第6話 信頼する仲間
「ダブル爺はブイ婆ちゃんのことを心から大切に思っていたのね……」
手紙を読み終わったモカは潤んだ目でそうつぶやいた。
「どういうことプイ? 教えてほしいプイ!」
俺にはうまく説明できそうにないので、モカに頼んで並行世界から来たことを除いてうまく説明してもらった。
特にブイ婆ちゃん関連をしっかりと。あとは、持ち主を探せたら探すということと、エーンスタットそばの洞窟にヒントがあるかもしれないこと、だけど、腕輪とネックレスのことは他人には言わないこと、など。
「そうだったんだプイね……」
「クルル。大事な話があるんだ。この手紙を読める俺たちに託したいというダブル爺の想いを受けて、腕輪とネックレスを受け取り、旅に出ようと思う。クルルは人間と仲良くなるために人間がいる都市に行こうとしていたんだよね? もし…… もしよかったらだけど、ネックレスを受け取ってくれないか?」
「それって、つまり、仲間になってほしいってことプイ?」
「「そうだよ(そうよ)」」
「……分かったプイ! ダブル爺とブイ婆ちゃんみたいになるプイ!」
「あっ、でもヤマは私の…… あっ、いや…… なんでもない……」
(ん?)
モカの反応が気になるけど、クルルが俺たちの仲間になってくれそうで嬉しい。そうだ、腕輪とネックレスを確認しなくては。
「じゃあ、腕輪とネックレスを見てみようか」
「「うん(プイ)」」
そばに置いてあった箱を開けると中には太めの腕輪2本とネックレス1本が入っていた。驚くことに、腕輪もネックレスもほとんど透明だった。
「ネックレスはともかく、腕輪太すぎない? ヤマでも太すぎるだろうし、私は論外だよ」
「変プイね。ダブル爺の腕はそんなに太くないプイ」
「そうなの? まさか…… ねえ、ヤマ、腕に通してみて」
「ん? いいよ」
透明な腕輪を腕に通す。明らかに太すぎる。が、肌が腕輪の内側に触れた瞬間――
(うねうね……)
「「「うわっ!(プ!)」」」
腕輪がじわじわ変形してピッタリサイズになった。まるで生き物のような動きだ…… ピッタリサイズになった後は、着けていても気付かれなさそうだ。
「急に細くなるから、びっくりした…… 痛くないし、着けてても気にならないよ」
「じゃあ私も」
「私はネックレスのほうプイね」
2人とも身に着けた。知っていないと気付けないレベルで溶け込んでいる。貴重なものだからこその技だろうか。
「ねえ、ヤマ。私はコネクトを使えないけど、意味あるのかな?」
「さあ、まあ、でも綺麗だからいいじゃん」
「ふふっ、そうね。ヤマがそう言うならいいことにするわ」
クルルは読めない手紙とネックレスをまじまじと見ている。その隙にモカが小声で聞いてくる。
「ヤマのもコネクトなのかな?」
「さあ、強くなるかどうかで分かるんじゃないかな?」
「そうね」
クルルがこちらに気付いて寄ってくる。
「そういえば、これ着けてると徐々にコネクト能力が強くなるらしいプイね? でもヤマとモカはどうなるプイ?」
「分からないわ。そもそも私はコネクトを使えないの。使えないのに、あんな感じで身に着けられるってのが不思議よね。てっきり、身体の中のチップにでも反応してるのかと思ってたのに」
「じゃあ、エーンスタットに行ってチップ買って試してみるのがよいプイね」
「なるほどね!」
「……」
俺は少し迷っていた。クルルは命の恩人で、もう仲間だ。まだ、出会って間もないけど、疑う気持ちは一切湧いてこない。そもそも、こんな大切なところに連れてくるくらいこちらを信用してくれているんだ。やはり隠し事はできるだけしたくない。
話すなら今しかない。今話さず、あとで知ってしまったら裏切られた気持ちに絶対になる。俺の真剣なまなざしにモカが気付いた。軽くうなずき優しく声をかけてくれた。
「ヤマのやりたいようにしていいわよ。私はずっと、絶対にヤマの味方だから」
「ありがとう。モカ」
「プイ?」
モカの後押しで、心を決めた。
「クルル。俺たちを助けてくれたこと、君のとても大切な場所に連れてきてくれるほど、信用してくれたこと、本当に感謝してるし、もう仲間だと思ってる。これからもずっと。だから…… 俺たちがクルルを本当に信じているっていう証、見ててほしい」
「プ?」
(チョロロ……)
空間から水を出した。並行世界の水筒からだ。クルルはつぶらな瞳をさらに丸くしている。
「ヤマ、コネクト使えるプイね! 私と同じ水――」
(ビュン! ……カン!)
「ププ!」
次に石を飛ばしたところでクルルは思考停止に陥ったようだ。
「……プイッ、なにそれ、見たことないプイ! 水と土、というか石プイ。石なんてあるプイ? なんでプイ? ヤマ何者プイ?」
「分からないんだ。ある時から使えるようになったんだ。本当なんだ……」
「……」
「それにコネクトかどうかも俺には分からない。だから、これが強くなるかどうか確かめたいんだ。そもそも強くなるっていうのがどういうことなのか分からないけど」
「……分かったプイ。私を信じて話してくれたヤマを信じるプイ!」
「あっ、ちょっと待って。1番大事なやつがまだ……」
モカのほうを見る。モカは柔らかい笑顔を浮かべてうなずいた。俺は大きく息を吐いて、心を落ち着ける。
「信頼する仲間以外には絶対に見せないやつを見せるよ」
「プ?」
(シュボッ)
「プーイプーイ!」
もはや言葉にならないようだ。完全にモルモットになっている。震えながらモカの後ろに隠れてしまった。
「驚かせてごめん……」
「火のコネクトなのプイ? まさか、ヤマがプイ?」
「たぶんだけど、クルルが思っているのとは違うんだ。俺の中では水も石も火も同じように出している。さっきの火はこれを別の世界から取り出したんだ」
そう言って、ポケットからライターを出し、火をつけた。ライターの火自体には意外とそれほど驚かなかったようだ。
「つまり、どういうことプイ? 好きなものを出せるプイ?」
「好きなものというか、自分で扱えるものかな? モカ、説明してほしい……」
「うん、任せて」
その後、モカがうまく俺の力を説明してくれた。
「なるほどプイ。ヤマは本当特別プイ。私が心奪われるわけプイ! なのにイノウシの子どもに勝てなかったプイね……」
「あ…… それは石がよけてったから……」
「イノウシは風のコネクトを使うプイ。風で弾かれたと思うプイ」
「なるほど! じゃあ、何を使うキメラか分かっているって結構重要かもな」
「私が役に立つプイ! 私を信頼して、こんなすごい秘密まで教えてくれるなんて本当感激プイ! 私、ヤマにとってのブイ婆ちゃんになるプイ!」
「いや、だから、それは私が…… ね…… ヤマお願いっ」
心の声が抑えらくなって涙目で見つめてくるモカを男として放っておくわけにはいかない。
「モカが俺にとって1番特別なのは昔からずっと変わらないよ。役割が違うだけだよ。たぶん攻撃はクルルの水攻撃が1番強いし、作戦立てたり頭を使うのはモカが1番だし、細々とした作業は俺が1番得意って感じだから、みんなで協力していかないと生きていけないと思うよ」
「「うん! そうね(しかたないプイね)」」
丸く収まったところで、洞窟から出ることにする。さて、これからどうするか。
「やっぱり、エーンスタットだっけ? まずそこに行きたいんだけど、クルルは道分かる?」
「たぶん分かるけど、少し遠回りでもモルジクに寄ってからのほうが道があるから安全プイ」
「そうか。モカどう思う?」
「私もクルルの意見に賛成よ。このあたりの地理はクルルが1番詳しいし。あとは水を切らさないよう、できるだけ川沿いを進むとかくらいかしら」
「たしかにそれがいいプイ。モカ、賢いプイ」
「だろ? かわいいだけじゃなくて、いつも俺が頼りにしてるだけのことあるだろ?」
「うふふっ。もう……恥ずかしいからやめてよ!」
コネクトを使えないモカが自信をなくさないよう、俺がこれまで以上に大切にしなきゃな。
◇
洞窟の入口まで戻ってきたあと、余っていたイノウシの肉を竹の葉に包み、俺の即席のリュックに入れた。クルルはもともと持っていた小さなリュックに俺が作った水筒だけを入れていた。その姿を見て、クルルに尋ねる。
「モルジクまでどのくらいかかる?」
「急げば4、5日だと思うプイ」
思っていたより遠い。何日も野宿が必要そうだ。着替えがあればよかったなと思うと同時に、時間がかかる割に軽装なクルルを見て、ふと疑問に思う。
「クルルはよくおなか空かなかったな」
「草がいっぱい生えてるから全然大丈夫プイ」
「あっ…… なるほどね」
モル人らしい答えで納得した。人間よりよほど旅に向いている。最後に、まだ役に立てられていないロングソードを確認し、これで出発準備万端だ。
「そういえば、クルルは武器使わないのか?」
「私は大体これ、メイスを使うプイ。コネクトを使うと疲れるからメイスで済むならそうしてたプイ」
「あっ…… 気付かなかったよ」
クルルが指を差した背負ってる武器に今頃気付く。それほど、あの水鉄砲が印象深かったのだ。それより――
「クルルもコネクトを使うと疲れるのか?」
「皆そうプイよ? ヤマは違うプイ?」
「俺も疲れるよ。ただ、疲れると言っても身体のどこかが疲れる感じとは違うけどね」
「ああ、同じプイ。やっぱりヤマのもコネクトだと思うプイ」
「私もそう思うわ、ヤマ。ただヤマはチップがないのにどうして使えるかが分からないのよね」
準備を終えてこちらに来たモカがクルルに同意した。
「ヤマも亜人プイ?」
「それは違うって私は断言できるわ」
「ププ…… ヤマのことになるとモカちょっと怖いプイ」
「ま、まあ、モカと俺の付き合いは長いからね。それに、エーンスタットに着いてチップを寄生させようとすれば分かるんじゃない? チップの追加寄生はできないみたいだから」
「そうね、目的地ははっきりしてるから、そろそろ出発しましょうか」
「「賛成(プイ)!」」
◇
洞窟を出発して川沿いを歩くことにした。
昼過ぎまで歩いたところで、またイノウシに遭遇した。前回より大きいが、まだ若い個体のようだ。
「運が良いプイね。大人は大きいから面倒だけど、また小さいやつプイ。どうやって倒したいプイ?」
「できれば、このロングソードで倒したいかな」
「それがいいプイね」
「風にだけ気を付けるプイ。攻撃をかわした直後が狙い目プイ」
そうは言われてもこっちは素人だ。だが、考えている余裕はない。俺の方に向かってきた。
(まるで、闘牛みたいだ…… そうか、ウシも混じってるのか!)
イメージできてしまえば器用さが売りの俺には簡単だ。ぶつかる直前で横にスライドし、かわしつつ思い切り剣で切る!
(サッ)
(ズバッ!)
(……ドサッ)
……見事に仕留められたようだ。
「「すごい(プイ)!」」
仕留めた喜びを感じていたとき、何か小さな粒たちがイノウシの身体から俺の腕輪のほうに来て、吸い込まれた。目を凝らしていないと気付けないくらい小さな粒たちだった。
「プ? よく見えなかったけど、なんかヤマのところに飛んでったプイ? 気のせいプイ?」
「いや、気のせいじゃないな。きっとこれが強くなる素なんだろう」
「どんな感じ? 経験値を得た感じかしら?」
「へっ? 経験値を得たことがないから分かんないけど…… でも特に何も感じないな……」
「そっか。ダブル爺もしばらく気付かなかったみたいだし、しょうがないわね」
「やっぱり初めて見る現象プイね。倒した人が吸収できるプイか?」
「……分かんないな。モカどう思う?」
「誰が倒したかどうかなんて区別できない気がするのよね…… だから、キメラが死んだあと、そばにいる人のところに行くんじゃないかしら」
「なるほどな。いろいろなパターンを試してみるか」
途中、モカのお茶目スイッチが一瞬入ったのは少し余裕が出てきたからだろう。追加の肉をゲットし、当面は飢えの心配もなさそうだ。
その後、意外とキメラは出てこず、途中で1泊して、2日目の夕方まで順調に進んだ。そこでクルルが川のほうを見て言った。
「この辺が浅くて渡りやすいから、渡るプイ」
「分かった。でももうすぐ暗くなりそうだから明日にするか」
「それがいいプイ。川を越えたモルジク側のほうがキメラがずっと多いプイ」
「そうだったのね。私、実はキメラって意外に少ないんだなと思ってたけど、そうじゃなかったのね」
「じゃあ、今日はしっかり食べて休んで、明日以降に備えよう」
「「うん(プイ)」」
この日は川を渡らずに休むことにした。




