第7話 初めての町、モルジク
翌朝、さっそく川を渡る。橋があるわけじゃないから、慎重に。
「気を付けて、モカ」
「うん、大丈夫よ」
「……魚っていないんだな」
「いるプイよ? たまたま見かけてないだけプイ」
「そういえば、キメラ以外の生き物っているの?」
「もちろんプイ。キメラのせいで、少なくなったらしいし、いっぱい絶滅したらしいけど、小さい生き物や強そうじゃない生き物はキメラじゃないことが多いプイ」
「へえ。キメラは強そうな生き物が合わさってるのか……」
「そうプイ。食べたらおいしそうなキメラ以外は大体強いプイ」
「キメラになった生き物とそうじゃない生き物か…… 興味深いわね…… キメラのせいで絶滅したって言うけど、キメラってそんな最近からしかいないのかしら?」
モカの頭の回転の速さは相変わらずだ。クルルの何気ない会話からもこの世界の理解を深めるきっかけを得ているようだ。
「たしか…… 1万年前くらいにキメラが登場したってダブル爺が言ってたプイ」
「1万年前…… かなり昔だけど、人類はもういる時代ね……」
「その時代に『奇跡の超天才』がいて、その人間のおかげで文明が発展したらしいけど、私も詳しくは知らないプイ。今は、そんな文明、遺物としてしか残ってないプイ」
「それは、キメラのせい?」
「そう言われているプイ」
「なるほどね…… となると、1万年前に何があったかそう簡単には分からないわね」
いつものように理解が進むと同時に謎が深まった。そんな話をしている間に無事に川を渡りきった。ここからは、キメラが多くなるようなので、警戒して進もう。
◇
川を渡ってからは一気にキメラの数が増えた。1時間に1回くらいは戦っただろうか。3人いることでなんとか戦うことができ、俺もモカもキメラを何匹か倒すことができた。
出会ったキメラは、イノシシがベースになったようなものが多く、混ざる動物はウシやウマ、サルっぽいのまでいた。
基本、イノシシベースだと風を使うようだ。サルが混じっているキメラはずる賢くて倒すのが大変だった。
イノシシ以外にはどうやら鶏ベースのものがいて、こちらは土を使ってきた。土は当たると痛い。こちらはウシ、ウマ、ブタなどが混じっていそうで、これがおいしくて人気なのだとクルルが解説してくれた。
キメラを倒した後の、吸収の法則性も大体分かってきた。
まず、吸収が起きるのはキメラが死んだ後だ。それは当然として、ある程度の距離まで近づかないと吸収は発動しなかった。それと、誰が倒したかは全く関係しなかった。また、吸収できるのはキメラ1匹あたり1人だけのようだった。同時に近づいてもダメだった。
ゲームの経験値のように、参加メンバーに均等に分けられるとかそういう仕様ではないようだ。
さらに、モカもしっかりと吸収できた。コネクトを使えないのになぜだろうと3人とも疑問に思うが理由は分からない。コネクトを使えないか試してみたが、やはりうまくいかなかった。今は無理でも、チップを購入すれば使えるはずだから、モカにもしっかりと吸収しておいてもらうほうがよいだろう。
ちなみに、やはり吸収の原理は全く分からないままだが、腕輪やネックレスが直接吸収しているというより、これらを持っている人に入るようだ。不思議なことに、最初に一部だけが腕輪の方に吸い寄せられ、残りがその後に身体に直接入っていく感じだ。さすがのモカにも原理は分からないらしい。
なお、肉は全部は持ちきれないため、食べる分と、あとは売るとお金になるという角とかだけを持っていくことにした。
◇
吸収の仕組み解明のために色々と試していたこともあり、5日目の夜になってようやくモルジクに着いた。
その日はもう遅い時間だったので、町を見るのは明日にして、まっすぐクルルの家に案内してもらった。クルルはひとり暮らしで、きれいに整った家だった。
「調味料とかもちゃんとあるから、今日はごちそうを作るプイ。あっ、料理作る間に順番にお風呂に入ろうプイ!」
「「お風呂! うれしい!」」
お風呂は本当久しぶりだ!
お風呂を準備しているときに、クルルが服を持って俺たちのところにやってきた。
どうやら、昔モルジクに住んでた人間が残していったもののようだ。着替えがあることもそうだが、俺たちはジーンズ姿だったこともあり、こちらの世界ではちょっと浮きそうで心配だったから助かった。
こちらの世界の服は動き易さ重視という感じのようだ。キメラに襲われた時に逃げられるようにだろう。
俺の服は薄手の長袖にしっかりとした革でできたベストを合わせてあり、多少はキメラの攻撃を防げるかもしれない。ロングソードもつけやすそうだし、ライターも忍ばせられる。革のブーツまで用意してくれた。
モカのほうは、膝下まである長めのキュロットに、フリルブラウスを合わせたような格好だ。革のブーツもセットだ。とにかくかわいい。
久しぶりのお風呂を堪能し、着替えた後、3人で語らいながら晩ご飯を食べるが――
(こっちの世界の服を着たモカもかわいいな……)
「ん? なんか付いてる?」
「あっ、いや、大丈夫だよ」
「?」
モカに見とれていたら、不思議な顔をされてしまった……
そんなゆったりした夜を過ごし、この数日の疲れを癒やすため、皆ぐっすりと眠った。
◇
次の日、クルルが町を案内してくれた。
まず1番最初はダブル爺とブイ婆ちゃんのお墓参りだ。町の端にひっそりとお墓が建てられていた。ダブル爺がいなければ、俺たちはクルルに会うこともなく、死んでいただろう。本当に感謝しかない。
((腕輪ありがとうございます。諦めずに帰る道を探してみます))
(ヤマはとってもいい人だから、私たちを見守ってほしいプイ。いってきますプイ)
クルルは2人にいってきますとあいさつしたそうだ。ひょっとしたら、ブイ婆ちゃんはクルルの実のお婆ちゃんなのだろうか? 気にはなったが、本人から言うまでは聞かないことにした。
次に、道具屋というか雑貨屋の雰囲気のほうが近いお店にキメラの角や余っていた肉を売りに行く。
「おっ、珍しいお客さんプイね。クルルのお友達プイ? なら大歓迎プイ」
「そうプイ。私の大切な仲間のヤマとモカだプイ! キメラを狩ったから売りたいプイ」
「おお、それはありがたいプイ。危ない作業本当ありがとうプイ。結構あるプイね。すごいプイ」
通貨の単位は『エン』で総額3000エンほどだった。
少ないと思いきや、売り物は10エン以下が多く、物価は俺たちの日本の100分の1くらいだろうか。そう思うとずいぶんと大金をもらったようだ。それだけ危険な作業なのだろう。丁寧にお礼も言われた。
なお、お札はないようで、硬貨ばかりだった。1番高い硬貨は10000エンらしいが、使いにくいので、普通は100エン硬貨までしか使わないとのこと。1万円札みたいなものか。
とりあえず1人1000エンずつくらいに分けて持っておくことにした。
ついでに、売っていた傷薬など、役に立ちそうなものを買っておいた。また、俺とモカはリュックをちゃんとしたものに買い換えた。
「私はヤマの作ったリュックでもいいんだけど……」
「ダメだよ。長旅になるかもだし、荷物をたくさん入れたときに破れたら困るから」
「分かってるわよ。せっかくヤマがくれたものだから、とっておきたかっただけよ」
「もう…… いつでも作ってあげるからさ……」
「うん!」
弾ける笑顔を見て、これからもモカの笑顔のために俺は頑張ってしまいそうだと、改めて思った。
買い物を終え、モルジクの中を引き続き歩くと、畑が多くあることに気付いた。どうやらモル人の好きな野菜を中心に栽培しているようだ。
教えてもらった範囲では、種まきしたばかりのブロッコリーのほかに、チンゲンサイ、コマツナなどが多かった。クルルが好きというパパイヤも栽培されていた。パパイヤはどうやら完熟ではなく、青い野菜として収穫して、干したものを食べるようだ。そういえばクルルの家に大量に干してあった気がする……
「みんな自分たちの好きな野菜を育てて食べたり売ったりするプイ」
「自給自足に近いのね」
「そうプイね。でも、キメラの肉とかは買わないといけないプイ」
「そうか。キメラを倒すのは危険な作業だからね」
「そのとおりプイ」
畑で仲良く作業しているモル人もいれば、野菜をつまみ食いしているモル人もいる。そうかと思えば、広場でくつろいでいるモル人も結構いる。
まさに、平和な町という感じだ。
「それにしてもいい町だな。ここで余生を送りたいと思ったダブル爺の気持ちが俺にも分かる気がする」
「そう言ってもらえてうれしいプイ!」
のどかで、みんな穏やかに暮らしているモルジクを見て、ここなら愛するモル人とダブル爺が余生を送りたいと思っても不思議じゃないと思った。モル人ともっと交流したいが、俺たちには行かないといけない場所がある。そのため、買い出しを済ませ、休んだら早々に出発しないといけない。
そのことを分かっているクルルは、乾燥青パパイヤを大量にリュックに詰め込んでいた。そんなに食べるのか…… 俺とモカも買ったばかりのリュックに荷物を詰め、旅支度をした。
エーンスタットはモルジクの南のほうにあるらしく、そこまでは、あの洞窟からモルジクまでよりも遠いらしい。どうやら洞窟からモルジクに来るまでは主に西に向かっていたようで、クルルの言う通り、遠回りではあるようだった。
それと、エーンスタットまでの道の途中にネコ人が住むガトアルデという村があるらしい。ただ、クルルはできれば寄りたくないとのこと。どうも本能的にネコ人は怖いらしい。そりゃ、もともと狩られる側だったのだから納得だ。
遠いとは言え、このルートは道が整備されていて、キメラ遭遇率も低いそうだ。安心して出発することにした。
◇
モルジクを出て、1日あたり3、4回くらいの戦闘を順調にこなしつつ、南下する。道はあるとは言え、両サイドは森のため、出てくるキメラの種族は特段変わらない印象だ。おかげで危なげなく進むことができている。
4日目も終わりに差し掛かった頃。
「プ? あそこにお墓があるプイ。あんなのあったプイか? 私がこっちの道に来たのが久しぶりだから忘れちゃってただけプイかな」
クルルが指差す方向――道から左に少し森に入ったところ――に、お墓らしきものがあった。
「まだ、建てられてそんなに経ってなさそうだわ。ヤマ、見て。奥の方、たぶん東に続いているのだと思うけど、あっちに人が通った跡があるわよね?」
「そうだな。東から逃げてきて、ここで力尽きた人を埋葬したのかな」
「何も書いてないからどういう人なのかも分からないね」
「においからも分からないプイ。ということは何カ月かは経っているプイ」
「常にこういう危険があるということね。私たちも力尽きないように協力して進みましょう」
「「だな(プイ)」」
「もうじき森を抜けるプイ」
クルルの言うように、森が終わり、開けたところに出た。荒れ地ではなく、草原という感じの雰囲気だ。ところどころ木が生えている。
「ここから先は見通しが利くから、キメラを見かけたら近づかないように気を付けるプイ。草原にいるキメラは大体大きくて強いプイ。あと、たまにだけど、空からも襲われることがあるから気を付けてほしいプイ」
「「分かった(分かったわ)」」
俺たちは気を付けながら道をそのまま進み始めた。




