第9話 エーンスタット到着
エーンスタットの門に近づくと、そこにはイヌ人と思われる衛兵っぽい人たちがいた。イヌ人ももふもふだな……
「こういう都市は大体イヌ人が守っているプイ。彼らは集団行動が得意だし、強い優しい人を好んで従っているプイ」
「じゃあ、強い人間が衛兵をまとめているのかな?」
「人間かどうかまでは分からないけど、強いことは間違いないと思うプイ」
クルルの解説を聞きながら進んだ俺たち。門のところでよくありがちな検問があるかと思いきや、キメラかどうかだけを見ているようで、何事もなく門を通過できた。
どのくらい大きな都市かはここからは分からないが、建物はたくさんありそうだ。
人もそれなりに多くいる。イヌ人、ネコ人、モル人、そして耳の長い亜人がたぶんダブル爺の手紙にもあったウサ人だろう。そして、久しぶりに人間も見た。人間はかなり少数派のようだ。
「エーンスタットは色んな種族がいてすごいプイ。久しぶりにウサ人を見たプイ」
「そうね。大きな都市ね。宿屋とか見つかるかしら?」
「外から来る人も多いからたぶん簡単プイ」
クルルの言う通り、宿屋はすぐそばにあった。
1部屋1泊100エンとのことで、物価から考えると普通の都会のビジネスホテルくらいだろう。
「ねえ、ヤマ…… その…… お金もったいないしさ。3人で泊まれる……1部屋に……するのはどう?」
「いいと思うプイ!」
「えっ? いやあ…… まあ、そ、そうだね。お金は節約しないとね」
「ヤマもそう思うよね!」
よくよく考えたら、もう散々一緒に野宿してきたので今さら恥ずかしがることもなかったのだが、真っ赤な顔のモカを見るとこちらも恥ずかしくなってくる。
結局、広めの部屋を1つ確保し、都市内を散策することに。都市の地理が分からないので、宿屋の受付のイヌ人に聞いてみる。
「チップを売っているお店とか武器屋とか防具屋とかに行きたいんですけど、どのあたりにあるか教えてもらえませんか?」
「チップ屋なら、目の前の大通りを北門――すぐそばの門――と反対方向に進んだほうにありますワン。看板が出ているので分かると思いますワン。武器屋とかもチップ屋のすぐそばですワン」
「ありがとうございます。そういえば、ギルドとかはありますか?」
「ギルドとはどういうものでしょうかワン?」
「ないのかなあ…… 冒険者がいて、キメラを倒す依頼を受けて報酬を受け取ったり…… 近くに洞窟があるならそういうのがあるのかなと思ったんですけど」
「うーん。聞いたことないですワン。洞窟から出てきたキメラは衛兵たちが大集団で戦って何とかしますワン。エーンスタットの東側の大半が衛兵のための施設ですワン。冒険者というものは良く分かりませんが、洞窟にいるキメラは少人数で勝てる強さじゃないワン」
「なるほど。ありがとうございます」
洞窟のキメラがどれほど強いのか不安になる。
横で何か考えていたモカが話しかけてきた。
「……そういえば、ダブル爺の手紙に、キメラを倒したところで特段強くはならなくて、それがこの世界の常識だって書いてあったわよね。だから冒険者になったとしても最初の強さのままだから、ギルドとかは成り立たないんじゃない? ランクアップとかそういうのができないんだから」
「なるほど! 納得だよ。こういう世界にはギルドがあるもんだという先入観が邪魔してしまったよ」
「ふふっ、Sランクとか目指したかった?」
「もう、そんな顔で見ないで。チップ屋に行こうよ」
「そうね」
お茶目スイッチ全開のモカに見つめられ、俺の顔はきっと真っ赤だろう。気を取り直して、チップ屋に向かおう。
◇
宿屋で教えてもらったように大通りを進むと、チップ屋の看板を見つけた。それほど大きな店ではなく、カウンタがいくつかある程度だった。店主っぽいネコ人と、バイトっぽいイヌ人の2人がいた。
「「いらっしゃいませワン(ニャ)」」
「チップが欲しいんですけど、どんなのがありますか?」
「護衛か衛兵にでもなりたいのかワン? 水、土、風の3種類があるワン。1つ1000エンになるワン」
「なるほど。値段はともかく、交換や追加はできないですよね?」
「もちろん、そうだワン」
「実は既に寄生させているか分からないんですけど、試させてもらうとかはできないですか? もちろん寄生できたらお金は払いますから」
「んー、そういうのは困るワン」
「ですよね……」
(どうしようか。無駄になる覚悟で買ってみるか)
モカのほうを首から上だけ振り向き、どうしようか相談しようとした時だった。店主が突然話しかけてきた。
「ニャッ、お客さん! その首から下げているものを見せてほしいニャ!」
「ん? これですか? これはゲンタからもらったもので…… あ……」
店主の目が輝いている。
「私が対応させていただきますニャ」
「ワン?」
「この人たちは我らネコ人にとって、とても大切な人たちなのは間違いないニャ。そのお守りがその証拠ニャ」
「それが噂のやつワン? 持っている人間に初めて会ったワン」
「いつ頃、村長から渡されましたかニャ?」
「昨日ですけど……」
「なるほどニャ。私の知る限り、今生きてる人間でそれを持っているのはあなただけニャ。本当に特別なお守りニャ」
「そんなにすごいのくれたのか……」
「ゲンタを助けたわけだし、ヤマは子どもたちや大人も虜にする遊び道具も作ったし、そういう人はなかなかいないんじゃない?」
「ニャ、なんと! あのゲンタ村長を助けるほどとはすごいニャ…… で、試してみたいという話でしたかニャ? もちろん良いですニャ。寄生できなかったときは返してくれればいいですニャ」
「ほ、本当ですか? ありがとうございます!」
まさか、このお守りがこんなところで役に立つとは。人のためになることはしておくものだ。
「クルルが水を使えるから、水は除外するとして、土か風を試したいかな。モカはどっちにしたい?」
「迷うけど、風かしら。イノウシみたいに飛んできたものをかわすのに役立ちそうだし」
「じゃあ、俺は土にしてみようかな。まあ、俺は寄生できない可能性が高いし」
「そうね」
「じゃあ、すみませんが、俺は土を試させてもらえませんか?」
「分かりましたニャ」
そう言うと、小瓶を持って俺のそばにやって来た。
「少し上を向いてくださいニャ」
「こ、こうですか?」
「いい感じニャ」
店主は小瓶の中身を俺の額に垂らした。
(ん? この感じどこかで……)
垂らされたものは額にそのまま残り、特に変化がなかった。
「寄生できないみたいですニャ。既にチップに寄生されていますニャ」
「やっぱりそうですか。ありがとうございます」
「じゃあ、次は私ね」
続いてモカの額に垂らした。しかし、モカも俺と全く同じだった。
「あなたも既にチップに寄生されていますニャ」
「「「えっ?(プイ?)」」」
ここへきて、驚きの新事実が判明した。
◇
まさか、モカにまで既にチップが寄生しているとは。予想外の結論に3人とも驚きを隠せない。
「まさか、モカにチップが寄生しているとはな……」
「私まで試させてもらってありがとうございます」
「いいニャいいニャ。でも、自分で寄生していることを知らない人は珍しいニャ」
「普通はそうやって額にかけることで寄生させるのですか? 他に方法はないのでしょうか? キメラを倒しているとたまに寄生することがあるとか……」
「このやり方以外知らないニャ。この小瓶の中身は専用機械でしか作れない特別なものニャ」
「そうなのね…… なんか生き物の細胞みたいだけど」
「中身が何なのかは分からないニャ。ただ、細胞というのは間違いないニャ。実際、材料として動物の死体かキメラの死体を使うニャ」
「えっ? キメラでもできるのですか? じゃあ、水とか土とかはどのキメラを使うかで決まるのですか?」
「違うニャ。キメラの種族は関係なく、作るときに選べるニャ。昔、そういうすごい機械を作った天才がいたニャ」
「なるほど、そうなのね…… そうか、動物でもできるのならそうね」
「色々教えてもらえて助かりました。ありがとうございました」
「分からないことがあったら、また来てニャ」
俺たちは店主にお礼を言って店を出た。あとでモカと話し合わないとな。宿屋に戻ったらにするか。
「少しモカと話し合わないとな…… でも武器屋とか防具屋も見たいし、食料の買出しにも行かないとな」
「でも、できれば明日には洞窟に行ってみたいわよね?」
「まず武器屋とか行くか」
「じゃあ、その後の買出しは私が行くから大丈夫プイ」
「おっ? そうしてくれるとありがたい。俺たちは武器とか見たら先に宿屋に戻るよ」
「まかしてプイ!」
まず、武器屋に行った。チップ屋の斜め向かいだった。
「……今持っているダガーと大して変わらない、というか、たぶん同じものね」
「そうだな。ロングソードも同じものみたい。クルルはどう?」
「メイスも同じプイね」
残念ながら持っていたものは量産品だったようで、収穫無しだった。もともと俺以外は武器が重要となる場面は少なさそうだし、問題無いだろう。
次に、隣にある防具屋に行った。
「私が使えそうなサイズのものは無さそうプイ」
「うーん。私もないかな。衛兵とか護衛の人たち用なんじゃない?」
「そうだな。俺なら着られそうなものはあるけど、みんなごつすぎて…… これじゃ動けなくなりそうだよ」
「そうね。攻撃を弾くくらい強いから動けなくてもいい防具とか、ヤマが筋肉モリモリで動けるとかならいいけど、そうじゃないなら身軽にして、当たらないようにしたほうがいいんじゃない? 回復魔法があるわけじゃないんだから」
「そうだな。今のままにしよう」
結局、こちらも収穫無しだった。鍛えていない普通の大学生が身に着けて使えるような防具では役に立たないということだろう。しかたない。逆に言えばこのくらいの防具を身に着けられる衛兵たちじゃないといけないくらいキメラが強いのだろう。
「じゃあ、私は食料とか買出しに行ってくるプイ」
「「うん、ありがと」」
◇
先に宿屋に戻った俺とモカは情報を整理することにした。
特に大事な点は2つ。いつチップが寄生したのかと、モカのチップの能力は何かだ。
「私のチップの能力が何なのかは分からないわよね。私が使い方を理解できていないだけかもしれないし、効果が出ていても分からないだけかもしれないし、ひょっとしたら未登録の状態なのかも知れないわ」
「そうだな…… 登録状態が見られるわけじゃないし、使えてみて初めて分かる感じだよな。考えても答えは出ないかもな……」
「ところで、ヤマにチップが寄生したのはきっとヤマ魔法を使えるようになる直前よね?」
「うん、そうだと思う。さっきのお店でチップを額にかけてもらったときに思い出したんだ。最初にモカが2つ見えた日の前の晩、寝てるときに同じような感覚があったんだ。それと、夜中に誰か女の人がそばにきて何か言われたような感じがして、一瞬起きた気がするんだ。今まで夢だと思っていたんだけど、きっとあの時に寄生されたんだと思う。モカはそういうことあった?」
「実は…… こっちの世界に吸い込まれたとき、額に違和感があった気がするのよね……」
「あっ、覚えてるよ! モカがケガしたんじゃないかと心配したんだよ。確認する前に捕まったけど……」
「あの時だとして、なんで私はコネクトを使えないのかな? ヤマはその女の人に言われたこと覚えてない?」
「うーん…… 覚えてないな…… 第一、眠っているか寝ぼけているか分からない俺に大事なこととか説明するかな?」
「それもそうね。ただ、これで私も腕輪を身につけられたことと、キメラから何か吸収できたことの説明はできそうね」
「たしかに。謎が解けたけど、別の謎が増えた感じか……」
それにしても自分のことはよく覚えてないのに、モカのことはよく覚えているものだ。あの時か――




