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第94話 かたき討ちのあと

 亡くなったスミロ人のベルからキメラを倒したときと同じように、細胞が飛んできた。飛んできた細胞はそのまま俺に吸収されたようだ。亜人と言えど、キメラとそこは変わらないようだった。


 ベルは初めて会ったスミロ人だった。ベルはこれまで遭遇したどのキメラや亜人よりも強かった。


 最後は和解とまでは言えないかもしれないが、少しだけ分かりあえたような気はする。


 さらに、スミロ人にはスミロ人の歴史があるということもよく分かった。



 そんなベルの姿を見ながら思わずつぶやいた。


「スミロ人たちもそれはそれで辛い思いをしてきたのかもしれないな」


「そうよね。そういえば村長って言ってたから、スミロ人の村があるのよね」


「そうだろうな」


「話の内容からすると西のほうにあるのでしょうね」


「いつか行かないとな」



 託された首輪を持って行く必要があるのだろう。


「……そうね。それにしても、メノヴィーアはともかく、ユイさんたちとの戦いは避けられたはずなのに、残念でならないわ」


「そうだよな。でも…… これでノエさんのかたきは討てたな……」


「そうナノ…… でも、あんまりうれしくないノ……」




 涙を流すプリンをモカが優しく抱きしめる。


「プリンは本当に優しいわ。ノエさんもプリンを誇りに思っているはずよ」


「ありがとうナノ……」



 俺はベルから受け取った首輪をしまいつつ、ユキさんに確認する。


「ベルを、スミロ人をさすがにこのままの状態で放置していくわけにはいきませんよね…… どうしますか? ここに埋めてもいいですか?」


「えっ? そ、そうね」


「深く埋めますから」


「分かったわ。道具を用意するわね」


「あ、いや、それは大丈夫ですよ」


「えっ?」



(スッ)

(……ドサッ)



 まずベルの身体を挟んでいた岩を消すと、ベルの身体が地面に崩れ落ちた。そのあと、埋める場所を探しに行く。大きな身体が十分に埋まるだけのスペースが必要だ。


「この辺ならいいですかね?」


「そうね。いいと思うわ」



 壁際の端っこのところに大きくて深い穴をあける。


(スッ)



「す、すごいわね…… これがヤマ魔法の威力……」


「ん?」


「ヤマはいつもこんな感じだから、これで驚いていると驚き疲れちゃうプイよ」


「そ、それもそうね……」


 なんかクルルがユキさんをなだめている気がする。



 俺はテルさんに協力をお願いして、ベルを持ち運び、穴に入れるというか落とした。一応、落ちたときの衝撃をモカが風でやわらげてくれたようだ。


(ザザザッ)


 そのあと、穴の上から大量の土を出して埋めた。穴を埋めたあと、残されていたベルの槍を突き刺し、墓標代わりにした。





◇


「ふぅ。終わったな……」


「そうね……」


「あっ、モカとプリンのケガは大丈夫?」


「大丈夫よ。軽いかすり傷しかないわ」

「私もナノ」


「良かった。じゃあ、はい、傷薬」


「「ありがとう(ナノ)」」




 ユキさんたちもどこか力が抜けた表情をしている。


「これで母と父のかたきを討てたのね……」


「ユキもずいぶん苦しんだよな。僕はこれからもずっとそばにいるから」


「ありがとう。テル」



 ユキさんはテルさんと見つめ合ったあと、懐かしむようにつぶやく。


「ヤマさんたちは本当に強かったわね。まるで母たちが戦っているみたいだったわ」


「まあ、俺たちは同じ護り人なんだからそうかもしれないな」


「でも、私たちは4人いるし、ヤマ魔法もあるし、今回はユキさんの水もあったから勝てたのよ」


「そうなんだよな。ユキさんの水が無かったら、最後の岩をぶつける攻撃はできなかったかもしれないな」


「そんな、私なんて……」



 プリンがユキさんのところに行き、手を握った。


「師匠とユイさんたちが一緒に戦ったように、私たちも一緒に戦ったノよ」


「はっ! そ、そうね! そうなるのよね。プリンさん、ありがとう……」




 まだどこかぼう然とする俺たちだが、ふと気付くとびしょ濡れだ。身体そのものは護りのコートのおかげで濡れている気はしないが。


「なあ、ずいぶんびしょ濡れだから、風で乾かすのはどうかな? このままだと研究所の中を歩けないよな」


「そうね。私とプリンが――」

「僕も手伝うよ」


「テルさん…… ありがとう」


(ヒュー! ヒュー! ヒュー!)



 3つの特大扇風機で乾いた風を浴び続けているような感じだ。あっという間に乾いていく。そんな姿を見て、ユキさんが言う。


「スミロ人相手だと、水を使える人の数が大切なのかしら?」


「そうだけど、水だけじゃ勝てないと思うわよ。そもそも、あの速さについていくためには風を使える必要があると思うわ。そうじゃないととても人間や他の亜人じゃどうにもならないわ」


「だよな。俺もクルルもあの間合いに入るのは危ないと思ったな」



「それで、水を使うヤマさんとクルルさんが離れていて、風を使うプリンさんとモカさんが近くで戦っていたのですね」


「ただ、そうすると、水を切らさないために俺が攻撃に参加できなくて、困っていたところで、ユキさんが水を使ってくれたんで助かりました」


「そういうことだったのですね……」


 ようやくユキさんの支援の大きさを理解してもらえたようだ。




 さて、いつまでもここにいるわけにはいかない。乾いたようだし、そろそろ移動しなくては。ユキさんもそれに気付いているようだ。


「ねえ、遺物を使うのは明日にしない? 今日は私たちの家に招待するから、泊まっていってもらえないかしら?」


「僕からもお願いするよ。ぜひ来てください」



 モカと俺は顔を見合わせうなずく。


「お言葉に甘えさせてもらおうかな」


「リアさんも交えてみんなで話しましょうよ」


「そうよね。じゃ、行きましょう」





◇


 俺たちは洞窟とユキさんの研究室を出て、外に向かった。


 俺たち6人で歩いているのはさすがに目立ったのか、通りすがりの人に驚かれた。いつもより疲れていた俺たちにはそれに構う余裕は無かったが。




 研究所をあとにし、ユキさんの家に向かった。


 ユキさんは家に入るときに呼び鈴を鳴らし、帰宅したのがリアさんに分かるようにしたようだ。リアさんが離れから出てきた。


「あっ、ユキ様、テル様、それにヤマ様たちまでご一緒ニャ! おかえりなさいニャ!」


「ただいま。リアもこっちに来て一緒にお話しましょう」


「行きますニャ」



 リアさんは急いで離れに戻って、少し荷物を持って戻ってきた。


 ユキさんの家は中も立派だった。応接室のようなところに通されて、みんなでくつろいだ。


 俺たちはいろんなことがありすぎて、言葉少なげだった。最初に口を開いたのはリアさんだった。



「ヤマ様たち、キメラと戦ったのかニャ?」


 俺たちの様子を見てそう思ったようだ。



「ん? キメラよりももっとずっと強い種族かな。今まで戦ったどの種族よりも強かったよ」


「ヤマさんたちのおかげで、母と父とノエさんのかたきを討てたのよ」


「ニャ! まさか、す、すごいニャ。ユイ様たちでも勝てなかった相手ということニャ?」



「そうだと思うわ。あれに3人で勝つのはかなり難しいわ。私たち4人とユキさんの水で倒して、最後はテルさんの言葉でようやく心が通じたのよ。全員いなきゃ解決しなかったわ」


「す、すごいニャ」



 スミロ人との戦いの話よりもクルルは何か他のことが気になるようだ。


「(くんくん)リアさん、とってもいいにおいがするプイ」


「ニャ! 忘れてたニャ! みんなでプルンを食べながら話をするニャ」




 リアさんが作ったモカプルンが机の上に並べられた。モカプルンはこういうときの最高の癒しアイテムだ。


「リアさん、上手だわ。おいしいわ」


「うれしいニャ。お菓子の神様にほめられたニャ」


「あっ、そういえば、モカさんって、あのモカさんなのよね?」


「そうよ。テルさんもそう言ってたじゃない」


「最初に会ったとき、全然気付かなかったわ」




「たしかに、あのときはヤマに驚きすぎて、他のこと考えられなかったんじゃないかしら?」


「そうなのよ」


「ニャ? ユキ様もヤマ様がネコ人の神様だってことに驚いたのかニャ?」


「えっ? ヤマさんってネコ人の神様なの?」


「そ、そうみたいですね」


 そう言って、ゲンタのお守りを見せた。



「すごいわ…… お祖母様以来じゃないかしら……」


「そうだと思うニャ」


「ヤマさんたちって、本当にすごい人たちだね。ユキが選んだだけのことはあるね」


「私が選んだというか遺物が選んだのよ。でも遺物の選択は正解だったのね」


「ニャ? ニャ?」



 リアさん1人が話についていけてない。しかたないので、ユキさんが丁寧に説明をし始めた。ところどころ、モカが補足して。





◇


「ヤマ様たちは特別だと思っていたけど、そこまで特別だったとは思わなかったニャ」


「何回かお話したけど、ちゃんと話せなくてごめんなさいね」


「いいニャ。こんな話、簡単にできるものじゃないニャ。ユキ様たちがいる場じゃないとできないニャ」



 あまりにたくさんの情報をリアさんは理解しきれたのだろうか。そんな俺の心配は必要なかったようで、リアさんはこれからのほうが気になるようだ。


「ところで、これからヤマ様たちはどうするニャ?」


「うーん。どうしようか」


「とりあえず、明日遺物を確認させてもらってからかしら? 元の世界とつなげられるか次第ね」


「そうだな。つながらなくてもやりたいことはいっぱいあるしな」



「そうよね。メノヴィーアにテルさんたちと行きたいし、キメラのことだってまだ分かってないことがいっぱいあるし、スミロ人から言われた西のほうにも行ってみたいわ」


「でも、どうやって西に行くのかが問題よね」


「まあ、それはそのうち、かな」


「そうね」




 元の世界とつながったらつながったで、いろいろと大変そうだ。


「元の世界とつながったら、クルルとプリンを案内する約束もあるし。たぶん向こうでやっておかないといけないこともあるよな……」


「そうね……」



 やることが多すぎて、考え込んでいると、ユキさんがちょっと気になることを言い出した。


「あのスミロ人はどこから入ってきたのでしょうね?」


「そういえばそうだな。どこかから掘ってつながったのかな?」


「となると、穴があいているかもしれないわね」


「別途私とテルで調べてみるわ」



 ユキさんやテルさんと仲良くなっていろいろ話しても相変わらず謎が多いこの世界だ。もちろん、これだけ多くの研究者がいて分かっていないのだから、まだ1年も滞在していない俺たちに全部分かるわけはないのだろうが。



 この日はユキさんのお家に泊めてもらった。


 豪華なお風呂にモカは大満足だったようだ。ベッドは人数分あったのだが、ふかふかの大きなベッドになぜか4人ぎゅう詰めで寝た…… まあ、それが俺たちらしいと言えばそうなのかもしれない。




 俺はみんなが無事に夜を迎えられた幸せを噛みしめて眠った。


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