第8話 ガトアルデとネコ人ホイホイ
少し行くと村が遠くに見えてきた。あれがガトアルデだろう。
だが、俺がそちらを見ている間に、クルルが別のものを発見したようだ。
「あっ、あれブタウシだプイ。強めだけど、めちゃくちゃ肉がおいしいキメラだプイ! 小さめの個体だから勝てる可能性が高いプイ」
「1匹だし、食料確保で戦うか」
ブタのような闘牛のような……
向こうを向いていて見た目はよく分からないが、おいしいということだけは容易に想像がついた。
それにしても、もう少しネーミングは何とかならなかったのか。分かりやすくていいけど、あまりにそのままだ。きっとこれから出会うキメラもそうなのだろう。
「クルル、あいつは何のコネクトを使うのかしら?」
「水プイ!」
「水か…… クルルたちモル人とは能力が被って相性良くなさそうね」
「そうなのプイ。だからモルジクではめったに食べられないプイ」
「よし、俺もコネクトを使いつつ戦おう」
と言っても草原だとあまりめぼしい物が落ちてなく、石とか、土とかを使うしかなさそうだ。どうするか。
「ヤマ、落とし穴よ。落とし穴を作るの」
原始人たちは大きな獲物を狩るときには落とし穴を使ったと学んだ気がする。ただ、コネクトは並行世界から持ってくるのが基本だからな、と思ったところで気付く。
俺のコネクトは特別だ。
「分かった。あいつを落とし穴にはめるから、その後、上から攻撃しよう」
「落とし穴プイ?」
「まあ、見てなよ」
そう言うと、まだこちらに気付いていないブタウシの足元に意識を集中させる。以前より大きな穴があけられる気がするのは腕輪のおかげだろう。
自信をもってブタウシの足元の土を別の世界に移動させ、ブタウシごと飛ばさないように、すぐに穴を閉じた。
(スッ)
(ブモウ!)
まさか土が消えると思わなかったブタウシは落とし穴に落ちた。そこに2人が飛びかかり攻撃した。最後に俺もロングソードで攻撃し、倒すことに成功した。
「すごいプイ! こんな戦い方できるなんて」
「ヤマのコネクトは特別だからよ。出すだけじゃなくて、消せるのよ」
「まあ、モカのアイデアを形にしただけだけどな」
おいしい肉をゲットしご機嫌な俺たちは、今日は早々にキャンプすることにした。ブタとウシのいいとこ取りをしたブタウシ肉は絶品だった。何日かは食べられそうだが、量が多いので、腐る前に売ろう。
◇
翌日、明るいうちには十分ガトアルデに着きそうだった。ただ、クルルが怖がっているので、俺とモカだけで肉を売りに行こうかと考えていた。
だが、村までもう少しというところで、キメラと戦っている『人』に遭遇した。
「あれは…… ネコ人プイ」
「なるほど。素早くて柔らかい身のこなしはさすがだな」
「戦っているキメラは何かしら? ドラゴンみたい」
「たぶん、トカコウだプイ。結構強い岩のコネクトを使うプイ。こんなところにいることもあるプイね」
きっとトカゲとコウモリだろう。見た目は小さいドラゴンという感じだ。モカは情報収集を続ける。
「ネコ人は何のコネクトを使うの?」
「氷だと思うプイ」
「氷と岩なら、岩のほうが硬くて強くないかしら?」
「た、たぶんそうプイ」
「どうしよう…… 助けたほうがいいかしら」
「迷惑になっても困るから、危なくなったら助けよう」
キジトラ柄の髪のネコ人は素早い動きでトカコウと戦っている。ジャンプ力もあり、強そうだ。ネコの割に尻尾が短いのは、過去の戦いでの傷なのだろう。十分強そうなのだが、トカコウは空を飛ぶので攻撃があたらない。
そんな中、ネコ人は氷攻撃を試みるが、キメラが上から岩攻撃をしてきて、氷は砕かれ、ネコ人に岩の一部があたり倒れた。
「このままじゃマズい! 助けよう!」
「クルル! 水なら岩に当たらなかったところは砕かれずに通るわ。それであいつを地面に落とすことに集中して! 岩の動きを私が見て、助けに入るわ。ヤマはあいつが落ちてきたところで翼を攻撃して!」
「「了解(プイ)!」」
トカコウがネコ人に向かうところで、クルルが立ちはだかる。トカコウは再び岩を放ち、勝負を決めようとする。
「そうはいかないプイ!」
(ズザーッ)
(バチャッ)
強烈な水鉄砲を放つが、岩部分は弾かれた。だが、強くなっているクルルの放つ水鉄砲は大きく、岩に当たらなかった部分はそのままトカコウまで届き、吹っ飛ばす。
(キキッ!)
「クルル!」
コネクトに少し疲れて、トカコウが叫びながら吹っ飛ぶのを見ていたクルルのところに岩が落ちてくる。それを見たモカがクルルに抱きつき、一緒に回避した。
「助かったプイ」
「すごい水鉄砲ね!」
2人が大丈夫なのを横目に見つつ、俺はロングソードで落ちてきたトカコウの翼をきり裂いた。飛べなくなったトカコウはもはや俺たちの敵ではなく、トドメを刺した。
無事に勝利した俺たちはネコ人に駆け寄る。
「大丈夫か?」
「うーん…… ニャ……んとか…… 君たちは誰ニャ? もしかして助けてくれたのかニャ」
「君は強そうだったから手を出さないようにしてたんだけど、岩を食らって危なさそうだったから」
「ありがとうニャ。岩と氷で相性が良くなかったかもニャ。あんなのが出てくるなんて予想してなかったニャ。僕はそこのガトアルデに住むゲンタだニャ。お礼をしたいからついてきてくれないかニャ?」
「プ!」
「ニャ? モル人かニャ。大丈夫だニャ。ネコ人はモル人をいじめたりしないニャ」
「ププ……」
「まあ、ゲンタもそう言ってるし、行ってみようよ」
「「そうね(プ……)」」
予定外ではあったが、俺たちはガトアルデに寄ることにした。
◇
ガトアルデに着くと、ネコ人たちが出迎えてくれた。不思議に思っていると――
「おかえりなさいニャ。ゲンタ村長」
「「「!」」」
「ただいまニャ。この人たちは僕を助けてくれた命の恩人ニャ。丁重におもてなしするニャ」
「ニャッ? 狩りの達人のゲンタ村長をかニャ? 分かりましたニャ!」
「そうニャ。まさか、トカコウが現れるとは思ってなかったニャ。あぶなかったニャ。あれがあのまま村に来てたらもっと被害が出てたニャ」
なんと、ゲンタは村長だったようだ。
村長がいるということは、それぞれの町とかにも長がいるのだろうか。日本という国名かどうかすらあやしいし、王様がいるのかもしれない。村長がどれくらい偉いのかも分からないため、今さら丁寧語で話しかけるべきかどうか迷いつつ、俺たちが驚いていると、ゲンタは俺たちを誘導しながら説明してくれる。
「驚かせてしまったかニャ? 僕はこの村の村長をやってるニャ。村の中ではかなり強いほうだと思ってたのが油断につながったニャ…… このあたりにはトカコウが出たことはあまりなかったのニャ。弓とかを持っていれば良かったんだがニャ。あっ、村長だからって敬語は使わないでほしいニャ」
「えっ? 分か……ったよ。村長には驚いたけど、狩りの達人というのは驚かないかな。届く攻撃手段さえあればあのキメラにも全然負けなさそうに見えたよ」
「ありがとうニャ」
「そうだ。自己紹介が遅れたけど、俺はヤマ、こっちはモカとクルル。モルジクから来て、エーンスタットに行こうとしてたんだ」
「なるほどニャ。それは結構遠い道のりだったニャ。今日はゆっくり休んでいってほしいニャ」
「ありがとう」
村の中にいるネコ人たちはまさに自由気ままという感じで、ゴロゴロしているものや、何かを追いかけているもの、木で爪研ぎしているものなど、いずれもネコっぽさがにじみ出ていた。
クルルは怯えて俺にくっついてきたが、しかたないのでやりたいようにさせてあげた。
連れて行かれたのは村で1番大きそうな建物だった。執事のような尻尾の長い白いネコ人が出迎えてくれた。ゲンタも十分もふもふに見えたが、このネコ人はなおさらもふもふに見える。
「おかえりなさいませニャ。お客さまも晩ご飯までゆっくりとおくつろぎくださいニャ」
「そうだ、肉とか買い取りしてくれるお店があれば教えてほしいんだけど」
「もちろんありますニャ。どんな肉ですニャ?」
「なんだっけ? ブタウシだったかな?」
「ブッ、ブタウシ! すぐにお店のものを呼びますニャ! 中でお待ちくださいニャ」
ブタウシと聞き、急に機敏になった。やはりあのおいしさは格別なのだろう。
「僕もブタウシをカリカリに焼いたやつが大好きニャ。村の皆も大好きニャ。なかなか手に入らないから、たぶん高値で買ってくれるニャ」
案内された建物に入ると、中には子どもたちが大勢いて、はしゃいでいた。それを見て、思い付いたことがある。待っているだけだと手持ち無沙汰だし、この際ネコ人とも仲良くなりたかったからだ。
「要らない木とか竹とかないかな? もしあれば欲しいんだけど」
「あるけど、どうするニャ?」
「ちょっと作ってみたいものがあるんだ」
「分かったニャ。資材庫にいっぱいあるから好きに使っていいニャ。案内させるニャ」
「クルルは一緒においで。モカは子どもたちと遊んであげたら? あっ、ダガーだけ貸してね」
「いいわよ。また何か作るのね!」
「お楽しみに」
資材庫に行き、適当な木や竹を見繕った。そして、ネコ人用おもちゃとギリギリ入れる小さな箱をいくつかと簡易キャットタワーも即席で作った。
作ったものを2人で抱えて戻るとモカはすっかり子どもたちとなじんでいた。
「おかえり。うわっ! すごいね! ねえ、みんな見て! ヤマが面白いもの作ってきてくれたよ!」
「「ニャ!」」
まずはおもちゃに群がるネコ人の子どもたち。そして、キャットタワーにもさっそく登る。何より箱が大人気だ。気付けば大人まで入っている! さすがネコホイホイ。ネコ人にも威力抜群だ。
「神様ニャ! ヤマ様はネコ人の神様ニャ!」
「いやいや、単なるお兄さんでいいよ」
「ありがとうニャ。僕からもお礼を言わせてほしいニャ。助けてくれただけじゃなく、こんなことまでしてくれて、本当神様みたいな人ニャ」
気付けばゲンタもそばにきていた。自分が作りたかっただけなのだが、喜んでもらえてすごくうれしい。箱がよほどお気に入りなのだろう。神様扱いとはおどろいた。
「そうニャ。受け取ってほしいものがあるニャ」
奥のほうの部屋に案内されたので、クルルはモカに任せた。
「これをどうぞニャ」
「これは?」
「これは、村長である僕のヒゲが入ったお守り袋ニャ。ネコ人にとっては安全祈願のお守りだけど、これを持っているとネコ人から信頼を得たという証になるニャ。どこに行ってもネコ人はこれを見たら協力してくれるはずニャ」
「そんな大事なものをもらっていいのか?」
「もちろんニャ。僕の命の恩人かつネコ人の神様みたいなヤマにもらってほしいニャ」
「そうか…… ならありがたく」
お守りをもらい首から下げ、元のところに戻るとまだモカは遊んでいた。クルルもいつの間にか一緒に遊んでいた。怖さがなくなったようだ。
そういえばまだ肉の買い取りをしてもらってなかったことを思い出し、白いネコ人を探すと…… なんと箱に入っていた!
気付いたら一緒に箱に入っていたというお店の店主が俺を見つけて出てきたので、肉などを6000エンほどで買ってもらった。恐るべしネコ人ホイホイ……
こうしてネコ人とすっかり仲良くなれた俺たちは、おいしい食事をごちそうしてもらい、1泊させてもらった。
◇
次の日、俺たちはエーンスタットに向けて出発することに。
「またいつでも来てくださいニャ」
「そうですね。またぜひ」
「モカお姉ちゃん、クルルちゃん、また来てほしいニャ!」
「「うん!(プイ!)」」
大勢の子どもたちと、ゲンタたちに見送られて俺たちはガトアルデを出発した。
「いよいよエーンスタットだね。どんなどころかしら?」
「私も詳しくは知らないけど、大きな都市プイ。今日中には着くはずプイ」
「そばに洞窟があるってダブル爺の手紙に書いてあったけど、知ってるか?」
「聞いたことはあるプイ。そもそもその洞窟からキメラが広がっていかないように、近くに防衛都市ができたのが始まりらしいプイ」
「なるほどな。なら、洞窟の情報とかいろいろありそうだな」
「そうね。まずは宿屋を確保して、その後チップ屋さんに行くようにしましょう。そこから先は聞いてみないと分からないわね……」
色々想像している間に、昼過ぎにはエーンスタットの門が見えてきた。




