外国にしばらく行くってことにするわ。そうね。アメリカあたりでどう?」


「そうしよう」




 このあと、久しぶりに両親に電話した。


 元気そうだった。俺の話を疑念なく聞いてくれた。


 そのことよりも久しぶりに声を聞いて、泣きそうになるのを必死に堪えるほうが大変だった。その点はモカも同じようだった。


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