第93話 まさかの
レイシュトに来た目的を無事に果たすことができてホッとする俺たちだった。
「目的はすべて果たしたし、そろそろ戻りましょうか」
「そうだな」
「あっ、ちょっと待ってください! ひょっとしたらヤマさんたちを元の世界に返してあげられるかもしれないのです」
「えっ?」
ユキさんが驚きの提案をしてきた。
「どういうことなのですか?」
「私が使った遺物はまだ止まってはいないはずなのです。たぶん世界間の穴はふさがってはいないと思います。小さくなっていて、目には見えませんが。もう1度動かせば、移動できるかもしれません」
「うーん。エネルギーをためるのに時間がかからないのですか?」
「それは……」
でも、よく考えたら穴が少しでもあいているなら行けるかもしれない。
「なあ、モカ。いくら小さくても穴があいてるなら行けるんじゃないか?」
「そうか。ヤマ魔法なら行けるかもしれないわね」
「ヤマ魔法?」
「あっ、解析不能なあの力のことを私たちはヤマ魔法って呼んでるんです」
「「そうプイ(ナノ)!」」
「それすごくいい名前ね!」
「僕たちもそう呼ばせてもらっていいかな?」
「もちろんよ!」
なぜかものすごく賛同されてしまった。
「それで、ヤマ魔法ならできるというのはどういうことでしょう?」
「つなぎ先さえ覚えられれば、俺は自由に穴をあけられるんです」
「すごいわ……」
「さっき、武器を出したときに使ったみたいに?」
「さすがテルさんですね。まさにあんな感じです」
「じゃあ、その遺物があるところに案内するわ」
◇
俺たちはユキさんに案内されて、今度は洞窟の西のほうに向かった。
「以前使ったときは、並行世界研究所で使ったの。さすがにここで使うわけにもいかなくて…… ちょうどカエデちゃんと議論したい研究内容もあったし。実はこの前並行世界研究所に行ったのは、置いたままにしていたその遺物を持ち帰るためでもあったの」
「ああ、あのときか……」
テルさんも当時を思い出しているようだ。どんな遺物なのだろうか、とドキドキしながら進んでいく。
「この部屋に置いてあるわ」
(ガタン!)
「ん? あっちの別の部屋のほうから何か音が聞こえたような。プリンどう?」
(ピクッ! ピクッ!)
「何かいるノ!」
「そんなはずは……」
「あっちはどんな部屋なんですか?」
「広い空間があって、その先に続く道は行き止まりのはずなの」
「じゃあ、どこかから何かが忍び込んだのね。キメラかしら」
「ユキさん、テルさんは入らないでください。危ないかもしれないので」
「そ、そうね。おまかせするしかなさそうね」
俺たちは音のした部屋のほうに忍び足で向かう。部屋と言っても、扉があるわけではないため、近くまで行けば中を見ることができる。
そっとのぞいた俺たちは心底驚くこととなった。
「大きな人だな…… 人間というより亜人かな……」
「あっ、あの牙…… まさか…… スミロ人!?」
気付かれる前に身を一旦潜めた。モカが小声で言う。
「ヤマとクルルはとにかく水で防護をお願い。戦いになるかは分からないけどね。倒すにしても、できれば首は斬りたくないわ。最後の一瞬でもいいから話をしたいから」
「師匠のかたきナノ……」
「まずはそれを確認するところからよ。いきなり攻撃を仕掛けてはダメよ」
「分かったノ」
「最悪危なくなったら話も何も関係なく倒すからな」
「もちろんよ」
「じゃあ、行こう」
俺たちは部屋の中に入った。
「ンガ? 誰だお前たち? テンの子孫なのカ?」
「えっ? テンの子孫? 私たちは違うわよ」
「ここにテンの子孫はいないのカ?」
「どういうこと? なんでここにテンの子孫がいるの?」
「メノヴィーアにはいなかった。別の洞窟で襲ってきた強い奴らもテンの子孫じゃなかった」
「えっ? 別の洞窟って、エーンスタットのそばの?」
「エーンスタット? そんな名前だったカ。森と湖のそばの洞窟だ。キメラよりもずっと強い奴らだった。テンの子孫じゃないなら、俺に攻撃してこなけりゃいいのに」
「ナ!?」
プリンの毛が逆立っている。このままじゃマズい。
モカが必死に話をする。
「なんであなたはテンの子孫を探しているの?」
「ンガ? そんなの当たり前だ。我らはテンに迫害され、そのせいで絶滅寸前なんだ。村長たちはテンはそんな人じゃないというが、俺には信じられない。実際にメノヴィーアに行ってよく分かった。テンは俺たちを迫害したことを功績だと思っていやがる。俺たちが絶滅する前にテンの子孫を根絶やしにしてやるんだ」
メノヴィーアのせいで間違って恨みをつのらせているようだ。どうやって説得したらいいんだろうか……
「テンに恨みがあるのね…… ならなんで洞窟で別の人間やウサ人を殺したの?」
「ンガ? お前らあいつらの知り合いか?」
「私の師匠ナノ!」
もうプリンは限界だ。
「あいつらは俺が洞窟の奥を確かめに行ったときに奥から出てきた。俺がキメラと戦っていたら襲ってきたんだ」
「そんなこと信じられないノ! 師匠は人を襲ったりしないノ!」
「……襲ってくる直前に火のコネクトを使わなかった?」
「ンガ? たしかに使ったかもしれん。あそこのキメラは普通よりはだいぶ強かったからな」
「なら、その火に巻き込まれたのよ。それで、あなたが攻撃してきたと思ったのよ」
「……」
何やら考えている。
「そうかもしれん。だが、俺に攻撃してきた事実は変わらない。俺たちは強さを求める。弱いやつの言うことは聞かない。そのウサ人は俺に攻撃するつもりカ? いいだろう。受けて立とう」
「プリン! 冷静さを失ったらダメよ。ノエさんから教わったことを忘れてはダメよ」
「ナッ! 分かったノ……」
だが、このまま、すんなり話を聞いてくれるようにはとても見えない。
それに、向こうは槍を手に取った。もう戦う気だ。
「モカ、もうそろそろ限界だ。あいつを説得するには力を示すしかない。殺してでもいいから勝つしかないんだ。ノエさんたちでも勝てなかったんだ。全力で行くしかないぞ!」
「分かったわ。それしかないわね。クルル、ヤマ!」
「「分かった(プイ)」」
(ザバッ!)
俺たちは4人とも水でびしょ濡れになった。火のコネクトからの影響を少しでもやわらげるためだ。
「ンガ? 何してんだお前たち。コネクトの使い方も知らんのカ?」
(ゴォーッ!)
すさまじい火のコネクトが横向きに放たれた。
(ドン!)
土壁を斜めに出して、火の方向を曲げようとした。だが、土が見る見るガラス化していく。すさまじい温度だ。
(ドン! ドン!)
プリンが氷を出す。温度を下げるためだが、焼け石に水だ。
(ザバッ!)
「クルル、あなたは継続的に水を出して、いざというときのために岩も使うのよ。ヤマも水をお願い!」
(タッ!)
(カカン!)
今度は槍で攻撃してきた。とてもすばやい。プリンが応戦している。
(カカカカン!)
(ヒュッ!)
(サッ)
すばやい!
プリンにも負けない反応速度だ。不意を打っていないとはいえ、居合抜きをかわすとは……
「プリンと互角だなんて…… 単なる亜人じゃないわね!」
「ンガ? お前、賢いな。お前たちも普通の人間や亜人じゃない。俺たちと同じだ」
「まさか…… 能力向上している!?」
「ンガ? なんだそれ? 俺たちは戦うほど強くなる。強いものには首輪が授けられ、さらに強くなる。それだけだ」
スミロ人の首にはたしかに何やら首輪が着いている。ゴツゴツした鉱石が付いている。あれは……
「そういうことね……」
「マズいな……」
「そうね。プリンの相手をしながら、私たちと会話できているのよ。普通の強さじゃないわ。それに濡れているから放電も使えないわ」
「クルル、岩をいくつか出しておいてくれ」
「分かったプイ!」
(ドン! ドン! ドン! ドン!)
「こんな大きいだけの岩の攻撃、当たるわけないだろう」
「プリン! 私も入るわ」
(ヒュッ)
(カンカン)
(ザバッ)
モカがグラディウスを片手にプリンの助太刀に入った。
あのスミロ人の速さに対抗するには風持ちの2人しか無理だ。
俺はどうすべきか。
水で援護しながら、岩をいつ使うかが最大のポイントだ。しかも一発勝負なのは変わらない。
モカも当然分かっていて、たまにこちらを見る。
(カカカカカン!)
「なかなか強いな。そうカ。水を浴び続けているのは火を避けるためか。単なる馬鹿じゃなさそうだな」
「それに気付くあんたもなかなかよ!」
珍しくモカの口調が激しくなる。
それもそのはず、2対1でようやく互角かそれ以下。
俺とクルルは水の膜を維持するので精一杯だ。
向こうは槍でリーチが長い。
既に何回かモカとプリンをかすめ、かすり傷を負っている。おそらく護りのコートがなければ、既に手遅れレベルのケガを負っているだろう。
何よりネックなのは、言葉が通じることだ。
作戦を話したらそのまま伝わってしまう。だから、作戦を話せないのだ。今まで作戦を話しながら戦ってきた俺たちにとってはかなりのビハインドだ。
(ゴォーッ! ゴォーッ!)
「危ない!」
スミロ人は火のコネクトを出しながらゆっくり回転した。速くないのが救いだが、これは完全によけるのは無理だ。
(ザバッ! ザバッ! ザバッ!)
「ん? 1個多い?」
なんとか熱に耐えつつ、周りを見ると、部屋の外にユキさんとテルさんがいて、ユキさんが水で援護してくれたのだ!
水使いが3人いるなら俺があれを使う余裕が出るかもしれない!
「ユキさん! 水をどんどんみんなにかけ続けてください。お願いします!」
「分かったわ!」
(ザバッ)
(コクリ)
俺の声に気付いたモカが俺のほうを見てうなずいた。
いよいよ反転攻勢だ。と言っても一発勝負だ。
(コクリ)
プリンもこちらを見てうなずいた。2人とも岩での攻撃だと理解したはずだ。あとはタイミングだけだ。
「そろそろ終わりにしよう。ンガ!」
「きゃっ!」
(ヒューッ…… スタッ)
槍を思い切り振り回し、モカを吹き飛ばした。モカは風をうまく使って壁への激突を回避して、足を壁についてから地面に降り立つ。
「ンガ!」
「ナ!」
(ヒューッ…… スタッ)
プリンも同じだ。
スミロ人は口を開けて牙をむき出しにした。
このあと間違いなく、何か大技が来る。牙も使ってきそうだ。
今しかない!
(ピカッ!)
「ガ!?」
(ヒュッ)
(カン)
(ビューッ!)
モカが光を放ち、一瞬ひるんだときに居合抜きがさく裂したが、これも槍で受け止められた。即座にプリンはその場を離れた。
モカは間髪入れずにもう1回光をさく裂させるつもりのようだ。それはちょうど岩のある方向からの光だ。そうか、わざと岩から目をそらさせるつもりだ!
(ピカッ!)
「効かんわ!」
(いけっ!)
(ドゴォーン! ドゴォーン!)
「ン、ンガァ……」
1発目の岩でスミロ人を壁まで吹き飛ばし、2発目で、胸から上を残して壁との間に挟むことに成功した。右腕と槍も挟まっている。
おそらくもう、この状態ではスミロ人は長くは生きられないが、やむを得ない……
(ザバッ)
火を警戒して、水を再度かぶってから近づく。
「テルさんとユキさんも来て」
モカが2人を呼んだ。全員でスミロ人のところに向かった。
◇
「今の攻撃…… 初めて見た…… お前たち強い……」
「なら話を聞いてくれるよな」
「いいだろう……」
俺はモカのほうを見た。モカはうなずくとテルさんのほうを見た。
「テルさん」
「ん?」
「この人がテンの子孫よ」
「ンガ! きさ……ま……が……」
「話を聞く約束だろ!」
「ンガ……」
モカがテルさんに声をかける。
「テルさん。代々伝わるテンの言葉を伝えて」
「ああ、分かった。僕の一族にはこんな言葉が伝わっているんだ。メノヴィーアとは全然違うんだ」
テルの言葉を聞いたスミロ人は目を丸くして驚いていた。
「ンガ…… 村長たちが言っていたことと同じだ…… テンは本当にそう思っていたのカ?」
「私は本当だと思うわ。メノヴィーアの地下には、テンの故郷が再現されていたわ。スミロに滅ぼされた故郷よ」
「スミロ……だと!?」
「そうよ。あなたたちスミロ人の元となった肉食動物のスミロよ」
「テンは家族を殺したスミロを恨んでしまい、スミロに対抗するためにスミロ人たちを作ったの。でも、スミロを恨んだことを後悔したのよ。再現された遺跡には、道が2つあったの。1つは今につながる道。もう1つは、キメラやスミロと仲良く一緒に暮らすことになる道だったわ」
「ンガ…… そうだったのカ……」
スミロ人はもう虫の息だ。もうあまり話はできないだろう。
「もっと別の未来があったかもしれないということカ……」
「そうよ」
スミロ人が俺のほうを見て何か言いたげだ。
「もしかしてお前は……」
「ん?」
「……お前たちは、スミロ人とともに生きる未来を望むカ?」
「俺たちはみんなと仲良くしたいからな。キメラとだって本当は仲良くしたいんだよ」
スミロ人は俺を真っ直ぐ見つめてきた。
「お前のその目、最期に信じさせて……くれ。俺の名前はベル……だ。これを持って、ここから西の土地を目指してほしい」
そう言うと、左手で首輪を外すと、牙で何やら傷を付けた。それを俺に手渡してくれた。
「スミロ人と人間や他の亜人が……仲良く暮らす世界に……生きてみたかったものだ。最期にそんな姿を想像させて……くれて……ありが……とう。ンガ……」
スミロ人のベルは息を引き取った。




