第10話 VS 侵略者
◇◇◇
――時は『あの時』に遡る――
「準備はできたか? カエデ」
部屋に入り、右奥のほうで作業しているカエデに声をかけた。今日、『ナギ ヤマト』を捕らえる作戦を決行するが、果たしてどんなやつだろうか。
「一応ね。あんた――タツキ――だって分かってるでしょ? 遺物はちゃんと動作原理が分かってるわけじゃないんだから。予期してないことが起きなきゃいいけどね」
「そうは言っても、大体カエデならうまくやるだろ?」
「ふふっ」
「どの辺に引きずり出す予定だ?」
「部屋の入り口横の壁あたりからまっすぐ部屋の奥側に引きずり出すから、出てくる先あたりで構えてて」
「不意打ちになるはずだから、さすがにいきなり攻撃されることはないと思うが…… まずはどんなやつか確認しないとな」
「そうね。でも油断はしないでね」
「当然だ。紐も準備したしな」
すぐにカエデが遺物を動作させた。
予告通り壁際から、やつを引きずり出すことに成功した。さすがカエデだ。
「ここはどこ? さっきの、まるでヤマが使う魔法みたいだったわよね?」
「イタタタ…… えっ、そうかな? いやいや、モカはよく落ち着いていられるね! 穴ふさがっちゃったよ? それよりもまず、少しどいてほしいかも……」
「あっ、ごめん……」
(ふっ…… なんだ、こいつ? 思ってたより若いし、尻もちついて鈍臭いやつだな)
「お前が『ナギ ヤマト』か?」
先手を取るべく、とにかく急いで威圧感たっぷりに声をかけた。だが、死角からもう1人女が出てきて逆に驚かされてしまった。
「ん? お前は誰だ? どうやってここに来た!」
のんきに自己紹介を始めた謎の女。そんなのはどうでもいい。
「どういうことだ? おい、説明しろ!」
カエデに向かって叫んだ。
「――あぁ、そいつをこっちに引きずり込もうとしたときに、仲良くくっついてたからじゃないかしら?」
「1人くらい増えたところで、筋肉の塊のあんたなら問題ないでしょ?」
「まあな。それに、その女はこの侵略者の仲間のようだし――」
「それより、ちょっと気になることがあるから、そいつら何とかして、こっちを一緒に確認して」
「分かった。こいつらにはあとでたっぷりと話を聞かせてもらおう」
ポカンとしている2人を紐で縛り上げるのは簡単だった。
(こいつら油断しすぎじゃねえか? バカなのか?)
2人を小部屋に押し込めて鍵をかけたあと、カエデのところに戻った。
「で、何を見つけたんだ?」
「これよ」
遺物には直前の動作を映像として一時的にだけ記録できる装置が付いていた。ちょうど、侵略者たちを引きずり出すところが映っていた。カエデの操作で、ゆっくりと再生されていた。
「ん? 入り口のところにあったキメラの死体から何か出ていったような……」
「それだけじゃないわ」
「やつらを引っ張り出した穴に寄っていって…… その後、男のほうに。いや、違うな。男のほうに行こうとして、女のほうに行ったか?」
「やっぱりそう見える?」
「ああ」
「その後、ほら、ここ」
「ん? 女が額を気にしてる? 額にでもぶつかったか」
「ちょうどその時、タツキが声をかけたってわけね」
「見たことない現象だけど、遺物の効果か?」
「遺物の効果か、あいつらの能力か。一度男のほうに行こうとしたように見えるし、女の反応も意図的には見えないから、遺物の効果かしら」
「遺物の効果だとして、あれが何か分かるか?」
「さあ…… いくら額に向かったとしても、まさかチップなわけないし…… それに遺物には説明書があるわけじゃないし、エネルギー回復まですごく時間がかかるからもう1回試すわけにもいかないわよ」
(……もし、やつらの能力だとやっかいだな)
「ただ、あんな生物を送り込んでくるやつだ。どんな能力があっても不思議じゃねえ……」
そうつぶやきながら、例の生物が入った箱を指差す。
恐怖がよみがえったのか、箱を見ながら震えるカエデの声が大きくなる。
「やっぱり気持ち悪いから殺しちゃおうよ……」
「お前、それでも研究者か? 殺すのはちゃんと調べてからにするぞ」
「分かってるけど、生理的に受け付けないというか――」
「はぁ、しょうがないな…… 俺があの生物を調べればいいんだろ? それより、さっきの映像をもう一度見せてくれないか?」
「うん」
◇
その後、何度か映像を確認したがよく分からなかった。どうしようかと思案しているときに、ふと気付く。
「そういえば、やつら随分と静かだな」
「タツキが強く縛り過ぎて窒息死でもした?」
「いやいや、首を絞めたわけじゃないから」
気になって小部屋をのぞく。
「いない!」
「えっ? どういうこと?」
部屋には2人ともいなかった。紐もない。すぐに右奥の扉を確認しに向かう。
「鍵がかかってるな」
「そりゃそうよ。そもそもそこの扉は鍵穴が壊れてて、鍵があっても開かないんだから。向こうから開けない限り開かないわよ」
「向こうから誰か開けたのか?」
「まさか。今日、ここにいるの私たちだけでしょ? 休日なんだから」
「そうだな…… 念のため、向こう側も見てみるか」
階段下の扉まで行き、確認したがやはり鍵がかかっていた。通路にまだいたカエデが声をかけてきた。
「ほらね」
「ほらね、って…… じゃあどうやって逃げたって言うんだ? 俺たちがいた部屋に通じる扉だって鍵をかけていたんだし、さっきも鍵がかかったままだったぞ」
「あの部屋に他に出られるようなところはなかったはずだわ……」
「ちっ…… とんでもないやつらをこっちに呼び寄せたことになっちまったか。それでやつらあんなにのんきに会話して、簡単に捕まったのか。バカなやつらかと思ってたが、こっちがバカだったな。すっかりだまされた……」
少し冷静になって考える。
(いや、本当にあの部屋から出られたのだろうか? 紐すらなかったんだ。紐を何かで切るか、ほどくかして抜けられたあと、持っていく意味なんてあるのか? 荷物になるだけだ。わざと持っていって混乱させる意味はあるのかもしれんが、そこまでするだろうか…… 何か秘密でもあるのか? それより、まだ紐に縛られているから、紐ごと見当たらないんじゃないのか?)
「戻るぞ」
「ん? いいわよ」
元の部屋の前に行き、立ち止まった。
「仮にやつらがまだここにいて、隠れているとしたら、ここから、さっきの階段のほうには行ってないはずだ。俺はここにいるから、カエデはそっちの通路の先、トイレの方を調べてくれないか?」
「隠れている可能性を考えているのね。分かったわ。あっちはトイレくらいしかないし、その先行き止まりだからね」
カエデがそちらに歩いていき、女子トイレの中をチェックして、出てきて首を横に振る。男子トイレも行け、と身振りで指示すると、ものすごく嫌そうな顔をして戻ってきた。
「交代よ」
「は? そんなこと気にするなよ」
「絶対いやよ」
「じゃあ、ここで見張っていろよ」
しかたなく、俺が男子トイレを確認することにした。結果、誰もいなかった。トイレに隠れている可能性はないと判断し、カエデのところに戻った。
「じゃあ、部屋に入って順番に探すぞ。隠れて隙を見て逃げる作戦かもしれないからな」
「逃げたと思わせて実はまだ中にいるっていうのは、よくある作戦だけど、本当にそんな作戦使ったのかしら?」
「……分からん。でも、あの鍵のかかった扉を通って、さらにもう1つの扉をご丁寧に鍵までかけて逃げるなんていうほうが、よっぽど非現実的だろ?」
「……そうね。もう1人協力者がいても難しいわ。階段下の扉の鍵は守衛室の中にあるはずだけど、守衛室も鍵がかかっているわ。私たちすら入れないわよ。そんな守衛室に入れるような研究所の人間が、ものすごく偶然に協力する以外あり得ないわ」
「そうだろ? それに逃げるなら、階段下の扉を出たあと、鍵をかけるなんてことをせずにさっさと外に出るはずだ。合鍵を持っていない限り、鍵をかけるのにも時間がかかるはずだからな。その間に俺たちが気付くのを普通は恐れるだろ?」
「そうね…… あいつらがどこまで普通なのか、私には予想もつかないけど」
(やつらならあり得るのか?)
そう思ったときに、もう1つ気付いた。
「……ところで、カエデはあの小部屋から鍵を開けるような音聞こえたか?」
「いや? 画面見てたから気付かなかっただけかしら…… でも、仮に研究所の人間が偶然協力したとしたら、最初に鍵を開けるときにそっと開ける理由は普通はないわね。泥棒ならともかく。でも泥棒なら、あの小部屋まで来る理由はないわ。泥棒が狙うならその手前の武器とかだわ」
「だろ? 中からは鍵があっても開けられない。外から開けた様子はない。鍵が壊されてもいない。これだけ揃ってたら、まだ中にいるって考えるべきだろ」
「あとは消えるか、くらいね」
「それならもうどうしようもない」
今できることが見えてきた俺たちは、とりあえず元の部屋に戻った。見た感じは誰もいない。
「隠れられそうなところを全部探してみてくれないか。俺はここで部屋の中と小部屋の扉を見張るから」
「分かったわ」
カエデは少し諦め口調で応じた。カエデはあの部屋から煙のように消えたと思ってるのか……
「いないわね…… あの生物もそのままよ」
「そうか。じゃあ、本命の小部屋を入念に調べるぞ。急に襲いかかってくるかもしれないから気を付けろ」
小部屋に慎重に入った。
さっき見た時と何も変わらない。念のため、カエデに2つの扉を入念に調べてもらう。そもそも小部屋には人が隠れられるようなところがほぼない。器材が入った棚が少しあるくらいだ。人が通れる大きさの排気口もない。
「やっぱり扉には何の異常もないわね」
「棚はどうだ?」
「今見てるけど、中には物が詰まってるから人は入れないわね」
やはりいるようには見えないため、最後に2人で入念に調べた。だが、収穫なしだ。
「どうしたものかしら。ここからいつどう出たか分かんないけど、少なくとも、もう研究所にはいないわよね。外に出たのかしら」
「階段を上ってまっすぐ行ったところの裏口は森に通じている。普通ならそっちから出て身を隠すだろうが、あんなやつらだ。堂々と正面玄関から出て、道なりに都市にでも向かったかもしれん」
「土地勘はあるのかしら。遺物が正しければここはあいつらにとって遠い並行世界のはずよ」
「……探しようはないか?」
「さすがに無理よ。侵略するつもりならどこかで悪事を働いて噂になるはずよ。だから、各都市で情報収集するのがいいと思うわ」
「そうだな…… まあ、その前にキメラに殺されるのがオチかもしれんな」
「そうかもね……」
ここまで予想外のことになるとは思ってもおらず、戸惑うしかない俺たちだった。
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