第11話 エーンスタットそばの洞窟初挑戦
あの時を思い出してみても、どうしてモカに寄生したのかがよく分からない。そもそもどんなチップだったのだろうか。
「……あの時に寄生したとして、どんなチップだったんだろう? あそこにいた男か女が寄生させたのかな?」
「あの2人だとすると、あえて未登録のコネクトを寄生させて能力を封じるとかかしら」
「なるほど…… それなら説明がつきそうだけど、やっかいだな」
「私だけコネクトを使えなくて…… 足手まといでごめんね……」
「足手まといなわけないよ! モカの作戦のおかげでキメラに勝ってきたんだし」
「ありがとう…… ヤマは本当優しいんだから……」
「俺から離れるなよ! 絶対に一緒に帰ろうな!」
「うん…… (ヤマったら……)」
こうなったら一刻も早く洞窟に行って、元の世界に帰る方策を探さなきゃな。そう決意を新たにした。
(あ……)
が、モカを励ましたいばかりにクサいセリフを言ってしまったことに気付き、猛烈に恥ずかしくなってきた。
ちょうどそのときクルルが帰ってきた。
「ただいまプイ! プ? どうしたプイ?」
「ん? 分からないことが多くて悩んでただけよ」
「モカでも分かんないプイか…… こういうときは甘いものでも食べるプイ!」
モカがうまくごまかしてくれた。さすがだ。
クルルは羊かんのような、ういろう――昔、名古屋で食べたことがある――のようなものを俺たちに差し出してきた。
モカが真っ先に手を伸ばす。
(もぐっ)
「おいしい! ういろうね! ヤマも食べてごらん」
「(もぐもぐっ) 本当だ! おいしい!」
「プ? ういろう? これは『ぷにもち』プイ」
「そ、そっか……(相変わらずのネーミングだな……)」
「ま、まあ、名前はともかくありがとうね。元気になったわ!」
「プイ!」
ぷにもちを食べて元気を取り戻した俺たちは、この後のことを相談し始める。
「明日は洞窟に向かおうと思うんだ。クルルは道分かるかな?」
「そう言うと思って聞いてきたプイ!」
「おっ! 頼りになるわね!」
「ププ! 洞窟は東門から出て北東にあるプイ。湖と森の間を歩けば、その日のうちに着くくらいの距離だって言ってたプイ」
「へえ、湖があるのか」
「プイ。このあたりにはいくつかあるプイ」
そういえば、洞窟から出てきたキメラは衛兵たちが大集団で戦うって言ってたな……
「クルルは洞窟のキメラがどんなのかは知っている?」
「さすがに知らないプイ。とても強いとしか聞いたことないプイ。私たちで勝てるか心配プイ……」
「そうだな…… 大集団で戦う強さなんだよな……」
「とにかく慎重に進んで、危なかったら引き返すことにしましょうよ。少なくともヤマとクルルのコネクトは、キメラを倒せば強くなっていくはずだから、ダメそうなら逃げて弱いキメラを倒して鍛え直すのがいいと思うの」
「なるほど。そういう手があったか」
「モカは相変わらず賢いプイ」
とりあえずの方針が決まった俺たちは明日に備えて休むことにした。
◇
翌朝、東門から洞窟へ向かうことにした。
東門なら大通りを南下して十字路を東に行けば良い、と宿屋の受付で教えてもらった。
どうやら、都市の真ん中に十字形の大通りがある構造のようだ。十字路を東門のほうに向かうと、通りは酒場だらけになり、その後、何やら大きな建物が東門まで並んでいた。
そのまま大通りを歩くと東門に着いた。
東門から外に出ると、正面に湖が広がっていた。
湖はこちらから見て奥側――東側――に細長く伸びているようだ。湖の左側には少し離れて森が広がっている。この森の奥のほうにモルジクがあるはずだ。
洞窟はここから北東、つまり、クルルの説明から考えると、湖の左側を歩けばいいのだろう。
洞窟までは見通しが比較的良く、キメラの姿を確認しやすいため、できるだけ急いで進んだ。
◇
昼過ぎに洞窟のそばまで来たところで、一旦止まって様子を見ることにした。
小さな岩山か丘という感じのところにぽっかりと穴があいている。そばにキメラがいる感じはしない。
「洞窟の外まではキメラは出てこないんだな」
「洞窟から出てくるのは珍しいんじゃない? 出てきたら大集団で戦うって言うんだから」
「そうか。じゃあ、このあたりならキャンプもできるかな?」
「そうかもね。洞窟の中よりはマシだと思うわ」
「とりあえず、まだ明るいし、入り口付近に行ってみて、どんなキメラがいるか確かめてみよう」
覚悟を決め、恐る恐る入り口に向かい、中をのぞいてみると、ぽっかりとあいた入り口から少し地下に向かって道が延びていた。
外から見ると全体が丘のような形に見えたので、少し意外だった。湖に隣接していることから、下手をすると湖の下まで延びているかもしれない。
もう1つ意外なことに、中に入ると思っていたより明るかった。どうやら岩のところどころに穴があいているらしく、光が入ってくるのだ。
まるでわざとそうしているかのようだった……
もともとたいまつを使うことを覚悟していたが、どうやらその必要はなさそうだ。ただし、できるだけ外が明るいうちに攻略するほうが良さそうだ。
今日は入り口のそばだけにしよう。
◇
洞窟は天井が高く、横幅も広いため、窮屈な感じは全くしない。キメラが強くなければ、攻略しやすい部類だろう。
そんなことを考えていたら、離れたところにキメラを見つけた。
あれは、イノウシのようだ。ただし、立派な大人だ。
「イノウシってあんなに大きいのか……」
「でも戦ったことがあるだけ楽プイ」
会話しているこちらに気付いたらしく、イノウシが突進してきた。
(ビューッ!)
「速い! たぶん風のコネクトを追い風に使ってるんだわ!」
「なるほど! なら横にしっかりとかわすだけさ」
「クルル! かわしたあと、後ろから攻撃すれば勢いが増して壁にぶつけられるわ!」
「プイ!」
(サッ)
(ズザーッ!)
(ドォン!)
追い風に吹き飛ばされないようにしっかりと回避した。それと同時にクルルの水鉄砲が炸裂し、イノウシを後ろからさらに加速させ停止を許さず壁に激突させた。
イノウシが目を回している隙に、両サイドから俺とモカが武器で攻撃してトドメを刺した。
短い武器であるダガーを持っていてイノウシに1番近かったモカに何かが吸収されていく。心なしか吸収されているものがいつもより多い気がした。
「ふう、イノウシなら大したことないな」
「でも、普通のイノウシより強いプイ。追い風みたいに使うのは初めて見たプイ」
「それに勝てるということは、私たちも強くなっているということね」
◇
さらに進むと、次はゲンタと会ったときに戦っていたトカコウに遭遇した。
「なるほど、こいつは普段はこういうところにいるのか。コウモリでもあるしな」
「天井があるとは言え、高さは十分あるから気を付けて。前倒した時の作戦が1番安全だと思うわ」
結果、モカの作戦が良いおかげで、トカコウにも無事に勝利した。
ただし、明らかにトカコウの岩のコネクトは前回より強く、クルルの今の水鉄砲ではギリギリだった。
「今回は勝てたけど、もう少し強いと水が全部弾かれそうプイ」
「そうね…… このあたりはまだ戦えてるけど、奥に行くと厳しいかもしれないわね」
「もうじき暗くなるし、今日はこのくらいにして、外に出て休もう」
「「了解(プイ)」」
◇
洞窟から出て、今日倒したイノウシを調理しつつ、俺は明日以降について考えていた。
トカコウは、狩りの達人と言われるゲンタですら武器の相性が悪ければ苦戦する相手だ。それが、ここではさらに強くなっていることに不安を覚えた。それはクルルも同じようだ。
「やっぱりこの洞窟のキメラは強いプイ。3人でまともに戦えていることがすごいことかもしれないプイ」
「うーん…… たしかに強いけど、大集団の衛兵で戦うほどかしら?」
「たしかにモカの言うとおりかもしれないな。3人で倒すのは難しくても、大集団までは要らないかもな」
「ということは、奥にはもっと強いキメラがいるプイか?」
「たぶんね……」
「……」
「さ、明日頑張らきゃいけないし、ここは洞窟にも近いから、見張りをしつつ交代で休もう」
「「うん(プイ)」」
◇
次の日、イノウシ、トカコウを倒しつつ、昨日より奥まで進んでみた。
「あれは…… イノ……トラ?」
「……強そうプイ。風だといいけど、分からないプイ」
「油断せずに行こう。モカ、どうしたらいいと思う?」
「イノシシベースみたいだから、猪突猛進タイプだと思うんだけど…… でも、トラは急襲を得意としているから、距離は確保したほうがいいわ。風を使って一瞬で距離を詰めてくるかもしれないから。あと、前足が特に強いはずだから後ろから攻撃したほうがいいかもしれないわ」
「「了解(プイ)」」
モカの分析は的確だ。というより、モカ無しでは勝てる気がしない。コネクトなんか無くてもモカが俺たちの攻撃の要なのは明らかだ。クルルもそれが分かっているから素直に従っている。
話していたら、すぐにイノトラが俺に向かってきた。
(タタタッ)
(サッ!)
(キュッ! くるっ! ブン!)
(うわっ! あぶねっ!)
イノトラがイノウシみたいに直進してくると思いきや、俺が回避した直後、モカの言うように急に方向転換して爪で襲ってきた。
わざと余分に回避してなかったら、強烈な爪攻撃を食らっていたところだった。
俺がかろうじて回避した直後、クルルが後足に向かって横から水鉄砲を放つ。
(ズザーッ)
(ガッ!?)
(ズバッ!)
水鉄砲でバランスを崩したイノトラを俺が斬りつけ、勝負ありだった。
「ふう、これだけ強いキメラだと、俺のコネクトじゃどうにもならないな。落とし穴作戦くらいにしか使えなさそうだ」
「でも、3人のバランスはたぶん悪くないプイ。私のメイスじゃトドメはさせないし、モカみたいな司令塔も必要プイ」
「そうだな。クルルの言う通りだな」
「……(私だけコネクトを使えないのはやっぱり……)」
その後、順調に奥に進んだ。洞窟にはキメラがたくさんいるようだが、洞窟自体が広いおかげで一度に大勢に囲まれるなどの危険は少なそうだ。
それに、キメラたちの連携がないのが救いだ。連携がないどころか、どうもキメラ同士が敵対しているように見えた。
◇
そのまま進んでいくと、大型のキメラの姿が遠くのほうに見えてきた。
「あれは大きいな…… なんだろう? デカいカメ? いやサイみたいにも見えるな」
「サイガメかしら?」
「そうプイね」
「見るからに硬そうだわ」
「モカ、俺たちの武器じゃ、あの甲羅を貫くのは無理だと思うんだけど」
「そうよね…… 頭か手足を狙うしかないと思うけど、カメっていうのが気になるわ」
「どういうことプイ?」
「急に身体を甲羅の中に隠すかもしれないじゃない? そうなると攻撃できなくなるわ」
「なるほど、そうなったら逃げるか」
「いや、カメって足が遅いイメージがあるけど、いざというときは意外と足が速いのよ。しかも、サイでもあるわけだし」
「勢いよく突進され、直前で甲羅にこもられたらどうにもならないな。しかも、コネクトも使うんだろうしな」
「……そうね。このくらいになると少人数だと苦しいわね。コネクトは何を使うのかしらね?」
「私も分からないプイ…… でも、カメだから、水かもプイ。昔、サイガメじゃないけど、ウシガメか何かが出て強い水のコネクトで大変だったって聞いたプイ。そんなのどうやって勝つプイ?」
「水か…… そりゃまたやっかいだな……」
「落とし穴しかないわね。できればひっくり返したいわ。でも、ヤマ、あんなに大きなキメラを落とせるほどの大きな穴をあけられる?」
「む、無理かも…… もうちょっと強くならないと」
「そっか…… ねえ、一度撤退して、入り口付近でヤマのコネクトを鍛えない?」
「なるほど。無理に進むのはやめたほうがいいね」
「賛成プイ」
初めての撤退だ。無理は禁物だ。回復魔法とかがあるわけじゃない。傷薬くらいは普通に売っていたが、それは俺たちの世界と大して変わらない話だ。大ケガを負わないようにすることが何より大切だ。
俺たちはサイガメに気付かれる前に引き返した。
その後は洞窟の入り口を目指し、キメラを倒しつつ進んだ。
入り口側には倒せないキメラがいなかったのが幸いし、無事に外に出られた。
(これから少しの間、このあたりで鍛えないとな)
キャンプの準備をしつつ、そう考えていた。




