第92話 テルとの和解
モカが驚く2人に話を始めた。
「テルさん。あなたはあのテンの子孫ですよね?」
「ああ、たぶんそうだ」
「そのことにテルさんが気付いたのは、テルさんが引き継いでいるテンの言葉と、メノヴィーアで言われていた内容にあまりに差があったからですね?」
「そ、そうだけど、なんでそんなこと分かったんだ?」
「護り人のための施設には機械があって、いろいろ教えてくれたの。第5施設で、私たちは歴史を教えてもらったの」
「テンは常々、『スミロ人やキメラに罪はない』、『生み出した自分が悪いのだ』、『共に生きられる世界を築けなかったのが人生最大の失敗だ』、『やり直せるならやり直したい』、と言っていたそうよ」
「そ、それだ! 僕の一族に伝わっている言葉と同じだ。テンは後悔していたんだ。罪の意識があったんだよ。テンは功績だなんて思ってなかったんだよ。だから、もし、テンがやり直した世界があるなら、そこに行ってみたいと僕も思ったのさ」
ちゃんと話ができそうだ。もう大丈夫だろう。モカとうなずきあう。
(スッ)
「えっ? 消えた?」
俺は水晶ボックスを消しておいた。テルさんは驚いているが、特段の動きはない。モカが話を続ける。
「これは私の推測ですけど、ユキさんの一族では、なぜかテンの子孫に特殊チップを渡してはならないとされていませんでしたか?」
「そ、そうよ。あれ? 昔テルから聞いたときにも違和感があったのだけど、今改めてテンの言葉を聞くと、なんで渡しちゃいけないのかしら? テンやテンの子孫が凶悪な支配者になるように思えないわ……」
「ええ、私もそう思うわ。それに第5施設であとから聞いたら教えてくれたの。第5施設にはテンとマリとユリの3人で来たことがあるそうよ。しかもテンとマリはとても仲が良く見えたそうよ」
「えっ? そうなの? 特殊チップを隠したのにどうして?」
やはりそこに気付いたようだ。
まさにユキさん自身が特殊チップを隠したことでテルさんとの今後の関係に不安があるからだろう。
「これも私の推測だけど、第5施設に歴史が記録された後、テンは特殊チップの本当の危険性に気付いたのよ。それで、マリに深く感謝したのよ。だからみんなで特殊チップを封印することにしたのよ。それに……」
「だからこそ、テンの子孫には特殊チップのことを伝えなかったのよ。ただ、その歴史が第5施設には反映されていなくて、護り人の中でも正しく伝わらなかったのでしょうね……」
「まさか、それでテルが特殊チップのことを知らなかったの?」
「……やっぱり、結婚の条件にされていたのね?」
(コクリ)
「えっ?」
うなずくユキさんを見て、テルさんが驚いている。無理もない。
「ええ、そうなのよ…… だから、結婚したあとにテルがテンの子孫と分かって、母になんて言ったらいいか困ったの。考える時間が欲しくて、母から誘われていた施設巡りを延期したのよ。そうしたら、まさか母たちが死んでしまって……」
「あのときのお義母さんからの質問はそういう意味だったのか……」
2人とも謎が解けていっているようだ。さすがモカだ。
テルさんは特殊チップのことは既にあきらめている雰囲気だが、もうすこし確認をしたくなったようだ。
「テンはどんな危険性に気付いたんだろう? やっぱりマリに会えなくなる危険性のことなのだろうか……」
「これも私の推測だけど…… その前に、生体AIチップの構成は知っていますか?」
「もちろん。AI細胞とエネルギー変換細胞の2つのはずだ」
「さすが一流の研究者ね」
ここまで研究できているんだなと感心してしまった。このあたりは護り人以外にも伝わっていた情報なのかもしれない。
「あと、テルさんたちは普通の人よりコネクトが強いとおっしゃいましたよね。つまり、護りの腕輪のおかげで、エネルギー変換細胞をたくさん吸収してコネクト能力を上げていると」
「それはそうなんだが、そんなことも知っていたのか……」
「護り人ならみんな知っている話です。エネルギー変換細胞なら生体AIチップを保有するキメラを倒すことで吸収できます」
モカがひと呼吸おいて質問を投げかける。
「……特殊チップの特殊性がどの細胞のおかげで発揮できているのかは分からないわ。でも、もし、特殊チップの特殊性が初期に保有しているエネルギー変換細胞にあったとするなら、どんな未来が訪れると思いますか?」
「えっ? そりゃ、持っている人が死んでも、別の人に比較的簡単に引き継げるだろうけど」
「ま、まさか…… 特殊チップ保有をめぐって、殺し合いが起きるような気がするわ!」
「さすがユキさんね。私もそう思うわ。テンはキメラやスミロ人ですら共に生きたかったと言っているのよ。殺し合いなんてしたくなかったの」
「ましてや、自分の作ったもので、人間同士が殺し合う未来になったら嫌でしょ? それをマリが防いでくれたということに気付いたらどう思うかしら?」
「「!」」
2人は目からウロコが落ちたような反応をしていた。
もうこれ以上説明する必要はなさそうだ。
「テンなら気付いただろうな。なんて言ったって『奇跡の超天才』だもんな…… それに、同じことをしようとした僕をユキは救ってくれたのか……」
「テル…… モカさんの言っていることはすべて納得できるわ。例え、それが推測だったとしても、信じてもいいと思えるわ。いや、それを信じたいわ」
「1万年も前のことだもの、誰も正解は分からないわ。でも、『人々が殺し合わない未来』を護るのが護り人の役目と思うのは悪くないと思うのよ」
「そうね」
納得したところで、テルさんには他にも疑問があるようだ。
「ところで、僕も昔から不思議だったんだが、スミロ人ってなんだろうな?」
「そうよね。私もテルから聞いて不思議に思ってたわ」
「人間と凶暴な肉食動物のスミロが合わさった亜人よ。火のコネクトを使う亜人よ」
「えっ? そんな亜人――」
「聞いたことはないでしょうけど、たぶんまだ生き残っているわ。しかも、ユイさんたちを殺したのもスミロ人の生き残りだと思うわよ」
「えっ!」
「ユキさんなら分かるんじゃない? ユイさん夫婦やノエさんの強さを。キメラなんかに殺されないわよ。私たちだって、その辺にいるキメラならほとんど一撃なのよ」
「そうなの。ずっと疑問だったの…… あの母と父、それにノエさんまでがみんな殺されるなんてあり得ないと……」
やはり疑問に思っていたようだ。そのくらい3人とも強かったのだ。
となると、次の疑問は当然のものだった。
「そのスミロ人は今どこに?」
「分からないわ……」
「なんで母たちを殺したの?」
「それも分からないの。ただ、ユイさんたちと戦ったのはエーンスタットそばの洞窟の1番奥のはずよ。跡が残っていたもの」
「えっ? でも、母たちの遺体は洞窟の外にあったのよ?」
「やっぱりそうなのね…… おかしいと思ったのよ。ユイさんたちの遺体が見つかったのが。あと、ノエさんが亡くなった場所はガトアルデとモルジクの間よ」
「えっ? 洞窟からものすごく離れていない?」
「そうなの。だから、スミロ人は3人にトドメは刺してはいないの。それがよく分からないの。でも、スミロ人のせいで亡くなったのは間違いないと思うわ」
ユキさんもテルさんも信じられないという顔をしている。モカはさらに続ける。
「それに…… 最近メノヴィーアを滅ぼしたのもスミロ人だと思うわ。同じ傷跡が残っていたの」
「そんな……」
「あっ、そうだ。メノヴィーアには行ったことはありますか?」
「私はないわ。母たちならあったかもしれないけど」
「僕もないな……」
「では、メノヴィーアに遺跡があるのをご存知ですか?」
「それは聞いたことあるけど、石碑のある建物のことよね? それならさっき言った功績の話しか残ってないと思うけど……」
「それじゃないわ。地下にもあるの。護りのアクセサリーを持っていないと入れない場所に」
「え…… 初めて聞いたわ。テル知ってる?」
「いや、全く……」
やはり、あそこの存在は隠されていたのだろう。滅ぼされた今だからたどり着けたのかもしれない。
「そこに行けば、テンが何を望んだかよく分かるわ。特に子孫であるテルさんにはぜひ見てもらいたいわ。いつか一緒に行きましょう。光のコネクトがないと真っ暗で見えないから」
「ありがとう。ぜひ一緒に行かせてほしい」
ようやくこれで伝えられたな。モカもホッとしているようだ。
「大体お話は以上だけど、1つ謝らないといけないことがあるの。ユキさんが隠したリアさん向けの護りのネックレスをプリンに渡しちゃったの。ごめんなさい」
「ごめんなさいノ。返したほうがいいノ?」
「いいのよ。そのまま持っていてもらえるかしら? プリンさんはヤマさんの大事な方よね?」
「もちろんさ。衛兵隊長が忠誠を誓うほどの最高のウサ人さ」
「なら、そのまま護り人をお願いしたいの。実は、リアはすごくおとなしい子で、あまり戦いとかに向いていないの。でも、1番仲の良い信頼できる亜人にしなさいと母に言われて。私にはリアしかいなかったの」
「なら、このままプリンが使わせてもらおうか」
「ありがとうナノ」
これで話したいことは済んだ気がするが、1つ気になることがあったので聞いてみる。
「そういえば、テルさんは俺の特殊チップを解読しようとしてたと思うけど、遺物を使うつもりだったんですか?」
「そうさ。僕のチップへ複写できるかは分からないけど、読み取ることくらいはできるんじゃないかと」
「護り人が行く施設にも読み取れる機械はあったんですけど、そこだと『解析不能』って出ましたよ」
「えっ? そうなの? まさか、解読阻害薬は要らなかったの?」
「さあ、そこまでは分からないけど……」
テルさんは部屋の端にある遺物を持ってきた。施設にある機械を小さくしたような箱状のものだ。
「ここに手を置くと読めるはずなんだ」
そう言って、テルさんが自分の手を置くと、以下が表示された。
◆◆◆
登録接続先 風
◆◆◆
次に試しにモカがやってみると、以下だった。
◆◆◆
登録接続先 光、風、水晶
◆◆◆
護りの腕輪分も表示されるようだ。コネクト以外は何も表示されない。
「これだと施設の機械のほうがずっと高機能よ」
「そうだな。俺もやってみるか」
「えっ?」
ユキさんが驚いている。
「テルさんはもう大丈夫さ。ここまで想ってくれるユキさんを悲しませるほど馬鹿じゃないさ」
「ああ、約束する」
とりあえず何も考えずに触れてみる。
◆◆◆
登録接続先 解読不能
◆◆◆
「やっぱり解読できないんだな。でも、これあれだな。俺なら解除できそうだ」
コネクトで穴をあけるように壁を取り払うイメージをする。
◆◆◆
登録接続先 土、水、解析不能、放電
◆◆◆
「やっぱり『解析不能』だな」
「そうなんだ……」
「よく考えたらそうよね。だって、テンですら再現できなかったのよ。それをテンが作った遺物で解析できるわけないわ。でも万一に備えて解読阻害薬を開発したんだわ」
「たしかにそうかもしれない。僕は無駄なあがきをしていたのか……」
「テル。研究に無駄なんかないわよ。それはテルが1番分かってるじゃない」
「ユキ…… ありがとう」
2人は抱き合ってお互いの気持ちを確かめていた。
「1番の理解者がそばにいるから私たちが言うことはもう何もなさそうね」
「だな」
クルルとプリンも2人を見てうれしそうだ。
「ユキさんとテルさんが仲良しになってうれしいプイ」
「そうナノ。夫婦は仲良しじゃなきゃいけないノ」
もうこれでユキさんが不安に思うこともなさそうだ。




