第12話 強すぎるキメラ
その後、俺たちは入り口付近で戦えるキメラを倒し、コネクトを使える俺とクルルが主に吸収した。何泊かキャンプしながら続けたら、だいぶ強くなってきた気がする。
強くなることに集中していたおかげで、吸収で何が強くなるのか大体分かってきた。
1つは1回のコネクトの規模と威力だ。簡単に言えば、より大きな穴を作れるようになるし、吸い出す力も強くなる。コネクトが魔法だとするなら魔力が上がったようなイメージだ。
もう1つはコネクトのスタミナだ。今まで1回使うと疲れていたのが、2回、3回と使っても平気になる。こちらもコネクトが魔法だとするなら最大MPが増えるようなイメージだ。
ただし、強くなるのはコネクト能力だけだ。力とかは特別強くなる感じはしない。もちろん、普段あまり運動してなかった俺とモカにとっては普通に鍛えられたが。あくまで普通に鍛えられる範囲だ。
だいぶ強くなったと思い、試しに、洞窟の外で落とし穴を作ってみたら、結構大きなものを作ることができた。
「これならいけるかもな」
「ヤマはすごいわね。それにひきかえ私なんか、初めて会う敵との戦い方を考えるくらいしか役に立たないわ……」
「(思い詰めてるな……)でも、それが無かったら俺たち生きてないよ? それに、この洞窟のキメラの強さは普通じゃなさそうだし、きっと奥に秘密があるんだと思う。そのとき、モカに隣にいてほしい」
「うん、ありがと……」
モカの目が潤んでいる。そろそろ精神的に限界が近いのだろう。1回エーンスタットに戻るか、このまま奥に行くか……
「たしかに奥に何があるのかはすごく気になるわね。私もコネクトを使えるようになるかもしれないし!」
「おっ、なるほど! たしかにそれあるかもな!」
根拠はないけど、希望を持つのはいいことだ。モカの言うことだし、全くの当てずっぽうというわけでもきっとないだろう。
次は一気に奥まで進むことを決意し、キャンプでしっかりと休むことにした。
◇
次の日、いよいよ最奥を目指して足早に進むことにした。そのため、途中でのキメラとの戦闘も極力避けた。
奥に進んでいくと、この前撤退するきっかけになった例のサイガメに遭遇した。こいつを倒せるかはすごく重要だろう。
「ヤマ。あいつをひっくり返したいから、落とし穴を右半分、つまり右前足と右後ろ足の下、次に左半分の下っていう順に時間差で作れない?」
「なるほどな。それならできると思う」
「ひっくり返ったらすぐに頭を攻撃すれば勝てると思うわ。ひょっとしたら私とクルルはやることがないかもね」
「水攻撃がきたらどうする?」
「クルルの水攻撃で相殺したらどうかしら? 向こうもコネクトについてはクルルと相性が良くないのは同じよ」
「まかせるプイ」
「よし。あと、最後に斬り掛かったときに、危なさそうなときは声かけてくれ」
「「もちろん(プイ)!」」
俺は集中して、モカの指示通り、油断しているサイガメの身体の右半分、左半分の順番に足元の土を消し去った。
(スッ! スッ!)
(グォーッ!)
この攻撃は想定していなかったらしく、サイガメはあっさりと右から穴に転げ落ちひっくり返った。
水による反撃を警戒したが、ここでカメの要素が強く出たのか、もとに戻ろうと首を伸ばしてモゾモゾしていた。
(よし、いまだ!)
この隙にサイガメの頭に飛びかかって、ロングソードで一気に首を斬り、倒した。
「強くなったプイね!」
「そうだな。こんなのにも勝てるんだな」
「でも、油断しちゃダメよ。まだ奥に続いているんだから」
「「だな(プイ)」」
◇
さらに進み、かなり奥のほうまで来た。すると、洞窟の雰囲気というか見た目がこれまでと変わった。
「なんか雰囲気変わったな。1番奥に近づいたのかな? 壁全体がキラキラしてるけど、何か鉱石でも埋まってるのかな?」
「そうみたいね…… 位置的にはかなり湖に近いあたりのはずよ。堆積した何かかしら? それにあれは何かしらね…… ここに来る少し前から見かけたけど、大きくて鋭い爪か牙で傷付けたような跡がここは特にいっぱいあるわ。最近できた跡というわけでもなさそうだけど……」
そうモカが分析しているので、俺たちも一緒にキョロキョロしていると、離れたところにいるキメラの姿が目に入った。
明らかにこの洞窟のボスと言って良い風格だ。
「あれは…… 絶対強いよな…… クマ? しかも立派な角が生えてる」
「クマシカといった感じかしら? ウマシカなら頭悪そうで良かったのに……」
「モカ、ウマシカを知ってたプイね! あれはたしかに頭悪いプイ」
「え…… 冗談だったんだけど…… ま、まあ、それはともかく、あの角のせいで首近くへの攻撃もガードされやすいから注意しなくちゃね! でもおかしいわね。壁にある傷を付けたキメラにはとても見えないわ……」
モカが怖いことを言い出すが、今は目の前のキメラに集中する必要がありそうだ。
「クルル、あいつのコネクトが何か分かるか?」
「分からないプイ……」
「岩……だと思うわ」
「「?」」
「このあたりだけ、岩の破片が多く散らばっているでしょ。あいつがいるからじゃないかしら。壁の傷をつけられるようなコネクトがあれば別だけど」
「なるほど……」
「さすがプイ……」
「強そうだけど、逃げずに戦うよな?」
「クマは背中見せたら襲ってくるから、もう逃げられないと思うわよ……」
「「!」」
たしかにクマシカはこちらに気付いている気もする。モカの言葉に俺たちは覚悟を決める。
◇
俺たちはクマシカと十分な距離を保ち、にらみ合ったまま膠着状態だった。いい作戦が浮かばないからだ。
「正確な攻撃パターンは分からないけど、近づかれて角や前足で攻撃されたり、噛みつかれたりするとマズいと思うわ。でも、突進して近づいてくると思うの」
「やっぱり落とし穴?」
「カメじゃないし、シカなら簡単に上って出てくるわよ」
「どうしたらいいプイ? 水のコネクトで吹っ飛ばせる自信は無いプイ……」
今までの作戦は通用しなさそうだ。厄介な組み合わせのキメラだ。俺のコネクトで何とかできないか?
「俺のコネクトで落ちてる岩の破片を使うか。それか、火を目に当ててみるか」
「火を目に当てるのは良さそうね。ただ、ひるむだけでしょうから、その後倒せるだけの攻撃力が必要だわ。それに……」
「それに?」
「たぶんだけど、ヤマのコネクトは最後の切り札になると思うの」
「?」
「だって、他の誰も見たことないのよ。あいつだって見たことないんじゃないかしら」
「なるほどな。たしかにこれまでも落とし穴は皆ハマってくれたしな。予想すらしてなかったんだろう。でも、有効なのは最初の1回だけか……」
「そう。それにこれだけ岩が落ちているということは、このあたりのキメラと戦っているということ。たぶんヤマのコネクト以外は決定打にならないわ」
「問題は、最後にトドメを刺す攻撃だな……」
周りを見回して使えるものがないか探したがめぼしいものはなさそうだ。それはモカも同じようだ。
「うーん…… いい作戦が浮かばなくてごめんなさい…… とにかく、それが浮かぶまで攻撃を食らわないこと、これが1番大事だわ」
「モカのせいじゃないさ。距離を取って考えながら戦うしかないさ。きっと何かいいやり方があるさ」
悩んでいる間に向こうは戦う気になってしまったらしい。ついに、真ん中にいた俺にすごい勢いで突進してきた。
(ダダダダダッ)
「きたぞ!」
「食らえプイ!」
(ズザーッ!)
クルルが俺の左から鍛えた巨大水鉄砲を炸裂させた。さすがに少しは当たるだろう。そう思った俺たちはバカだった。
(ピョン!)
なんとクマシカは天井に届く勢いの高いジャンプでかわしたのだ。
「うそっ!? 反対側に逃げろ!」
ジャンプが高過ぎたおかげで、ぐるりと回り込みながら回避して先ほどと逆サイドになる形で距離を取れたが、次はどうなるか……
あんな風に水鉄砲を回避できるやつに真っ向勝負で勝てる気はしない。
一方、クマシカは先ほどの攻撃でクルルを危険モル人と判断したようだ。明らかにクルルをにらんでいる。むやみに突っ込むと危ないと思ったのか、すぐには突進してこなかった。
こいつ、賢い……
「どうする? モカ」
「近くで当てるか、不意打ちで当てるかしかないわよね…… かなり難しいわ」
「向こうもクルルの水のコネクトを警戒してるな」
「そうみたいね。かなり賢いみたいよ」
「どうするプイか…… このままだと水攻撃は当たらないプイね」
「わざと突っ込ませて、さっきみたいに回避させて、空中にいる間にもう一発水を当てるとかはどうだろう?」
「いいプイね」
「たぶん、ダメね。あいつはそれを警戒して突っ込んでこないんだわ。水の威力を見て、空中にいるときが1番弱点になると分かったのよ。さっきはたぶん驚いて高く跳んで逃げたんだわ。次は違う回避のやり方をするはずだわ。回避する方向にいる私たち両サイドのコネクトが何か分からないから警戒しているんだわ」
「なるほどな……」
「私のミスよ…… あの1回がチャンスだったのに。シカなら跳べることに気付いていたのに……」
「モカのせいじゃないさ。モカがいなけりゃ、俺たちとっくに死んでる」
「そうプイ!」
「でも、突っ込ませて対抗する以外に方法が浮かばないわね……」
「プ……」
覚悟を決めたのか、クルルがメイスを取り出した。水のコネクトが効かないから物理攻撃を選んだように見せたのだ。
それを見たモカもダガーを取り出す。投げて隙を作るつもりだな……
目で会話し、俺もロングソードを取り出す。
クマシカの正面にクルル、両サイドに俺とモカ。たまたまだが、剣と短剣を投げるにはいい配置だ。
クマシカは武器相手なら余裕がありそうだ。警戒してにらんでいるクルルに突っ込むだろう。そう思った。
――そう思ってしまった……
◇
クマシカは思った通り、クルルに突っ込み始めた。
(ダダダダダッ)
両サイドの2人が武器を投げてクルルの水のコネクト発動の隙を作ろうとした瞬間、急にクマシカが止まった!
「まさかっ、ブラフチャージ! えっ? 違う!」
モカが叫んだ。
俺とクルルはブラフチャージ――威嚇突進――っぽい動きに完全にだまされ、固まってしまっていた。
モカだけが、クマシカの真の目的に気が付いたようだ。
「クルル! 逃げて! お願いっ!」
「プ?」
「へっ?」
次の瞬間、クマシカは巨大な岩のコネクトを発動させた。
ブラフチャージを威嚇目的ではなく、目くらましに使ったのだ!
俺の視界がスローモーションになる。
驚き固まってしまっているクルルのほうにモカが突っ込む!
そこに巨大な岩が降ってくる!
もう間に合わないっ!
(ドォーン!)
凄まじい音と砂煙が上がった……
(そんな……)
絶望し、全身の力が抜けそうに……




